料理の長寿番組「きょうの料理」(NHK・Eテレ)で40年以上にわたって、お茶の間に料理を伝え続けている、“ばぁば”こと、鈴木登紀子さん。今年91歳を迎える、現役最高齢の料理研究家です。そんな、ばぁばが自宅で開催している「鈴木登紀子料理教室」は、北は北海道、南は九州まで日本全国から生徒が参加する、超人気の料理教室。今日は、その料理教室の様子を詳細にリポートしていきます!
一般的な料理教室とは違い、生徒たちが実際に包丁を握って調理することはありません。あらかじめ献立表と作り方が配られ、生徒たちは、ばぁばが目の前で調理をする様子を見て覚えるのです。楽しいおしゃべりとともにすすむ様子は、まさに“お稽古劇場”。中には、ばぁばの鮮やかな手さばきをスマホで撮影する生徒もいます。
軽快なおしゃべりのなかには、「いいですか、お口に入るサイズというのは、昔から一寸。お料理がそれより大きいと、いただきにくいの」と、食べる相手のことをおもんばかる“もてなしの気持ち”が随所に散りばめられています。
「小松菜はね、小松川の方でたくさん採れたから小松菜っていうのよ。」「まいたけは、昔、山の中で大きな株を見つけて、舞い踊るほど嬉しかったから、この名前なのよ」と、食材名の由来も時おり交えながら、軽妙なトークが続きます。
さらには、「さんまは、魚屋さんでおろしてもらうといいわよ。そのときは『三枚におろして、腹骨をすきとってください』とお願いしてね。それでわかるから。」と、実際に買い物にでかけたときに役立つアドバイスも。
“音”で料理の状態がわかるというばぁば。料理教室の間もアシスタントさんに「火が強くない?その音」と指摘するなど、五感を研ぎ澄ませて料理に集中しているのが感じられました。
作り方を説明したあとは、隣のダイニングで、いよいよ実食!
「あさイチ」(NHK)でも紹介された「さんまご飯」は、炊きたてのご飯に下味をつけた生のさんまを混ぜ込みます。ご飯の熱で表面だけ熱が入り、半生になったさんまが絶品。
「さぁ、熱々を召し上がって。お隣のかたを待たなくてよろしいのよ。『お先に』でね」というのが教室のルール。こんなところにも、一番美味しい“出来たてを味わってほしい”という、食べる人へ思いが表れています。
教室開始から3時間あまり、一度も腰かけることなく、手を止めることなく…90歳とは思えないタフさに驚かされました。
最後に、クックパッドニュースの読者のかたへ、ばぁばからメッセージをいただきました。
「若い方たちに覚えていただきたいのは、まずは“旬”を大事にするということね。お店で山積みになっているものが旬の食べ物。それを使ってお料理するのが、安く美味しい料理を作る一番のコツよ。だから、その季節ごとに一番おいしいものを選ぶ“目利き”になることが大事なの。」
「基本を知らずに上手な手抜きなどありません。きちんと正しい作り方を知ったうえで、段取りよくお料理したり、食材を使い回す知恵をつけることが大切なの。野菜の茹で方ひとつだって、“根菜は水から、葉野菜は熱湯から”と覚えておければ、いちいち作り方を調べる必要もないのよ。余りそうな材料は、あらかじめ茹でておいたり、塩もみして保存すれば、ちょっと料理に添えたりできて便利なの。手ばかり、目ばかりって言ってね、両手いっぱいの野菜はだいたい300g、小さじ一杯のお塩は5gと覚えておくと、いちいち量らなくてもだいたいの分量がわかるようになるわよ。料理が上達して段取りがよくなれば、それが時短につながるのよ。」
「“美味しいものを食べたいから、失敗したくない”と思うと、緊張感が生まれるの。音を聞いたり、においを嗅いだり…五感を働かせて、緊張感をもって料理することが大事。それがお料理上手への道ね。」
食べることは生きること。そう語るばぁばの料理は「美味しい料理で家族を喜ばせたい」という思いにあふれています。みなさんも、家庭料理の楽しさと大切さを改めて見直してみませんか?
「ばぁばの料理」最終講義
鈴木登紀子・著
定価(本体1,400円+税)
ごく普通の主婦だったばぁばが、料理研究家としてデビューしたのは46歳のとき。「きょうの料理」への出演は50歳からというロングラン。6年前に最愛の夫・清佐さんを亡くして以来「今も寂しくてね…。お料理しているときだけ寂しくないの」というばぁばが、料理研究家としての人生すべてを語り下ろした本です。厳選した料理20点のレシピつき。