あなたが初めて恋人に作ってあげたお料理は何ですか?【おいしい思い出 vol.3】

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クックパッド初代編集長であり、自他共に認める料理好き・小竹貴子のエッセイ連載。誰にでもある小さな料理の思い出たちを紹介していきます。日常の何でもないひとコマが、いつか忘れられない記憶となる。毎日の料理が楽しくなる、ほっこりエピソードをどうぞ♪

忘れられない、初めての料理

40代も半ばを超え、ここ最近やたらもの忘れが激しい私だけど、初めてボーイフレンドに料理を作った時のことはとてもよく覚えている。加えると、それを思い出すたびに、ちょっとあの頃の可愛かった自分を思い出して顔が赤くなってしまう。

その時の料理とは、麻婆豆腐。しかも大失敗してしまったというお話。

私は高校を卒業して、郷里から離れた大学に入学し、一人暮らしを始めるまで料理をしたことがなかった。クックパッドの初代編集長としてはあり得ないと思われるかもしれないけれど、子どもの頃は全く料理もできず、手伝いさえもせず、加えると興味も持たず、ひたすら食べるのみ。

その理由は、祖母と同居していて私が手伝う必要がなかったとか、バスケットボールに打ち込む体育会系少女だったので時間がなかったとか言ってしまえばそれまでだけど、今思い返すとそれは間違いなく言い訳。

共働きをしていた母親からは、いつもよく食事くらいは手伝いなさいとか言われていたような気もする。ただ、あれこれと難癖つけて全くやろうとしていなかった。私はまさに漫画『ちびまる子ちゃん』の主人公のような子どもだった。

高校を卒業して一人暮らしを始めると、食事は当然ながら昼は学食、夜は外食。たまに手料理が食べたいという理由から、賄いを出してもらうことを条件に家庭教師のバイトをした。

一人暮らしの部屋にあった小さなキッチンは、お湯を沸かすくらいしか使わないのでいつもピカピカだった。

「手料理が食べたい」

そんなある日、当時お付き合いしていたボーイフレンドからさらりと「貴子の手料理が食べたい」というとても恐ろしいお願いをされた。

これは最大のピンチ。彼のお母さんはお料理上手と聞いていたし、彼の中には「女性はお料理ができるもの」という思い込みもあるように見えたし。内心、大変なことになったと思いながらも、恋する乙女モードだった私は「えー、無理」とも言えず、「了解!」と軽く返してしまったのだ。

時代はようやくポケベルが普及した頃。今のようにスマホアプリを使ってクックパッドでレシピを検索!というわけにもいかず、書店に並ぶレシピ本を見ても何だか難しそうな料理が並んでいて余計混乱する。

かといって母親に電話し、「彼氏にお料理を作るから何か教えて」なんて言おうものなら、ニヤニヤしながらそれ以上に余計なややこしいツッコミが入り、茶化されるに決まっている。それは嫌だ。

ということで、料理が好きな親友に相談したところ、「男性は中華が好きだし、麻婆豆腐は簡単だよ」と。もう言われるままに、その通りにしようと安易に決めた。

ぼんやりとした味の麻婆豆腐

そして当日。彼から一人暮らしのアパートの鍵を預かり、早速キッチンでお料理開始。ご飯は炊飯器があったので、スイッチオン。これは余裕。そしてトマトときゅうりを切って、ボウルに入れて冷蔵庫へ、とここまではよかった。

メインの麻婆豆腐。豆腐とひき肉を買って、あとは混ぜるだけの麻婆豆腐の素を使うことにしたので、パッケージに書いてある説明通りに作ってみる。

しかし、あれれトロトロしていない。何だか水っぽい。何かの分量が間違っているんだろうけど、なんで失敗したのかもうわからなくなり、テンパってしまった。あぁ、困ったな…と途方に暮れているうちに、バイトを終えた彼は嬉しそうにビール片手に家に帰ってきた。

まずもうここで言い訳してもしょうがないと開き直り、実は料理はやったことがなく、今日は初めての料理だと謝った。そして味見したけど美味しくない!と伝えた。瞬間、彼は大爆笑して「まぁ、食べよう!」と言ってくれた。

調味料を合わせたりすることもなく、麻婆豆腐の素を使っていたので、失敗とはいえ食べられないくらいまずいというわけではないが、明らかにぼんやりとした味。そして無駄にかき混ぜたせいで、豆腐が完全に崩れてしまっている。自分では何とも情けない気持ちでいっぱいだったが、彼は終始笑って食べてくれた。

その後の話で言うと、彼からは「手料理作って」という言葉は一切出なくなったのだが、事あるごとにその時の話や私の表情を真似しては茶化されたことは覚えている。

数年後、その彼とは別れてしまったが、彼はきっと私が今こんな仕事をしているなんてきっと夢にも思っていないだろう。

失敗があるほど、学びがある

できれば料理は、美味しく、そして失敗なく、段取りよく作りたい。そんなふうに思う人も多いだろうけれど、でもちょっと考えてみてほしい。レストランではおそらく失敗は許されないけど、家庭料理は?

私はたまには失敗したっていいんじゃないか、むしろ失敗しちゃったほうがいいんじゃないかと思う。

失敗も、笑いにしちゃえばいい。私は今でもたまにハンバーグを焦がしちゃったり、サラダのドレッシングがしょっぱかったりすることがある。

ただ、その料理を食卓に並べた時には、夫や娘たちはよくわからないけど何だか嬉しそうな様子で、「ママ、失敗しちゃったねー」とニヤニヤしながら慰めてくれたりする。やたら上から目線で話してくるからそれも不思議だ。

料理をいつも失敗してばかりでは困っちゃうけど、失敗すると次はもっと美味しく作りたいなと思う

失敗したものを食べて、なんで失敗したんだろうと考える。そして次は間違いなく美味しくできるように頑張る。そんな繰り返しで私は料理が少しずつできるようになってきた。

話を戻すと、実はその後、結構練習もして、麻婆豆腐に関して言うと随分美味しく作れるようになった。

もう市販の素を使わなくても、何となく家にある調味料でパパッとできるようにもなったし、子どもたちが食べてくれるようにと、調味料もあれこれ試行錯誤したりして、いろいろな味のバリエーションもできるようになった。そして家族の大好きなお料理の一つになっている。

とはいえ、あの時のあの失敗がなければ、得意料理にはなってなかったかもしれない。今ふと、そう思った。


小竹貴子

Dffec93b2e01878fbff1a0f0a86003e4 クックパッド株式会社ブランディング・編集部担当本部長。1972年、石川県金沢市生まれ。関西学院大学社会学部卒業。株式会社博報堂アイ・スタジオを経て、2004年に有限会社コイン(後のクックパッド株式会社)入社。編集部門長を経て執行役に就任し、2009年に『日経ウーマン・オブ・ザ・イヤー2010』を受賞。2012年、同社退社。2016年4月から再びクックパッド株式会社に復帰。現在、日経ビジネスオンラインにて『おいしい未来はここにある~突撃!食卓イノベーション』連載中。また、フードエディターとして個人でも活動を行っている。

クックパッド編集部

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