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コラム

日本人はタイ米が嫌い?「平成米騒動」で長粒米が売れ残った理由【平成食ブーム総ざらい!Vol.2】

阿古真理

作家・生活史研究家。食や食らし領域が専門。

約30年続いた平成は、2019年の4月に終わりを迎えます。平成にあったさまざまな食のブームや事件を、昔懐かしいものから直近のものまで、作家・生活史研究家の阿古真理さん独自の視点で語っていただきます。

覚えていますか?「平成米騒動」

シンガポールの茹で鶏をのせた海南鶏飯、インドのピラフのビリヤニなど、今、人気のアジア飯には、パラパラした食感の薫り高い長粒米を使った料理がたくさんある。

アジア飯とは、私が8月に上梓した『パクチーとアジア飯』(中央公論新社)の執筆にあたってつけた呼び名で、日本ではやって定着したアジア料理のことである。タイやベトナムなどの東南アジア、インドなどの南アジア、中国などの東アジアの料理を指す。

数年前から徐々に始まったアジア飯のブームは、『Hanako』(マガジンハウス)が2017年9月14日号で特集を組み、NHK Eテレの『趣味どきっ!』が今年8-9月に紹介するなど、メディアで取り上げられる機会も増えている。

しかし今回注目したいのは、1980年代半ばから1990年代まで続いた最初のアジア飯ブームの渦中に起こった、「平成米騒動」である。

日本人は「タイ米」が嫌い?

それは1993年のことだった。この年は世界的な異常気象で日本も冷夏に見舞われ、台風による豪雨も多かった。特に大変だったのは北日本の太平洋側で、平均気温が例年より2~2.5度も低かった。そのため、コメの作況指数が、第二次大戦後の混乱期を除く戦後最悪の74を記録。飽食と言われた時代に、深刻なコメ不足に陥ったのだ。

この年、コメが200万トンほど足りなくなることに備え、政府はタイやアメリカなどから緊急輸入を行った。日本人の好みに合わせて開発された、ジャポニカ系のカリフォルニア米は人気だった。しかし、長粒種のタイ米の評価はさんざんだったのである。

まず、パラパラした炊きあがりは、「パサパサ」と受け取られ、独特の芳香は「くさい」と思われた。タイ米はまずいという評判が広まり、小売店でセット販売されたタイ米だけを置いて帰る客もいた。読売新聞は1994年3月16日、タイ出身の主婦が「『タイ米など犬も食べない』という日本人がいたのには驚いた」と悲しむ声を載せている。

トムヤンクンが人気を博すなど、タイ料理はあの頃ブームだったのに、なぜタイ米は嫌われたのか。それを理解するには、あの頃の日本人の食を思い出す必要がある。

「タイ米」が受け入れられなかった理由

あの頃、戦中世代がまだ50~60代、洋食すら大人になるまで食べたことがなかった人もたくさんいた。まして、物珍しかったアジア飯など知らない。独特の香りも、箸に引っかからないパラパラ感も、「こんなのご飯じゃない」と思う人がたくさんいてもおかしくなかったのだ。

グルメブームは始まっていたが、まだまだ多くの日本人は、世界各国・各地域の多様な食文化を楽しみ、受け入れていたわけではなかった

あの頃の日本人の多くは逆に、今よりずっと和食が好きだった。醤油も味噌も今よりたくさん使っていた。

和食好きを象徴するのがあの年、大きな被害を受けるまで、コシヒカリと並ぶ人気のコメだったササニシキである。あっさりした味のササニシキは、和食には合うがカレーライスやこってりした洋食にはちょっと物足りない。今や粘りが強いコシヒカリ系のコメばかりが店頭に並ぶのは、それだけ日本人が和食から離れたからでもあるだろう。

「米騒動」から30年後の今

今は、巷に増えたアジア食材店にわざわざ行って、インドの高級長粒米、バスマティライスを買い込む日本人がいる。佐賀県ではコメの消費が減る時代に生き残るため、長粒米の新品種、ホシユタカを売り出している。

私たちの嗜好は30年の間に大きく変わった。しかし、長粒米の魅力を認め、受け入れる人が増えているのは、それでもやっぱり日本人がコメを愛しているからではないだろうか。

阿古真理(あこ・まり)

©坂田栄一郎
1968(昭和43)年、兵庫県生まれ。作家・生活史研究家。神戸女学院大学卒業。食や暮らし、女性の生き方などをテーマに執筆。著書に『昭和育ちのおいしい記憶』『昭和の洋食 平成のカフェ飯』『小林カツ代と栗原はるみ』『なぜ日本のフランスパンは世界一になったのか』『パクチーとアジア飯』など。

執筆者情報

阿古真理

作家・生活史研究家。1968年、兵庫県生まれ。食や暮らし、女性の生き方を中心に生活史と現在のトレンドを執筆する。主な著書に『大胆推理!ケンミン食のなぜ』・『家事は大変って気づきましたか?』(共に亜紀書房)、『ラクしておいしい令和のごはん革命』(主婦の友社)、『日本外食全史』(亜紀書房)、『料理に対する「ねばならない」を捨てたら、うつの自分を受け入れられた。』(幻冬舎)、『料理は女の義務ですか』・『小林カツ代と栗原はるみ』(共に新潮新書)など。

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