コロナ禍の今、買い物に出かける回数はなるべく減らしたいもの。多めに買い込んで、食材を使い切れずダメにしてしまったり、逆に想定以上に早く使い切って材料が足りなくなってしまった、なんてこともあるのでは? そこで、目の前の食材を余すところなく使って多様な料理を生み出すことに魂を懸けている出張料理人・ソウダルア氏に、そのテクニックを披露してもらった。「食材使い切りオタク」の知恵を覗き見てみよう。
新型コロナウイルスのニュースばかりが流れるテレビ番組に疲れを感じ始めていた頃、たくさんの野菜が詰め込まれた段ボール箱が手元に届いた。コロナの影響で卸先を失ってしまった農家の野菜をネット販売することになった知り合いから、その野菜を使ったレシピを一緒に送りたいと頼まれていたものだった。
「フードロス」という言葉が巷を賑わす前から、食材を無駄なく使い切ることを信条としてきた。丸ごと全部をいただく「一物全体」という言葉を知った若かりし頃から、どうすれば素材のすべてを食べてもらえるかに腐心してきたのだ。
段ボール箱に詰められた、大根・人参・蕪・ほうれん草・からし菜・フリルレタス・ケール菜花・スティックセニョール。さて、これらを余すところなくすべて使い切るには? 合計8種類の野菜を、10品の料理へ変身させる方法をご紹介しよう。
考案するレシピは、野菜の根も葉も皮もすべて使い切ることを前提に、野菜だけだと足りない栄養素を補える食材をサポートで入れること、さらに調味料は家にありそうなものに限定することを条件とした。料理することが楽しくなっちゃうような、それでいて食べる人にも喜ばれるような、そんなレシピを俺は書く!……という決意のもと、キッチンに立つ。
まずは野菜を部位ごとに分ける。大根と蕪の葉を落とし、すべての根菜の皮をピーラーで剥く。葉野菜も軸を落とし、さらに葉と茎に分ける。こうして仕分けると、8種類の野菜が23の素材になる。
牛肉だと、あんなに細分化され、それぞれが価値化されているのに、野菜はあまりなされていない。でも、シャトーブリアンだけ食べますか? 大トロだけがすべてですか? いやいや、どこだってそれぞれに美味しい。野菜だって、きっとそう。
23の素材を前に、さて何をつくろうかと思いをめぐらせる。手始めに、火を通すのに時間がかかる大根や蕪を煮ておきたい。しかし、こうなったら茹で汁すらも使いたいという謎の欲が出てきた。なぜにこうも人間は欲深いのか。
そこで、茹で汁も有効活用したメニューを、まずは6品つくっていく。
1品目は、「からし菜とケール菜花の醤油漬け」。からし菜とケール菜花をさっと茹でて醤油に漬ければ、ごはんが進む一品の完成だ。その茹で汁で、大根を茹でておく。
2品目は、「蕪のコンソメ煮」。友人が働いていたレストランで、蕪をスペシャリテにしていたことを思い出し、コンソメで煮てみることにした。
3品目は、蕪を煮たコンソメスープに酢を入れて、「大根と人参のコンソメピクルス」をつくる。こちらも昔、京都で食べた、だしを使ったピクルスに発想を得たもの。
ここまでの3品、全体的に地味なので、ちょっとお洒落な料理も入れることに。4品目は、「フリルレタスとミックスナッツと粉チーズのサラダ」。サラダは体が冷えるので、栄養とお洒落の補完にミックスナッツとパルミジャーノを加え、ドレッシングはオリーブオイルとちょっといい塩、レモンだけでシンプルに仕上げる。
4品作ると、ちょっとずつ端材が溜まってくる。根菜の頭やら根っこ、いつもなら捨てちゃうところも使い切るには、必殺技のカレーだ。5品目は、題して「もったいないキーマカレー」。スパイスによる免疫力や代謝アップ効果も期待できるし、どんな素材も使える。カレーは無敵だ。
栄養バランスも考えて、カレーには豚ひき肉を採用。ビタミンB、Eに鉄分も摂れる。いろんな野菜の端材を細かく刻んで、ナッツの余りなんかも入れちゃって、じっくりと弱火で炒めていく。豚ひき肉も加えて、カレー粉をばさっと入れて、さらに炒めると、なんともいい香りがキッチンを包む。
そこに、残っていた蕪を煮たコンソメスープをお玉一杯と、味噌をちょっと入れると、劇的に味が決まる。根菜、肉、出汁、発酵食品、スパイスの融合。そりゃ、うまいはずだ。
6品目は、「グリーンすぎるポタージュ」だ。サラダにしづらいフリルレタスのリーフの下部分、大根や蕪の葉をざっくりちぎって、鍋にイン。さらに、からし菜の茹で汁で茹でておいた大根も、汁ごとイン。それらを弱火でことことやってみると、雨上がりの松林のような匂いが立ってくる。
松と言えば海。なので、海の塩をぱらり。かつて訪れた、瀬戸内の島の風景を思い出す。そのままでも美味しそうだけれど、ちょっとボリューム感を足すために牛乳を入れて、さらにことこと。いい感じに緑たちが煮えたところで、ハンドミキサーで撹拌すれば、緑すぎるポタージュの出来上がりだ。
さらに、大根・人参・蕪の皮はオリーブオイルで炒めて「きんぴら」に、ほうれん草の軸部分は軽く醤油と砂糖で煮て「佃煮」にする。スティックセニョールはスライスしたガーリックをのせてローストすればお洒落な一品に。余ったフリルレタスは、浅漬けにしてしまえば、もりもり食べられる。これで、10品の完成だ。
レシピ考案のため、一心不乱に料理すること2時間。1個の段ボール箱が、10皿の料理に変わっている。そして、ゴミはゼロ。
このパズルが見事にはまった時のような快感と、ゲームを終えた後のような達成感、そして心地良い疲労感は、なかなかほかで代替のきくものじゃない。「使い切り」をミッションに料理することは、節約やフードロスなどの社会課題解決のために“やらねばならないこと”なんかでは決してなく、ただただクリエイティブで楽しいものだ。その魅力に、あまりにも多くの人がまだ気づいていないように思う。
ある種のスポーツのような醍醐味が感じられて、しかも美味しい食卓が完成するという実利まである。これこそまさに今、自宅の中でできる新しい遊びとして、もってこいじゃないだろうか?
使い切りアイデアに正解はない。同じ食材をお題にしても、きっと人によって出来上がるものは違う。直接会えない家族や友人と、オンラインでそれをシェアし合うのもまた面白そうだ。次の休みあたり、ぜひともトライしてみてはいかがだろうか。
本記事は、Yahoo!ニュースとの共同連載企画です。新型コロナウイルスの影響で、自宅で過ごす時間が増えています。クックパッドニュースとYahoo!ニュースでは、さまざまなジャンルの「食オタク」たちから、今こそ使える“自炊の知恵”を学ぶ連載を不定期で配信。おうち時間を楽しく、有意義に過ごすためのヒントを探ります。
出張料理人/イートディレクター。大阪生まれ。5歳の頃からの趣味である料理と寄り道がそのまま仕事に。“美味しいに国境なし”を掲げ、日本中でそこにある食材のみを扱い、これからの伝統食を主題に、古今東西が交差する料理をつくる。現在、日本各地へ出向く出張料理は自粛し、オンラインの料理イベント開催など、単独の食ユニットとして活動している。クックパッドニュースのオフィシャルコラムニストとして料理小説を連載中。
【フードインスタレーション映像】香川県 父母ケ浜
https://vimeo.com/275505848