「お酒の締めにお米を食べようとすると、お腹がいっぱいで食べられない」。そんな声を聞くことがあります。ならば、お米を食べながら、お酒を楽しむのはどうでしょう? 思わずお酒が呑みたくなるようなお米料理、名付けて「つまみめし」。お酒の肴になるだけでなく、子どももおいしく食べられる楽しい“日常酒飯”ライフを、お米ライター・柏木智帆がお米のコバナシとともにご提案します。
新米の季節。店頭では「新米」ののぼり旗や、新米シールを貼った米袋を見かけるようになりました。店頭では「新米ですからおいしいですよ」という売り文句を聞くこともあります。確かに、「新米=おいしい」というイメージが定着していますが、果たして本当に新米はおいしいのでしょうか?
私が米作りをしていたころに収穫したての新米を食べたところ、旨みが薄く「昨年のほうがおいしかった…今年はだめだ…」と、がっかりしたことがあります。ところが、収穫から3カ月ほど経った年明けになると、前年産のように旨みが濃くなってきたのです。
「新米」と呼ばれる時期は、現在の米業界では12月31日までが一般的。そのため、年が明けると店頭では「新米」ののぼり旗が下げられ、「新米」シールを貼った米袋を見かけなくなります。ということは、おいしくなるのは新米じゃなくなってから…ということ?
さまざまな料理人や米屋や米農家に聞き回ってみたところ、「新米がおいしいというのは先入観」「新米は水分が落ち着いていないので、味が薄い」「新米は年が明けてからおいしくなる」という声が聞かれました。一方で、「みずみずしさ」「香り高さ」では、新米に軍配が上がりました。
分かりやすかったのは、ある料理人が答えてくれた「熟成させて脂が全体に回った魚には穫れたての魚とは別のおいしさがある。お米も同じ」というたとえ。なるほど、熟成の米に対して、とれたてピチピチの米が新米というだけで、「新米=古米よりおいしい!」とは一概に言い切れないのですね。
とは言え、新米の季節になると、なぜかワクワク。炊きたてのごはんを前に、おごそかな気持ちで向き合う…というのは、私だけではないように思います。この感覚、いったい何なのでしょう?
その疑問に対して、「日本人は新米を心で食べているからです」と答えてくれたのは、稲に詳しい農学者の佐藤洋一郎さん。なるほど、「新米=おいしい」というイメージがあるのは、日本の食文化ならではの感性なのかもしれません。
炊きたての新米の香りを楽しみ、豊穣に感謝して、おかずは後回しに、まずは白ごはんだけでいただく…という風景は多くの家庭で見られるのでは。「新米を食べる日」は家庭によって違いますが、もはや日本の季節行事と言えそうです。
ちなみに、「新米」と言っても、栽培地やお米の品種などによって収穫期はさまざま。沖縄県では、なんと6月に収穫するお米もあるそうです。私が住んでいる福島県の標高が高い地域では9月中旬から稲刈りが始まりました。日本の新米の季節は意外に長いなあ…と思っていたら、近年ではビニールハウスで栽培して年明けの収穫を目指す新米もあるとか。
やはり新米は、ちょっと空気が冷たくなってきた秋の夜長に食べたいなあと思ってしまうのは、私の郷愁や慣習のせいでしょうか。
新米を白ごはんで楽しんだ翌日は、秋の味覚「秋刀魚」の炊き込みご飯を肴に、日本酒をぐびぐび。秋は「ひやおろし」の季節ですね。小さめのおむすびにすると、お酒を呑みながらつまみやすく、小さな子どもも食べやすくなります。
子どもの分は生姜抜きにしたほうが無難です。もちろん、前年産のお米でも問題ありません。よりふっくらと炊き上げるためには、浸水は2時間以上がおすすめ。水を張ったボウルなどに入れて、冷蔵庫で浸水させるのがベストです。
お米ライター。元神奈川新聞記者。お米とお米文化の普及拡大を目指して取材するなか、お米農家になるために8年勤めた新聞社を退職。2年にわたってお米を作りながらケータリングおむすび屋を運営した。2014年秋からは田んぼを離れてフリーランスライターに。お米の魅力や可能性を追究し続ける、人呼んで「米ヘンタイ」。