“クックパッド芸人”を自称し、自らのキッチンに1000品以上のレシピを掲載している「藤井21」さん。1人(ソロ)で作って1人で食べるという「ソロ飯」を日々楽しんでいるそう。藤井21さん自作のおすすめレシピと、悲喜こもごものエピソードをご紹介します。第3回のテーマは「パスタ」。今回はこれまでの連載とは一味違う、甘酸っぱ〜い青春物語とともに、3つのパスタレシピをお教えします。みなさんにも思い出に残るパスタの味、ありますか?
「パスタパーティーをしよう」
大学の食堂でお昼ごはんを食べた後、午後の空き時間に何をするでもなく、二人でカフェオレを飲みながらだらだらしていた。 パスタが好きだと話した彼女に、僕は二人だけのパスタパーティーを少し緊張した面持ちで提案した。
「二人で別々のパスタを作るの、そしたらふたつのパスタが食べられるじゃん。パスタパーティーみたいな?(笑)ダメですか?」
「いいねそれ!」
【パスタを食べる時は必ず複数種類なければならない】
これは二人の共通認識だった。
子どもの頃からパスタの日はいつも何種類かが食卓に並んでいた。
ボンゴレと和風みたいに大皿に複数種類パスタが並ぶのがスタンダードスタイルだった。
「うちもそうだった!何種類も並んでないとパスタの日だーって感じがしないよね」
家庭のパスタ事情、そんな他愛もない話で二人して盛り上がった。 彼女と出会ったのは大学のゼミ。 第一印象は、黒のロングヘアーと白いロングスカートが似合う大人しい子。
ちょっと話しかけづらいかもと思ったけど話してみると案外気さくで、柔らかな笑顔が印象的だった。 数回のデートと食事を経てお互いがこの人と付き合うんだろうなと思っていた。 パスタパーティーは彼女の部屋に始めて行く為の口実に過ぎなかった。 大学入学を機に一人暮らしを始めた彼女のマンションは1Kロフト付き。細部まで綺麗に片付けられていて、未だかつて嗅いだことのない程甘やかな香りがした。
「じゃあ俺はペペロンチーノ作るわ」
「うわベタだなー」
「分かってないな、ペペロンチーノこそパスタの原点にして頂点だからね」
「何それ(笑)」
そう言ってペペロンチーノを作った僕は、暇を持て余して彼女が料理をするのを眺めていた。
「見なくていいから、なんか緊張するし(笑)」
数種類のきのこを炒めてトマトソースでコトコト煮込んでいた。
「わかったボスカイオーラだ!」
「そうなの?名前までは分かんないけどこれ好き」
程なくして出来たパスタを食卓に並べて二人だけのパスタパーティーが始まった。
「あー緊張した、いつもはもっとちゃんと出来るからね」
彼女はそう言って出来上がったパスタの味に保険をかけた。
二人で並んでパスタを一口食べて顔を見合わせ、
「なんだっけあの給食でよく出てたやつ?」
「あーあのやわやわの・・・」
「「ソフト麺っ!(笑)」」
緊張したという彼女が作ったパスタは、麺はややオーバーボイル気味だったし、その麺がさらにトマトソースを吸ってかなり柔らかくなっていた。 「ウケるね」 「確かに」 まるでソフト麺の様な食感の太いパスタに二人して笑った。 それでも二人で食べる柔らかいパスタはなぜか美味しかった。 その日二人の関係は恋人に変わった。 やがて二人でパスタパーティーをした彼女の部屋で一週間の半分を過ごすようになっていた。
しかし往々にして甘やかな日々は長くは続かないもので、一度すれ違うとそこからはズレていくばかりで修正が効かない。 何度目かのお互いの誕生日が過ぎた頃、彼女は別れを切り出した。 そういうのって突然に、とか言われる事が多いけど僕も何となく気づいていた。
「お腹空いてない?まだパスタがあったよね」
多分もうこの部屋で二人でご飯を食べる事は無い。そう思った僕はなぜか努めて明るく振る舞った。初めてこの部屋で二人で食べたのもパスタ、最後に食べるのもパスタ。
【パスタを作る時は複数種類なければならない】
―――冷蔵庫を開けるとそこにあったのはニラだけ。
これじゃ一種類しか作れないな…僕が作ったのはニラのジェノベーゼ。
麺の茹で時間も、炒める時に火が通るのを計算して固めにあげたから食感が残っていて完璧。でもあの時、最初にこの家で食べた柔らかいパスタの方が美味しかったな、と心の中で反芻しながら二人で食べた。
多分もう来る事のない彼女の部屋を後にして、一人になった帰り道に晴れた夜空を見上げ 「あーやっぱりパスタは色んな種類並べないとだよな…」と独りごちた。
料理と笑いで天下を目指す男性ピン芸人。
埼玉県東松山市出身。東松山のやきとりを愛し、東松山市親善大使「東松山市應援團」の一員。食品衛生責任者の資格を持ち、クックパッドには1000以上のレシピをアップしている。日本テレビ系列『ウチのガヤがすみません!』などに出演。
>>オフィシャルブログ「良い香りのある生活」