クックパッド初代編集長であり、自他共に認める料理好き・小竹貴子のエッセイ連載。誰にでもある小さな料理の思い出たちを紹介していきます。日常の何でもないひとコマが、いつか忘れられない記憶となる。毎日の料理が楽しくなる、ほっこりエピソードをどうぞ♪
私は、この質問をするのがとても好き。なぜかというと、私の質問に対して答えをくれる、まさにその話をしている時の相手の表情、そして私を含めそれを聞いている人の表情が、間違いなく幸せそうな笑顔になるから。
そこで出てくるお料理というと、小さい頃、誕生日に作ってもらったお父さんのお手製ハンバーグ、お母さんの作ってくれた遠足のたらこおにぎり、亡くなったおばあちゃんのおはぎ。
これまでいろいろな人に、この質問を何度したかはもう数えきれないくらいなのだけど、なぜか話が同じだったことが一度もない。思い出というのは無限大なんだなと改めて感じる。
たまに料理をしていると、「そういえば、このお料理というと、あの人の話が面白かったな」とか思っちゃって、それだけでほっこりとした気持ちになる。お料理を食べながら、そんな話をして盛り上がったりする。
どこの誰にでもある、とっても小さな家庭の料理ストーリー。この話だけは、いくら聞いても本当に飽きない。
とはいえ、もし、私がその問いをされたならば? 何を答えるのか少し考えてみたのだけれど……「え? いつの思い出がいいですか?」とか聞いちゃうかもしれない。
クックパッドで初めてつくれぽをもらった大根と人参のお漬物、もう亡くなってしまった大叔母が作ってくれたスイートポテト、大学に入学して初めての一人暮らしで作った麻婆豆腐。話し出すといくらでも料理についての思い出が出てくる。
この連載では、誰にでもある小さな料理の思い出を書いていきたいなと思います。
5年くらい前のこと。ある雑誌の取材で、「働くママのつくるお弁当」といったテーマだったと思うが、自宅でインタビューを受けた時のお話。
お料理の撮影、そしてインタビューを終え、最後にみんなでごはんを食べながら、今日の撮影を振り返っていた時、当時5歳の長女がここぞとばかりに「うちのママのお弁当美味しいんだよねぇ」と嬉しそうにライターの方に語りかけていた。
なんと親思いで、場の空気が読めるいい娘! 本当にいい子だ、泣けると思っていたら、ふとライターの方が娘に「ももちゃん(娘の名前)、ママのお弁当のおかずで何が好き?」と問いかけ、娘が即答したお料理の名前がもう忘れられない。
なんと「ちくわきゅうり!」。当然のように、その場が爆笑の渦に包まれた。。。
レシピを紹介するまでもないが、一応作り方を紹介しておくと、ちくわきゅうりとは、ちくわの穴の中に縦に四等分したきゅうりを刺して、食べやすい大きさに切ったもの。ちくわは魚のすり身からできていて、噛めば噛むほど甘みがでる。以上、これだけ(笑)。
もう少し詳しく言うと、きゅうりを入れるのがスタンダードなら、たまにプロセスチーズを入れたり、沢庵を入れたり、マヨネーズやめんたいこを入れるアレンジもあったりする。とはいえ、調理時間はわずか数分。忙しい朝に美味しくて簡単で、程よく隙間を埋めてくれる最高のおかずだと思っている。
きっと誰に聞いてもちくわきゅうりは本当に美味しいと言うし、私も夜な夜な仕事をしながらハイボールと一緒に食べたりもする。ということで、貴重なおつまみ要員でもある。
娘がちくわきゅうりと言ったのは、多分笑いを取るためではなく本心から言ったんだろう。
子どもって本当に正直で、美味しいものをよく知っている。お母さんがお料理上手だから、手の込んだものが美味しいと言った方がいいなどという気遣いもない。一瞬私は「え?」と思ったけど、なんか心からの本音を聞けたことがちょっと嬉しいなとも思った。
何を手料理とするかという議論はあるけど、愛情がこもってると自信をもって言える料理なら、私にとっては大切な手料理だと思う。自分が思えばそれでいい、もう主観でいいと思っている。
娘とよく料理の話をするのだけど、仕事から帰ってきて、バタバタと残り野菜で作るチャーハンとかも好きだったりするし、学校から帰ってきて、娘が自分で冷凍ご飯をレンジでチンしてお気に入りの醤油をかけて食べる卵かけごはんも好きだったりするし。これも私にとっては大切な手料理。
レストランで食べたり、買ってきたお料理も美味しいけど、やっぱりそれが続くと何だか飽きてくる。時間がなくても、ぱぱっと作る方が何だか心がホッとする。やっぱり私は手料理が好き。
ちくわきゅうりも、娘からするとママの手料理。でもそれでいいと思う。
クックパッド株式会社ブランディング・編集部担当本部長。1972年、石川県金沢市生まれ。関西学院大学社会学部卒業。株式会社博報堂アイ・スタジオを経て、2004年に有限会社コイン(後のクックパッド株式会社)入社。編集部門長を経て執行役に就任し、2009年に『日経ウーマン・オブ・ザ・イヤー2010』を受賞。2012年、同社退社。2016年4月から再びクックパッド株式会社に復帰。現在、日経ビジネスオンラインにて『おいしい未来はここにある~突撃!食卓イノベーション』連載中。また、フードエディターとして個人でも活動を行っている。