お米は日本の主食ですが、世界を見渡すとお米を食べている国は意外とたくさんあります。お米の食べ方や炊き方、保管方法、そしてお米の価値観など、世界のお米を知ると、その多様性や魅力を再発見することができます。そこでこの連載では、知っているようで知らない海外のお米料理をお米のコバナシとともにお米ライター柏木智帆がお届けします。
2年ほど前、お米農家である夫と一緒にパエリア発祥の地であるスペイン・バレンシアに行ってきました。現地のお米農家に会いに行き、市場やスーパーを渡り歩き、お米料理を食べ歩き、建前は新婚旅行のお米取材旅を堪能してきました。
帰国してから、スペインの食文化について改めて調べていると、「アロス・ア・ラ・クバナ」という料理を発見。直訳すると「キューバ風ごはん」。スペイン料理なのになぜキューバ風ごはんと呼ぶのかというと、キューバがスペインの植民地だった頃に誕生した料理だからと言われています(諸説あります)。ごはんの上に、揚げた「プランテン」という調理用バナナ(あるいは、バナナの代わりにソーセージやチョリソーなど)、目玉焼きをのせて、トマトソースをかけた料理でした。
しかし、私が訪れた場所ではお目にかかれませんでした。父親がスペイン人で日本のスペイン料理店を経営している方に尋ねると、家庭料理なのでレストランではなく大衆食堂ならばあったのかも…とのことでした。元スペイン大使の方からも、まかない料理で食べていたと聞きました。
ああ食べたかったなあとアロス・ア・ラ・クバナへの思いを引きずること2年。先日、都内のインターナショナルスーパーマーケットでプランテンを発見。さっそく買って作ってみました。
揚げたプランテンはホクホクとして、まるでジャガイモ。1本のバナナのためだけに揚げ物をするのは手間なので、少ない油で揚げ焼きにしました。目玉焼きも揚げ焼きがおすすめです。私は目玉焼きに火を通しすぎてしまいましたが、黄身は半熟にして混ぜて食べるのが断然おいしいと感じました。
現地の中粒米を使う場合は、生米を洗わずにニンニクオイルで炒めてから水かスープを入れて炊く方法が一般的。本場の味を食べたい方は挑戦してみてください。
スペインでは出会えなかったと思っていたアロス・ア・ラ・クバナ。思い返すと、スペインで取材中にバルセロナにある市場の惣菜店で会った女性客から話は聞いていました。
その惣菜店では長粒種のスペイン米を使ったライスサラダを売っていました。惣菜店の店員によると、そのお米は「ラルゴ」という品種。スーパーでも販売されていました。ラルゴはスペイン語で「長い」という意味だそうです。その店では、茹でたお米を豆や野菜やツナなどと和えた料理を量り売りしていました。茹でただけのお米も販売していて、これがあればわざわざお米を茹でる必要がなく自宅で手軽にライスサラダが作れるというわけです。缶詰のスイートコーンや茹で大豆のような存在なのかもしれません。
その店で茹でたお米を買っていた女性客にどんな料理にするのか尋ねてみたところ、「肉、トマト、スパイス、揚げた卵を入れるのよ」と教えてくれました。滞在中は何の料理なのかわかりませんでしたが、帰国後に調べてようやくアロス・ア・ラ・クバナのことだったのか!と分かったのです。
あまりにも家庭料理すぎてレストランではなかなかお目にかかれないアロス・ア・ラ・クバナ。プランテンを入手できなくても、ソーセージやチョリソーなどがあれば大丈夫。目玉焼きとトマトソースだけで作る人もいるそうです。
女性客のように長粒米を使う場合は生米を茹で、中粒米を使う場合は前述のように生米を炒めてから炊きますが、日本の短粒米を普通に炊飯して使ってもおいしく食べられます。家庭料理ですから、先ほどの女性のようにお肉を加えていたりとレシピは千差万別。ごはんの上にトマトソースや目玉焼きなどを乗せるだけで楽しめる、スペインのお手軽な「のっけ丼」です。
お米ライター。元神奈川新聞記者。お米とお米文化の普及拡大を目指して取材するなか、お米農家になるために8年勤めた新聞社を退職。2年にわたってお米を作りながらケータリングおむすび屋を運営した。2014年秋からは田んぼを離れてフリーランスライターに。お米の魅力や可能性を追究し続ける、人呼んで「米ヘンタイ」。
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