世界中の台所を訪れて現地の人と料理をする台所探検家・岡根谷実里さんが、各地の家庭料理をお届けします。
世界の台所で現地の方たちと一緒に料理をしていると、思わず手を出したくなるような楽しい料理道具に出会います。 その国らしい合理性があるもの、よく考えたなあと感心するような工夫があるもの、そんな道具には心惹かれます。
今回は、世界の台所で出会った料理道具の中から、特にお気に入りの3点を紹介します!
インドと言えば、カレーを連想する方も多いのではないでしょうか。様々な食材とスパイスを組み合わせた料理が並ぶのは、インド定番の食卓風景です。
そんな食卓に欠かせないのが「アチャール」という付け合せ。野菜や果物でつくる「お漬物」です。瓶詰のものはお店でも買えますが、簡単に作れるのでお家で漬けるのも一般的です。
「あれれアチャールがないね」 昼ごはんを食べはじめたら、ふと気がついたようにお母さんが立ち上がってアチャールを取りに行きました。
取り出したのが、こちらの容器。
真ん中の柱を引き抜いてアチャールを取り出します。柱に見えたのは、なんとトング!取り出すための道具が漬け容器と一体化しているのです。
アチャールは油を使う漬物なので、食べるたびに道具を取り出してくると洗いものも面倒。トング一体型で洗わなくて良いこの容器は、いつでもさっと食卓に出せてとっても合理的です。日本で言えば、梅干し壺に箸が付いているような感じ。
毎日毎食のようにアチャールが食卓に上る中で生まれた、工夫の結晶なんですね。
チョコの材料となるカカオ豆は、中南米〜南米を原産とする作物です。長年カカオ豆と付き合ってきたこの地域では、飲み物にも料理にも日常的にカカオが使われます。
南米コロンビアの朝は、ホットチョコレートから始まります。牛乳をポットで温めて、チョコブロックを溶かしてつくります。
そこで登場するのが、「モリニージョ」という木のかき混ぜ棒。どの家の台所にも、必ずこの棒がありました。
牛乳が温まったらチョコブロックをポットに入れて、両手をこすり合わせるように棒を回転させるだけ。プラスチック製のものを使うお家もあります。
チョコが溶けて泡立ってきたら、カップに注いでいただきます。
作っているときは、こんなにがんばらなくてもスプーンで混ぜるのでもよいのでは...と思っていたのですが、飲んでみて納得。思いっきりかき混ぜたことでふわふわの泡立ちが生まれていたのです。飲み慣れたココアとはまったくちがうやさしい口当たりで、朝からやさしくホッとさせてくれます。
「この泡がホットチョコレートのおいしさなの。チーズを溶かすのもおいしいのよ」
この家族が暮らす山の上は、朝はとっても冷え込みます。寒い朝のふわふわホットチョコレートは、一日を元気に始めるのに欠かせません。その愛されようは、年季の入った棒が物語っています。
新品のモリニージョと比べてみると、だいぶ柄が短くなっています。「ミルクポットに入れて放っておいたら、触れている部分が焦げて切れちゃったの」。
そういえばわが家も、朝食の卵焼き用フライ返しの柄が溶けて短くなっていました。忙しい朝の「うっかり」は、同じなんですね。
最後は、ブルガリアで出会ったこちらの道具。その名も「チュシコペック(直訳はパプリカ焼き器)」。パプリカを焼くためだけの道具です。
首都ソフィアの台所で「ジョークみたいでしょ」と笑いながら見せてくれたその道具は、コンパクトながら働き者。電源を入れると素焼きの筒が熱くなり、まるごとのパプリカを入れるとあっという間に焼けます。
実はブルガリアはパプリカの国。大きな鉄板に山ほどのパプリカを焼く保存食作りの光景は、秋のはじめの風物詩です。焼いたパプリカは、そのまま食べたり料理に使うこともあります。
しかし都市のアパートでは大きな鉄板で焼くことはできません。それでも食べたいという情熱が生んだのがこの道具なのかなあと思い、サンマがのった七輪とふと重なりました。
食べ物に対する情熱は世界共通。それぞれの情熱からうまれた「工夫の詰まった道具」に出会うたび、なんだかうれしくなるのです。
台所探検家。世界各地の家庭の台所を訪れ、世界中の人と一緒に料理をしている。これまで訪れた国は60カ国以上。料理から見える社会や文化、歴史、風土を伝えている。
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