世界中の台所を訪れて現地の人と料理をする台所探検家・岡根谷実里さんが、各地の家庭料理をお届けします。
蒸し暑い梅雨の足音が聞こえてくるこの季節。
今回は、タイの台所から「見るだけで涼しくなる料理」を紹介します。
「おいしそうな色」というとどんな色をイメージするでしょうか?
一般的には、赤や黄色などの暖色はおいしそうに見え、青や紫などの寒色は食欲が進まない色と言われます。飲食店の看板や食品パッケージも、暖色系が多いですよね。
しかし、タイで出会った「青色料理」には、そんな常識をくつがえす暑い国ならではの知恵が隠されていました。
こちらは、ある日の夕飯に作ったタイ風の春雨サラダ「ヤムウンセン」。真っ青な春雨が目を引きます。
この色は「バタフライピー」という青い花で染めています。
バタフライピーはマメ科の植物で、乾燥させた花を煮出して青色を抽出します。
普通は冷たいドリンクやデザートの着色に使うことが多いのですが、食事系の料理にも使うのはちょっと驚きです。
沸騰したお湯にバタフライピーを入れ、お茶のように煮出します。そのお湯で春雨をゆでると、水を吸った春雨は鮮やかな紫に染まります。
あとは普通のヤムウンセンの作り方と同じ。レモン汁を入れたことで紫から青に変わり、赤い人参や白い玉ねぎとあわさって、一つ一つの食材の色が鮮やかに映えます。
一瞬びっくりする「青い春雨サラダ」ですが、不思議なことに、蒸し暑い空の下ではとっても涼やかで食欲がそそられるのです。
涼しそうな色に惹かれて口に入れたヤムウンセンは、つるっとした食感にレモンの酸味が爽やかで、すっと体温が下がるよう。冷たい色だからおいしくなさそうと言われることが多い青色ですが、この「青いヤムウンセン」は冷たそうに見えるからこそ逆に涼しさが感じられ、食が進みます。料理に寒色の青を活用するのは、暑い時期を快適に過ごすタイの人々の知恵なのかもしれません。
バタフライピーの他の使い方としては、ご飯を染めるというのもあります。ご飯なのに青い...と一瞬びっくりしますが、食べ進めると、辛い料理と合わさってなんだか涼しい気持ち。お隣のマレーシアでは、様々なおかずを乗せてプレート料理にしたりもします。カラフルなプレートは目移りするほど鮮やかで、新しい「食べる楽しさ」を与えてくれそうです。
その色から、ひんやりとした冷たいドリンクやデザートに使われることが多いバタフライピーですが、おかずに使ってみると意外な「目から涼しくなる」効果を感じました。と同時に、色に対する自分の常識が一面的なものだったことに気づかされます。
考えてみれば、SNS映えが注目される中で、今まであまり食べものに使われてこなかった色も使われるようになってきました。「なし」と思っている色使いも、場所や時が変われば「あり」になるのかもしれません。
これからの暑い時期を楽しく食べて乗り越えるのに、「青い料理の知恵」を一度試してみてはいかがでしょうか。
台所探検家。世界各地の家庭の台所を訪れ、世界中の人と一緒に料理をしている。これまで訪れた国は60カ国以上。料理から見える社会や文化、歴史、風土を伝えている。
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