細菌やウイルスによる食中毒を防ぐために「加熱」は有効な手段です。でも加熱しても安心できない食中毒菌も存在することをご存知ですか?「ウェルシュ菌」もそのひとつ。加熱調理のカレーやシチューも要注意です!
家族が大好きなカレーやシチュー。これから気温が下がる冬に向けて、作る機会が増えるのではないでしょうか。このカレーやシチューが原因食品となって起こる可能性があるのが「ウェルシュ菌食中毒」です。加熱調理は食中毒防止のための有効な手段ですが、このウェルシュ菌は、少し性質が変わっています。
ウェルシュ菌は人や動物の腸管内、土壌、水中など、自然界に広く存在します。食中毒を起こすウェルシュ菌の特徴として、熱に強く、100°Cで 1〜6時間加熱したとしても死滅しない「芽胞(がほう)」を菌体内に作る性質があります。芽胞は休眠状態になって生き延びようとする形態ですが、加熱した食品の温度が 50°Cまで下がると発芽し、40〜45°Cで 最も盛んに分裂と増殖を繰り返します。
増殖したウェルシュ菌が食品と一緒に人の体内に入り、腸管内まで達すると芽胞が作られますが、このときにエンテロトキシンという毒素を作り出すために、食中毒症状を引き起こすことになるのです。
カレーやシチューなどの煮込み料理が原因食品となってしまう理由は、カレーの具材などに付着しているウェルシュ菌が加熱されたときに耐熱性の芽胞を作るためです。この芽胞が煮込み料理の冷める過程で、50°C以下の温度になったときに発芽して増殖を始めます。魚や野菜の煮ものなども原因食品となることがありますが、カレーやシチューはなかなか冷めにくく、増殖の最適温度である 45°C前後にとどまる時間が長いため、大量に増殖する可能性が高いのです。またウェルシュ菌は「嫌気性」といって、酸素がない環境を好んで増殖します。加熱でカレーやシチューなどを温めていくと、表面にプツプツと空気が出てきて内部の酸素が少なくなることも、ウェルシュ菌にとっては好都合となりますので、注意が必要です。
ウェルシュ菌食中毒の主な症状は下痢、腹痛です。嘔吐や発熱を伴うことは少なく、健康な成人は 1〜2日で回復しますが、小さな子どもやお年寄りはまれに重症化することもあるため、注意が必要です。
加熱しても死滅しないウェルシュ菌の芽胞による食中毒は、どうやって予防したらよいのでしょうか。
ウェルシュ菌は自然界に幅広く存在し、肉類、魚介類、香辛料などにも多く存在しています。一般的に食中毒予防するためには手指を清潔にする、清潔な道具を使うなど菌をつけないことも重要ですが、ウェルシュ菌に関しては、「増やさない」ことが最も大切です。発症には大量の菌が必要なため、菌が増殖する前に「調理後は早めに食べる」を徹底しましょう。できたての加熱調理品をすぐ食べるのであれば発症は防げます。
でもカレーやシチューなどはたくさん作って、翌日も食べるということも多いですよね。そんなときは保存や再加熱の方法が重要となります。
ウェルシュ菌の増殖が可能な温度帯は 12〜50°C、一番活発に増殖するのが 45°C前後です。お風呂の温度が 40°C程度ですから、意外に熱い温度でも増殖することがおわかりいただけるでしょう。この温度帯に保管する時間をできるだけ短くすることが重要になります。保存する場合はできるだけ早く10°C程度まで冷却するようにします。
具体的には、「小分け」して「かき混ぜる」のがおすすめです。小分けすれば温度が下がりやすいだけでなく、かき混ぜて空気に触れさせることで菌の増殖機会を少なくすることができます。 粗熱が取れたら、早めに冷蔵庫や冷凍庫に入れましょう。
ウェルシュ菌の芽胞は、煮沸による1〜6時間程度の加熱では死滅しません。加熱調理した食事はすみやかに冷却保存し、再加熱して食べる際には、100°C、15分間程度を目安として中心部まで十分に熱を通すことで、保存中に増殖した細菌を殺菌できます。食品をかき混ぜながらぐつぐつと沸騰した状態(100°C)で煮込めばより安心です。もちろん再加熱の場合でも、熱いうちに早めに食べることが大切ですよ。
ウェルシュ菌食中毒を予防するためには、調理した当日に食べることが基本です。可能ならできたてをすぐ、がベスト。もし調理後時間を置くようであれば、速やかな冷却と中心部まで十分に沸騰させる再加熱などのポイントを事前に確認して、秋の煮込み料理を楽しみましょう!
<参考文献>
食品安全委員会
「ウェルシュ菌による食中毒について」
「ウェルシュ菌食中毒、セレウス菌食中毒のファクトシートをご紹介します」
東京都福祉保健局
食品衛生の窓 「ウェルシュ菌」
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