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コラム

心落ち着く懐かしい音――甘えん坊の娘とおんぶと「千切り」の話【おいしい思い出 vol.14】

クックパッド初代編集長であり、自他共に認める料理好き・小竹貴子のエッセイ連載。誰にでもある小さな料理の思い出たちを紹介していきます。日常の何でもないひとコマが、いつか忘れられない記憶となる。毎日の料理が楽しくなる、ほっこりエピソードをどうぞ♪

千切りが大好き

キャベツとにんじんを使ったコールスローサラダ、ごぼうと人参とこんにゃくを使ったきんぴらごぼう、春雨サラダ、冷やし中華、とんかつに添えるキャベツ……。これらのお料理に共通するのは、千切り。

ちょっとおかしいと思われるかもしれませんが、私は千切りが趣味です。薄く、細くサイズを合わせて切れると、この上ない幸せを感じるのです。

日々使う包丁を、毎週砥石を使って丁寧に研ぐのも、きれいな包丁は千切りがとても楽しいからというのが理由です。千切りがなければほったらかしです。

娘にとって千切りの音は子守唄

千切りが趣味と言えるようになったのは、長女が生まれてからですから10年前のこと。

今も変わらないのですが、長女は甘えん坊の寂しがりやさん。首が据わり、生後半年くらいから1歳ちょっとくらいまでですが、どんな時でもママにべったりひっついていないとイヤイヤしてしまう子どもで、家にいる時はママから少しでも離れるとご機嫌斜めでぐずったり、大声出して泣いちゃう娘でした。一緒に遊んでいない時は抱っこ、ベビーカーもなぜか大嫌いなので、外出時も抱っこをせがみます。

今となっては本当に懐かしいのですが、毎日保育園から帰り、家族の晩ごはんの用意をしている時は、終始おんぶをおねだり。そして、仕事から帰るなりずっとおんぶ紐を付けて過ごしていたので、私はまるでアニメ『巨人の星』に登場する主人公・星飛雄馬よろしく大リーグ養成ギプスを装着しているような毎日でしたね。

小さな赤ちゃんをおんぶして包丁を使うというのは、一般常識的には間違いなく危険なのでしょうが、そうしないと泣いて足にしがみついて離れず、それはもっと危険。さらに大声で泣いてしまうので、ご近所さんにもとても迷惑になっちゃいます。やむを得ない状況ではありました。

ある日のこと、いつも通り娘をおんぶしてキッチンに立ち、晩ごはんの用意をしていました。確か、きゅうりとわかめのサラダを作っていた時でしょうか。きゅうりの千切りをしていると、まな板のトントントンという音、ほどよく揺れる私の体のリズムが心地良かったのか、おんぶをしている私の背中で娘はすっと寝てしまったのです。

お!やっと寝てくれた!」。よし、寝てしまえばこっちのものと思い、背中を解放したいという一心でそーっと静かにベットに連れていき、そーっと寝かせてみました。すると目がぱちっと開いて泣き始めました。……寝かしつけ失敗です。

私は小さなため息をつき、もう一度おんぶをし直して、途中になっていた千切りを再スタート。すると、あれ? またすぐにスヤスヤと娘は眠りについてしまいました。寝息をたてて、本気で眠り込んでいる感じですので、しめしめと娘をベットに連れて行くと、再び寝かしつけ失敗……。

そんな作業を繰り返すこと数回。結局は、お料理が完成するまで娘は私の背中で千切りの音を子守唄に寝ていて、私は娘をおんぶして立ったままでご飯を食べることになりました。

ただ、うちの娘は千切りをしていると寝てくれることに気づいた私は、それを機会に子どもの寝かしつけのためにと、晩ごはんに野菜の千切りをする日が増えていきました。

そんなおんぶで千切りという苦悩の日々を過ごしたおかげでしょうか、千切りにした野菜を使ったお料理レパートリーはかなり多いです。子どもが寝てくれるならという一心で、何でもかんでも千切りにしていましたから当然です。

確か、当時は味噌汁の具材も千切り野菜を使ったものが多かったと思います。どうにも切りすぎた時には、ジップロックに入れて保存。野菜室にはたくさんの千切り野菜が入っていました。

さらに、下の娘も長女以上の甘えん坊でしたので、料理中は再びおんぶ生活。そして、またまたおんぶしている時に同じ戦法を使って寝かしつけてみると、これまた成功。

ということで、この甘えん坊の娘たちのおかげで私の千切りスキルはかなり高くなった気がします。

夜中の千切りはマインドフルネスの時間

半年ほどのおんぶ生活を経て、2人の娘は10歳と6歳に成長しましたが、今でも千切りは私にとっては大事な仕事として習慣化している気がします。

夜中、家族が寝静まり、テレビの音も聞こえない静かなキッチンでトントンと千切りをしていると、日々の疲れやもやもやを忘れることができるんですよね。その時は携帯電話もオフです。

夜遅く会社から帰ると、洗濯物を畳んだり、娘たちが散らかした部屋の片付け、休む間もなく家の仕事に忙殺されています。気持ちをちょっと休ませたいのかもしれません。

家族がそろう朝ごはんに、やたら千切りのお料理が並ぶと、娘たちは毎回「いつもママの野菜はめちゃ細!大変じゃないの?」と母の気持ちも知らず、よく私に言い放ってくれます。

「2人のおかげで上手になったんだよ」とか、「千切りは私のささやかなストレス発散なんだよ」って言ってみますが、「ん?? 何言ってんの?」的な表情で毎回不思議そうに見返されます。

まぁ、いつか娘が大きくなってママになった時に、こんな私の気持ちをわかってくれる日が来るのでしょうね。それまで待つことにします。

小竹貴子

クックパッド株式会社ブランディング・編集部担当本部長。1972年、石川県金沢市生まれ。関西学院大学社会学部卒業。株式会社博報堂アイ・スタジオを経て、2004年に有限会社コイン(後のクックパッド株式会社)入社。編集部門長を経て執行役に就任し、2009年に『日経ウーマン・オブ・ザ・イヤー2010』を受賞。2012年、同社退社。2016年4月から再びクックパッド株式会社に復帰。現在、日経ビジネスオンラインにて『おいしい未来はここにある~突撃!食卓イノベーション』、ヘルスケアメディア『Rhythm (リズム)』にて『マラソンチャレンジ連載企画』を連載中。また、フードエディターとして個人でも活動を行っている。

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