味噌汁を「沸騰させてはいけない」というのは常識です。味噌汁は手軽な料理なのに、煮立てるだけで風味が損なわれるというデリケートさを持っています。
風味が失われる大きな理由として、味噌汁を沸騰させ、煮立たせると生成されるフルフラールという「ひね香」の原因物質の存在が挙げられます。
「ひね香」は味で表すなら「エグ味」。日本酒の劣化臭などをイメージしていただくとわかりやすいですが、これが味噌汁に含まれていたら…不味いですよね。
では本題。味噌汁を煮立たせるとどれだけ味が変わるのかという味覚センサーでの検証結果をご紹介します。
ヒトの味覚を模したAI搭載の味覚センサー、レオを使って実験していきますよ!
“味覚”センサーという名称ではありますが、AIで学習する際に香りも含めて評価した学習データを使っているため、風味の分析もできるのがレオの強みです。
ちなみに風味の劣化といった変化の際は数種の物質の生成や変容といった反応が発生するので、香り・風味が変化するときは味覚にも影響しがちなんです。
今回の検証では具材に定番食材である「豆腐」と「わかめ」を使いました。 そして沸騰直前で火を止めた味噌汁と、沸騰させ5分煮立たせた味噌汁を用意しました。
まずは、この2つの旨味を比較してみます。
数値として0.2ポイント以上、これは9割以上の人がわかるであろう有意差ですが、煮立てた味噌汁の旨味が落ちています。
この原因究明を兼ねて、次に、基本5味(甘味・旨味・苦味・酸味・塩味)のチャート図を見てみましょう。
正解の味噌汁のほうは綺麗な二等辺三角形であるのに対し、煮立てた味噌汁は逆三角形の頂点付近が崩れています。
その原因は苦味が強くなっていること。先ほどの9割以上の人がわかるであろう有意差です。
旨味が落ちたのは、苦味が強くなったために味のバランスが崩れたことで、相対的に旨味が下がったためでした。
美味しい味噌汁は苦味や酸味といった雑味が少なく、旨味が最大限に引出されたもの。 ちょっと手間ではありますが、味噌汁は沸騰直前〜直後には火を止めましょうね!
参考: 味噌の香気成分に関する研究
味覚研究家。AISSY株式会社代表取締役社長 兼 慶応義塾大学共同研究員。味覚を数値化できる味覚センサーを慶大と共同開発。味覚や食べ物の相性の研究を実施。メディアにも多数出演。ブログ『味博士の研究所』で味覚に関するおもしろネタを発信中。