クックパッドで検索されているワードや現代の食ブームは、実は全部「科学的」だった!? 分子調理など食を科学的に分析・研究しているクックパッド食みらい研究所 特任研究員・石川伸一先生が、料理と科学のおいしい関係を解説します。
クックパッドの検索キーワードを分析すると、「カレー」という言葉と一緒に、最も多く検索されるのは「リメイク」というキーワードです。
カレーは、日本の国民食ともいえるほど、みんなが大好きな食べもの。カレーを作るときは大きな鍋に、数日分たっぷり作るという家庭も多いはずです。しかし、いくら大好きとはいえ、食べ続けると「飽きる」のが人間。どうにか飽きずにカレーを食べようと「リメイク」して、違う味に変化させたいと願うのです。そこで、人間がワンパターンな食事に飽きてしまう理由を考えていきたいと思います。
栄養学的な観点で考えると、人が「飽きた」と感じるのは、単調な食事が続くことによって栄養が偏るのを防ぐためという理屈が考えられます。
しかし、いくら栄養バランスがパーフェクトな献立だとしても、同じものを毎日食べると必ず「飽き」がやってきます。そこで、心理学や行動科学の分野では「人の脳には、食べものに変化を求める欲求が、生まれながらに備わっているのではないか」という、おもしろい仮説が提唱されています。
パンダはササの葉しか食べない単食性動物であるのに対し、人間はいろいろなものを食べる雑食性動物です。雑食性動物は、慣れ親しんだものが入手困難になっても、別のものを食べて生き延びることができます。しかし、新しい食べものに毒性があった場合、最悪死に至る危険とも隣り合わせです。私たちは新しい食べものへの恐怖と好奇心を同時にあわせ持つ雑食性動物であるがゆえに、定番のものをおいしいと感じる一方で、変わったものも食べてみたいというジレンマを抱え続けているのです。
私たちは、大好きなカレーをなんとか飽きずに食べ続けるために知恵を絞り、カレーを「リメイク」するという方法を思いつきました。大量に作ったカレーも、カレーうどんやカレーパン、カレードリア、カレーオムライスなどへ変化させることで、「ちょっと変わった新しいもの」を食べたいという欲求を満たしているのでしょう。「カレー×リメイク」で検索するという何気ない行動の中に、実は、人間の本能が隠れているのかもしれませんね。
石川 伸一(いしかわ しんいち)
福島県生まれ、博士(農学)。宮城大学食産業学部准教授、クックパッド食みらい研究所 特任研究員。専門は分子食品学、分子調理学、分子栄養学。主な研究テーマは、鶏卵の機能性に関する研究。『料理と科学のおいしい出会い 分子調理が食の常識を変える』(化学同人)、『必ず来る! 大震災を生き抜くための食事学』(主婦の友社)ほか著書多数。