料理の裏ワザには、驚きだけでなくちゃんとした理由がある!その理由を、料理研究家・関岡弘美さんが、クックパッド食みらい研究所 特任研究員・石川伸一先生に徹底取材します。
料理研究家の関岡弘美です。料理の「裏ワザ」と呼ばれる意外なテクニックが成立する理由を解明するこのコーナー、第6回目のテーマは「厚切り肉を柔らかくする裏ワザ」。今回も、みなさんに代わって裏ワザの裏側にある、科学的な理由を解き明かしていきたいと思います。
クックパッドニュースでは、お肉が柔らかくする数々の裏ワザをご紹介してきました。以前のコラム記事では、「塩水に漬ける」ことで肉の保水力がアップしジューシーになるという裏ワザを検証しました。
また、日本酒やコーラなどに漬け込むことで、安いお肉を柔らかくする実験も行ってきました。
この実験でわかったのは、日本酒やコーラが肉を柔らかくする共通の理由が、pH(ピーエイチ)値が低い「酸性の液体」であるということ。そこで、酸性の液体に漬け込むことで、どれくらいお肉が柔らかくなるか、実験してみました。
酸性、アルカリ性、中性(水)の3種類の液体にに漬け込んだときの、肉の変化を実験してみたいと思います。
用意するもの
豚ヒレ肉(ブロック)
クエン酸
重曹
※重曹、クエン酸は食用のものを使用します
酸性溶液として水にクエン酸を混ぜた「クエン酸水」、アルカリ性溶液として水に重曹を混ぜた「重曹水」、普通の水=中性溶液を用意し、同じ大きさに切り分けた豚ヒレ肉50gを漬け込み、24時間冷蔵庫でおきます。
水けをふき取り、塩こしょうした肉を、フライパンで加熱しました。
片面を2分ずつ、両面を焼き、ふたをして5分蒸し焼きにして、中まで火を通します。
焼きあがった肉を半分に切って、断面を見てみました。
クエン酸水に漬けた肉(4、5)は、表面がまるで脂身のようにとろりとしていて、違う肉のよう!濃いクエン酸水に漬けた肉(5)のほうが、とろりとした部分がより多くなっています。
食べてみると、まわりがとろりと溶けたように柔らかく、中心はしっとりとなっていました。とろりとした部分は、酸がたくさんしみているようで、かなり酸っぱい印象です。
重曹水に漬けた肉(1、2)は、肉の間にスポンジのように空気穴が細かくたくさん開いています。濃い重曹水に漬けた肉(1)のほうが、より細かくたくさんの穴が開いているのがわかります。
食べてみたところ、どちらもふんわりと柔らかい食感。脂身のないヒレ肉とは到底思えないふわふわ感です。味わいには、特に大きな変化は見られませんでした。
普通の水につけたもの(3)は、ぎゅっと身が縮んで硬くなり、きしきしと音をたててかみしめるような食感でした。
重曹水やクエン酸水に漬け込むと肉が柔らかくなる理由について、宮城大学の石川先生にうかがいました。
ー重曹水とクエン酸水につけた肉が柔らかくなった理由を、それぞれ教えてください。
「重曹水に漬けた肉にスポンジ状の穴があいたのは、アルカリ性の液体は、筋肉の線維の結合を弱め、線維と線維の間の空間を大きくさせる作用が大きいからだと考えられます。
いっぽう、クエン酸水に漬けた肉がとろりと柔らかいのは、酸性の液体に含まれる酸が筋肉組織を弱め、線維と線維の間の空間が大きくなり、結果としてより多くの水分を蓄えることができるようになったためではないかと推察されます」
−お肉を柔らかくするのに役立つ、身近な調味液はなんですか?
「pHの高いアルカリ性の調味液というのが実はあまりないので、pHの低い酸性の調味液を使うのが現実的だと思います。ハチミツ、コーラ、日本酒、白ワイン、ヨーグルト、牛乳などが、肉を柔らかくする酸性の液体かつ、味を整えるという面でもおすすめでしょう」
何気なく使っている下味の調味料も、その効果が分かれば、さらに応用が広がりますね。いつもの料理に活用して、ジューシーな肉料理で家族をあっと言わせてみましょう。
石川 伸一(いしかわ しんいち)
福島県生まれ、博士(農学)。宮城大学食産業学部准教授、「クックパッド食みらい研究所」特任研究員。専門は分子食品学、分子調理学、分子栄養学。主な研究テーマは、鶏卵の機能性に関する研究。『料理と科学のおいしい出会い 分子調理が食の常識を変える』(化学同人)、『必ず来る! 大震災を生き抜くための食事学』(主婦の友社)ほか著書多数。
出版社にて食育雑誌の編集に携わった後、渡仏。 料理、製菓等を学び、レストラン、パティスリーで研修後、帰国。 雑誌、広告等を中心に活動するほか、都内でおもてなし料理とワインの教室を主宰。ブログはこちら