今、日本では「台湾スイーツ」が大ブーム。圧倒的な人気を誇る「タピオカドリンク」のほかにも、かき氷や豆花(トウファ)など美味しそうなスイーツがたくさん。多くの専門店が日本に上陸し、台湾スイーツを楽しむ機会が増えました。そこで今回は、台湾の食に魅了され、レシピ本も出版している菓子・料理研究家の若山曜子さんにインタビュー。台湾グルメ&スイーツの魅力だけでなく、自身のお菓子作りとの出会いなどについてもお話を伺いました。
私がお菓子作りを始めたのは、小学生のときです。父が単身赴任で東京にいたので、休みになるとよく遊びに行ったのですが、東京で食べるスイーツが美味しくて。特に印象深かったのはレストランで食べたティラミス。柔らかくて口の中でとろけるような…最初に食べた感動は忘れられません。
子ども心にまた食べたいと思ったけれど、当時岡山にはどこにもなくて。考えた末に、「ないなら自分で作ろう!」と思ったのがお菓子作りを始めたきっかけです。お菓子本を買って見よう見まねで作り始めました。本を読むうちにお菓子の原点はフランスだと気づき、レシピの原書が読みたくて大学ではフランス語を専攻、在学中「ル・コルドン・ブルー・パリ」に短期留学をしました。
その後、ニース大学で勉強しながら、パリ商工会議所附属の「エコール・フェランディ」を受験し、晴れて入学。学びながらレストラン、パティスリーで経験を積み、CAP(フランス国家資格)を取って帰国。パティシエをしながら今のお仕事を始めました。
学んだのはフランス菓子ですが、留学中は時間があればヨーロッパを旅し、帰国後はアジアにはまって…いろんなものを食べました。台湾もそのうちのひとつ。物価が安くて人が優しい。一人でふらっとするにもなんとも居心地がいい国なのです。
その後ラッキーなことに、夫が台湾駐在になり、長期滞在しているうちに、ますますどっぷりと台湾の食の世界に魅了されていきました。
台湾の食材って日本と似ているものも多いんです。でも、使い方も味も微妙に違うのが面白いんですよ。
例えば、台湾朝ごはんの定番、あたたかい豆乳のスープの鹹豆漿(シェンドウジャン)。まず台湾の豆乳は、日本よりずっとあっさりしています。具材の一つ、蝦皮(シャーピー)は柔らかいシラスのような、小さな海老を干したもの。馴染みのある旨味です。でも日本にありそうで、ない。干しエビで代用もできますが、やっぱりできあがるものは少し違います。
このスープ、塩と少しの酢で反応しておぼろ豆腐のようになります。日本人なら親しみを感じるお料理ですが、豆乳をこんな風に日本では飲まないから、面白いですよね。
黒豆や小豆も、日本では甘くこってりと煮るのが主流ですが、台湾では、砂糖ひかえめに煮るので、豆の味がはっきりと感じられます。こんな風に少し似ていて少し違う。ご近所の国だからでしょうか。日本に帰ってからもトライしやすいものが多いです。
台湾以外でも、旅は食の発見が多くてワクワクします。「地元の食材で和食を作ったら、新しい味になって美味しかった」「このハーブってこの食材に合わせてもいいんだ」とか。毎回何かしらの発見があります。
フランスでの留学がやっぱり一番大きいですが、今までの旅でのすべての経験が、今の私の仕事やふだんの料理作りにも生かされているのではないかと思います。
新しい味を試すのも楽しみの1つですが、いつもの夕食では「冷蔵庫にあるものを組み合わせて、いかに美味しく、昨日と違うものを作るか」を考えるのも、私にとってはゲーム感覚で楽しいです。
夕食、日本だと毎日ちゃんとお料理されている方も多いですが、台湾を含めアジア圏では外食で済ます率が高いそう。安いですし、お店も屋台のような気軽なお店が多くて、便利。
対してヨーロッパ圏の外食は比較的ハレの日。日本の一般家庭に近いと思います。ただし日常の夕食はもっとシンプル。野菜やフルーツを切ったサラダのような前菜に、焼いただけのお肉料理が一品とか。野菜も旬だからねーと毎日同じ種類のものが出たり、お肉の味付けも塩胡椒だけだったり。フランスでは、デザートはどの家庭でも必ず出ましたが、市販品のヨーグルトとかチーズ、あとはフルーツということも多いんですよ。
ただ日本と違うのは、ゆっくり食事に時間をかけること。夕食はお腹を満たしながら、家族と話をする。それが一番の目的なのです。
日本ではだいたい夕食に何品もあるでしょう? 調味料もいろいろ手に入るからか、様々なお料理を皆さん毎日作っていらして、本当にすごいなあと思います。
私は一人だと調理とは言えないレベルの夕食なこともしょっちゅうです。
ただ食い意地が張っているので(笑)、手抜きでも美味しいものを食べたいという気持ちが人一倍強いのです。
