クックパッド初代編集長であり、自他共に認める料理好き・小竹貴子のエッセイ連載。誰にでもある小さな料理の思い出たちを紹介していきます。日常の何でもないひとコマが、いつか忘れられない記憶となる。毎日の料理が楽しくなる、ほっこりエピソードをどうぞ♪
私がお料理の楽しさに目覚めたのは、10歳くらいのときです。
普段から母親のお手伝いをしていた私は……と言いたいところですが違います。小学生時代の私がどんな子どもだったか、わかりやすい例えで言うと、テレビ『ちびまる子ちゃん』の主人公・まるこちゃんを、100倍だらしなくした感じでした(笑)。
小学校から帰れば、ランドセルを玄関に置いたままにして、すぐに友達の家にまっしぐら。晩ごはんぎりぎりの時間に帰り、食事の準備のお手伝いもせず、もりもり食べるだけ食べて、片付けの手伝いもすることなく、そのまま畳に寝転んでごろり……。
常に遊ぶこと、さぼることを考え、暇さえあれば『りぼん』や『なかよし』などの漫画を読みふけり、そうでなければテレビで歌番組とお笑い番組を見て、当時大人気スターだった田原俊彦さんに真剣に恋をし、学校ではゴムとびをこよなく愛する小学生でした。そんな私を温かく見守ってくれた母と父には感謝しかありません(怒られていたかもしれないけど、記憶がない)。
そんなだらだら小学生が、ある日出会ってしまいました。それは、小学校の理科の授業で教えてもらった「べっこう飴」。砂糖の加熱による化学反応を利用したお菓子のことです。今ではお祭りの屋台くらいでしか見かけなくなりましたね。
改めて作り方をちょっとおさらいしてみます。
小さな鍋に、砂糖と水を入れて中火にかけて煮詰めます。火にかけると、はじめは白い色、そして泡立ちながら透明になり、ふと気づくと黄色になってきて、それが出来上がりの合図。そして鍋からお弁当のおかずを入れるアルミカップに入れて冷ませば完成です。
これをお菓子作りと言っていいのかわかりませんが、私にとっては1人で何か食べるものを作った初めての体験でした。
この時食べたべっこう飴がとてもおいしかったこともあり、それをきっかけにべっこう飴作りにハマってしまいました。白砂糖をきび砂糖にしてみたり、水の分量を変えてみたり、アルミ型に入れてみたり、家にあった食紅を入れてみたりなど、試行錯誤を楽しみながらべっこう飴ばかり作る毎日が続きました。まるで実験のよう。
ただその情熱も1カ月もすると冷めてきてしまい、次にハマったのは、ふかし芋を使ったスイートポテト。さつまいもをフォークで潰し、マーガリン、牛乳、卵を入れて、こねこねして丸く丸めて、アルミカップに入れて、オーブントースターで焼くだけ。
これをどうしたらもっとおいしくできるだろうと考えた私。バターはどれくらい入れたらいいんだろう? 牛乳はどれだけ? 焼き時間はどれくらい? 同じものを何度も何度も作っていました。ゴールイメージはおばあちゃんが作ってくれたスイートポテト。
自分で試行錯誤しても、なかなか納得できるおいしいものができなかったので、小学校の図書館に行ってお料理本を読み、初めてレシピ通り作るという体験をしました。それを何度か作ってマスターした後、そのレシピを使って自分ならではのスイートポテトの研究。レーズンを入れてみたり、アーモンドを入れてみたり、型を変えてみたり。
そして飽きたら次のお菓子へ。型抜きクッキー、チーズケーキ、カップケーキ、マドレーヌなどなどを作りました。
好みの味にたどり着くにはたくさんの失敗がありまして、たまに好みの甘さにならなかったり、焼き具合を間違えたりもしたのですが、落ち込む私に対して、いつもおばあちゃん、そして父や母、弟は、爆笑しながら「おいしい」と言って食べてくれました。
そして35年後。うわー、私とおんなじだ!という出来事が。
数カ月前のこと、仕事から帰ると、5年生になる長女がべっこう飴を作って食卓のテーブルに並べていました。それを見た瞬間、まるで私と同じ道を歩んでいるような気がして、背筋がぞわーっとなりました。
まさか、私と同じく理科の授業で習ったのかな?と恐る恐る聞いてみると、Youtubeで見て作ったとのこと。そこは、やっぱり今どきの情報収集だったのですが。
ちなみに我が愛娘は、日常のお料理のお手伝いはたまに気まぐれでしてくれることがあるものの、基本はゴロゴロしてあまりやろうとしません。もちろん1人で料理をすることも、それまで一度もありませんでした。そこは私の子どもの頃と同じ。
「ちょっとー、お母さんのお手伝いくらいしないと、マジ明日おやつないよ!」と、つまらない脅しをかけて無理やり動かしてみようとも試みますが、それでも「塾の宿題やらないと」などと言ってそそくさと逃げていきます。
そんな娘が、べっこう飴もいつの間にか卒業し、最近では学校から帰ってくると1人で家でクッキーとか作っている様子。それが実はかなりおいしくできているんです(親ばかではなく)。
娘とは顔も性格も全く似ていないなぁっていつも思っていましたが、子どもって変なところが似るといいますか、まさかお料理を始めるきっかけが同じになるとは思わなかったですね。
家に帰ると、「お母さん、ごはんだよ!」と夕飯を作ってくれている娘に育てることはすっぱり諦めて、勝手に楽しんでもらうことを応援しようと。自分ができなかったことを娘に託すのはやめたほうがいいですよね。
だって、親の言うことを聞かないのは私とそっくり。料理については放置教育でいこうと思います。
クックパッド株式会社ブランディング・編集部担当本部長。1972年、石川県金沢市生まれ。関西学院大学社会学部卒業。株式会社博報堂アイ・スタジオを経て、2004年に有限会社コイン(後のクックパッド株式会社)入社。編集部門長を経て執行役に就任し、2009年に『日経ウーマン・オブ・ザ・イヤー2010』を受賞。2012年、同社退社。2016年4月から再びクックパッド株式会社に復帰。現在、日経ビジネスオンラインにて『おいしい未来はここにある~突撃!食卓イノベーション』、ヘルスケアメディア『Rhythm (リズム)』にて『マラソンチャレンジ連載企画』を連載中。また、フードエディターとして個人でも活動を行っている。