“クックパッド芸人”を自称し、自らのキッチンに1000品以上のレシピを掲載している「藤井21」さん。1人(ソロ)で作って1人で食べるという「ソロ飯」を日々楽しんでいるそう。藤井21さん自作のおすすめレシピと、悲喜こもごものエピソードをご紹介します。第5回のテーマは「僕の愛するご当地グルメ」。とある料理をご当地グルメだと気づかずに育った藤井さん。そして大人になった時、居酒屋で事件が起きるのです…。
あなたは居酒屋でやきとりを注文し、出てきたやきとりに対して、
「すいませんこれ鶏肉ですよ」と言ったことがあるだろうか。
僕はある。
別に僕が肉の種類が区別できないタイプの人間というわけではなく、ましてや何かといちゃもんを付けるタチの悪いクレーマーというわけでも決してない。ただ純粋に間違いを指摘したつもりだったのだ。
今しがた提供したばかりのやきとりを右手に持ちながら、「これ鶏肉ですよ」とのたまう男を、店員さんはひたすらに不思議なものを見る目で見ていた。
どうしてこんな珍事件が起きてしまったのか。
それは僕の出身地に大きく関係している。
「埼玉県東松山市」
ご存知だろうか。
頻繁に間違われる事があるが、東京都東村山市ではない。愛媛県松山市でもない。埼玉県東松山市。
埼玉県のほぼ中心に位置していて「埼玉の中心・へそ(臍)」を勝手に自称する同市は僕の生まれ育った街である。
東松山市には、市民が愛して止まない食べ物が存在する。それが「やきとり」である。
え、やきとりなんてどこにでもあるじゃん?と思った方も多いかもしれない。しかし東松山のやきとりは普通想像するものとは全くの別物だ。
東松山市民が愛するやきとりは鶏肉ではなく、豚肉のやきとりなのだ。
しかも豚肉は豚肉でも豚のかしら肉(コメカミ)を長ネギと一緒に串に刺し、炭火で焼いたものを東松山では「やきとり」と呼ぶのだ。
そしてその焼きたてのかしら肉にニンニク、生姜、コチュジャン、味噌等を混ぜ合わせた特製のピリ辛味噌だれをたっぷりと塗って食べる、これが東松山のやきとりでありスタンダードなのだ。東松山でやきとり屋にいってやきとりを頼むとこれが当たり前のように出てくる。
これがまたビールとの相性が抜群で、焼きたてジューシーなかしら肉にニンニクの効いたピリ辛の味噌だれ。これをキンキンに冷えたビールで流し込むのは、もう至福の一言だ。
子どもの頃から、やきとり=豚のかしら肉で何一つ疑問を抱かずに育った為、大人になってチェーンの居酒屋を利用した際に鶏肉のやきとりを目の当たりにして
「これは鶏肉を串に刺して焼いたものであってやきとりではない、これは教えてあげねば」という大きな誤解の元、前述の珍事件が起きてしまったのだ。
ただ、地方出身の方には同じような経験をされた方もいるんじゃないだろうか。
先日とあるテレビ番組で岡山県の「バラ寿司(※)」を特集していた際に、街頭インタビューで道行く女性が「寿司といえばバラ寿司で、握り寿司の事を子どもの頃寿司だと思ってなかった」と答えていた。
まさに同じような事が起きている。子どもの頃から慣れ親しんだものがスタンダードであって普通なのだ。
しかしどうして「自分の普通は他人の特別」。これだけご当地グルメという言葉が広まっている昨今でも、もしかしたらあなたにも地元の人間、自分たちしか知らないご当地グルメがあるのではないだろうか…?
(この記事の中で起きた事件はノンフィクションです )
※岡山県のバラ寿司
酢飯の上に錦糸卵を乗せ、その上に穴子・サワラ・ママカリ・モガイ等の瀬戸内の魚介類を下の錦糸卵が見えなくなるほど、これでもかと敷き詰めた豪勢なチラシ寿司。
岡山県のバラ寿司は行事毎の際には必ずと言って良いほど食卓に並ぶ岡山県民のソウルフード。
料理と笑いで天下を目指す男性ピン芸人。
埼玉県東松山市出身。東松山のやきとりを愛し、東松山市親善大使「東松山市應援團」の一員。食品衛生責任者の資格を持ち、クックパッドには1000以上のレシピをアップしている。日本テレビ系列『ウチのガヤがすみません!』などに出演。
>>オフィシャルブログ「良い香りのある生活」