夕食を作る前に、まずは何食べたいかなーと考えて。その時に自分が食べたいものを作っています。自分が食べたいものを食べられる。自分で選んだ食材で作れる。これって実はすごく贅沢だと思っています。
皆さんも「今日何が食べたいかな」と自分自身に聞いてみてください。ご家族がいると毎日とはいかないかもしれませんが、時には自分が食べたいものだけを作るのもいいんじゃないかなと思います。ゴールが自分の好きなものだと料理も楽しくなると思うし、楽しい気持ちで作る料理はきっと美味しいです。
そしてそんな気力ないという時は、本当に簡単なものが続いてもいいんじゃないかなあとも思います。
最後に、お菓子を美味しく作るコツについて少し。 お菓子を作るとき「こんなに砂糖やバターを入れるのか」とギョッとした経験はありませんか? でも、市販のお菓子にはもっともっと入っているし、添加物が入っているものも多いのです。自分で作るときだけ意識してしまいがちですが、砂糖の量をむやみに減らすのは失敗の元。
砂糖は甘いだけではなく、焼き色をつけたり、生地をしっとりとした食感にする保湿効果もあります。いろんな材料をつなぐ役割もします。
私は、軽いお菓子はどこまででも食べてしまうタイプ。でも、しっかり甘いお菓子は、少量でも満足できます。
糖質やカロリーが気になる人は、砂糖の量を減らすのではなく、きちんと甘いお菓子をゆっくり味わって食べ、量をひかえめにされるといいと思います。
あと、もうひとつ注意してほしいのが材料の「置き換え」。例えば、砂糖をダイエット甘味料に、サワークリームをヨーグルトに、など。料理と同じ感覚で置き換えると、失敗しやすいです。サワークリームとヨーグルトは味が似ていても、脂肪分と水分のパーセンテージが全然違います。とりわけ焼き菓子は、食感などが大きく変わってくる原因になりますので要注意。
美味しいお菓子を作りたいと思ったら、まずはレシピ通りに。少し甘いなと思ったら、1割程度から少しずつ砂糖を減らす。砂糖を減らすと、もしかしたら油分を強く感じるかもしれません。レシピは味のバランスを見て作られています。
まずは正解の味を作ってみて、そこから調整をしていってください。それがお菓子を美味しく作る一番の近道に思います。
(TEXT:河野友美子)
台湾グルメの魅力がぐっと詰まった一冊。台湾スイーツの作り方はもちろんのこと、台湾の朝ごはんや地元の人が味わう洋菓子のレシピも掲載されています。
若山さんの“推しレシピ”は、本の表紙にもなっている「豆花」、そして「パイナップルケーキ」「台湾カステラ」。台湾スイーツの王道ともいえる豆花は日本での人気も凄まじいですが、このレシピには若山さんの“ある思い”が詰まっているそう。
「十数年前、私が初めて台湾のコンビニで食べた豆花は、充填豆腐が甘くなったような味でした。それ以来苦手意識があって何年も食べていなかったのですが、ある日専門店の豆花を一口食べたら、すごく美味しかったんです! 何年も食べなかったことをものすごく後悔しました。
今回この本で初めて豆花を作って食べるかたには、あの時の私のような思いはしてほしくなかったので、現地のお店に赴き、作り方のポイントや美味しさの秘訣を教えてもらいました。家庭で作れる台湾式の本格豆花のレシピとは別に、材料も手間もそこまでかけられない、という方のために、市販の豆乳で作れる簡単豆花レシピも。現地の豆乳の濃度や柔らかさにこだわって考えました。
こちらの本には、豆花を楽しくするトッピングのレシピも掲載。
「あずきやピーナッツ、なつめなど、豆花以外にもいろいろ合わせられるトッピングが本に載っているので、ぜひ参考にしてみてください」
また、若山さんおすすめの「パイナップルケーキ」「台湾カステラ」は、作り方が特徴的。
「パイナップルケーキは、型がなくても家にあるアルミホイルで作れます。台湾カステラは、焼くときに“ダンボール”を使ってみてください。ダンボールはステンレスより熱伝導が悪く、水分を保ったまま焼けるので、ヒビ割れずにスフレチーズケーキのような食感に仕上がります。味も甘すぎず、油、砂糖、薄力粉の量も多くないので、食べやすいですよ。ぜひ、試してみてほしいです」
菓子・料理研究家。東京外国語大学フランス語学科卒業後、パリへ留学。ル・コルドン・ブルー、エコール・フェランディを経て、パティシエ、グラシエ、ショコラティエ、コンフィズールのフランス国家資格(C.A.P)を取得。パリのパティスリーなどで経験を積み、帰国後は企業のメニュー監修、雑誌や書籍、テレビなどで活躍。台湾に夫が2年ほど駐在し、台北のみならず各地の甘いものを食べ歩いた。著書に『アペロ フランスのふだん着のおつまみ』(立東舎 料理の本棚)など。