料理の面白さを科学的に紹介する味博士が、味覚や食の科学に関するニュースを紹介します。
玉ねぎを加熱するとき、あなたが使うのは電子レンジですか?それとも…フライパンですか?「本当はレンジでチンしてさくっと終わらせたいけど、甘さを引き出したいから何十分もかけて炒めている」そんなかたもいらっしゃるのではないでしょうか。
かくいう私もフライパン派でした。そう…この結果を見るまでは。
今回は電子レンジ調理と炒め調理、どちらが野菜の甘味を引き出してくれるのかを味覚センサーで検証しちゃいます!
それではの検証を始めます。用意したのは以下の4つ。
今回は欲が出て、他の野菜でも試したくなったため玉ねぎのほかにブロッコリーも用意してみました。
検証に使用したのは味博士のペット、味覚センサーレオ。味覚センサーレオは人間の味覚を模したハイテクセンサーで、ヒトが食品を食べたときの「うーん、おいしい!」というコメントをわかりやすく数値で表してくれます。
では早速、検証を実施してみましょう!
まずはレンジでチンした玉ねぎと炒めた玉ねぎを比較。基本5味(甘味・旨味・苦味・酸味・塩味)をチャート形式で表してみます。
わかりやすくレンジの圧勝ですね。誰がどう見ても甘味が特出しています。甘味が強くなっているためか、苦味も抑えられているようです。
次にレンジでチンしたブロッコリーと、炒めたブロッコリーの比較です。
こちらもレンジ調理の甘味が有意!旨味の数値も炒め調理より高くなっており、全体的な味の濃さが増している様子がわかります。
両者の甘味増加分を見てみると…
やはり電子レンジ調理が特出。こちらは0.2ポイント以上で95%の人がわかるほどの有意差になります。つまり割と誰が食べても「レンジ調理のほうが甘い」ということをはっきり感じ取れるのです。
野菜は一般的に加熱によって繊維細胞が破壊されることで甘味が引き出されます。また、水分が除去されて味が凝縮されます。
つまり、加熱によって野菜の甘味自体が上昇しているのではなく、甘味成分が外に出てきて舌に触れやすくなるために、甘味を強く感じるようになるのです。玉ねぎは生の状態では辛味成分が強いのですが、加熱により辛味成分が分解されてなくなるため、本来の甘さが出てきます。
炒め調理に比べて電子レンジ調理の甘味が高いのは単純に「味が溶出しないから」という理由です。レンジ調理のほうが出てきた甘味成分が外に逃げず、強まった味を食品中にぎゅっと濃縮してくれるのです。
また、炒め調理は食品の表面だけを加熱するため熱が伝導する速度が電子レンジに比べて遅く、かき混ぜることによって細胞が壊れていくために甘くなるので、長時間の炒め調理+こまめなかき混ぜが必須です。
それに比べ、電子レンジ調理はマイクロ波のエネルギーが直接食品内部で熱エネルギーに変換され、食品中の水分を振動させて加熱されます。そのため勝手に繊維細胞を壊して甘味を引き出してくれますし、内部から水分が除去されるので味も強く感じられます。短時間ででき、放っておいてもOKなのが嬉しいですね。
電子レンジのほうが調理も楽チンだし甘くなる…。これはもう電子レンジ調理を採用するしかありません!
しかし電子レンジではメイラード反応やカラメル化による香ばしい風味は得られませんので、フライパン調理も捨てがたいです。調理器具は料理に合わせて賢く使いましょう♪
参考: 玉ねぎの豆知識 おいしさを科学する「加熱」
味覚研究家。AISSY株式会社代表取締役社長 兼 慶応義塾大学共同研究員。味覚を数値化できる味覚センサーを慶大と共同開発。味覚や食べ物の相性の研究を実施。メディアにも多数出演。ブログ『味博士の研究所』で味覚に関するおもしろネタを発信中。