昨年、突然私たちの耳に届いた「太平洋クロマグロが絶滅危惧種に」というニュースを覚えていますか。国際自然保護連合(IUCN)は、絶滅の恐れがある野生生物を分類した最新の「レッドリスト」を公表し、太平洋クロマグロを絶滅危惧種に指定しました。
寿司や刺身として日本人の食卓になじみ深い太平洋クロマグロ。今回の絶滅危惧種指定によって価格が高騰してしまうのではないか、食べられなくなってしまうのではないかと不安になった人も多いのではないでしょうか。
そこで、太平洋クロマグロの現在の状況と、私たち消費者にはどのような影響が考えられるのか、水産庁に聞いてみました。
「現在の太平洋クロマグロの状況ですが、平成24年(2012年)の親魚資源量は約2.6万トンで、歴史的最低水準(約1.9万トン)付近で非常に低い状態にあります。様々な要因があるでしょうが、日本をはじめとする各国が小型魚を捕りすぎたことが最も大きな原因だと考えられます」
水産庁はこれまでにも、小型魚の漁獲量を増やさないなどの措置を導入してきました。昨年12月に国際機関で決定された、「重さ30キロ未満の小型魚の漁獲量を2002〜4年の平均の半減する」という措置に基づき、今年からは小型魚の年間漁獲量を半減させるとのこと。
また、クロマグロには太平洋クロマグロと大西洋クロマグロの2種類があり、どちらも漁獲量が減っていることに変わりはありませんが、大西洋クロマグロについては、4年前の2010年に漁獲枠を大幅に削減させるという厳しい措置を導入したことにより、資源が回復しました。そのため、2014年の今回、漁獲枠の増大が決定されたという経緯があります。
「そのため、大西洋の前例からすれば、クロマグロの資源は厳しい措置を導入すれば必ず回復します。太平洋クロマグロも、関係者全てが協力して厳しい措置を守れば資源は回復するはずと考えています」
では、私たち消費者にはどのような影響が考えられるのでしょうか。
「国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストにおける絶滅危惧種との評価は、規制を伴うものではなく、掲載種の漁業や流通に直接影響するものではありません。
我が国にはマグロ類が年間約40万トン供給されていますが、そのうち、クロマグロの供給量は2.1万トンと僅か5%程度。従って、マグロ全体でみても大きな影響は無いのではと思われます。
また、クロマグロに限ってみても、大西洋クロマグロが増産体制に入ること、また、類似のミナミマグロの漁獲枠も増大していることから、価格上昇など消費者への直接的な影響は想定しがたいと思われますが、水産庁では状況を注視していきます」
なるほど。ほっと一安心ですね。最後に水産庁から私たち消費者にぜひ伝えたいということを聞いてみました。
「元々、日本の周りの海は魚の種類も量も豊富で、その時々に捕れる魚、いわゆる旬の魚を利用してきました。クロマグロも本来は季節の魚の一つです。こんなに豊富に年間を通じて出回るようになったのはつい最近のことですし、それがクロマグロの捕りすぎを招いた一因にもなります。
魚は限りある資源であることを理解の上、季節ごとの色々な旬の魚を美味しく食べて頂けるよう、気をつけて頂くことが、クロマグロの資源回復への何よりの貢献になります。よろしくお願い致します。
魚介類は良質なタンパク質を含む一方、総じてカロリーが低く、ビタミン、必須ミネラルなどの栄養素も豊富です。更にDHAやEPA等の不飽和脂肪酸、タウリン、アンセリンをはじめとする多様な機能性成分が含まれています。また、海藻類にもビタミン、ミネラルに加え、整腸作用や機能性を有する食物繊維が多く含まれています。
これらの水産物は、古来より日本において食べられており、その生産、調理、保存、加工の方法を絶えず工夫してきたところです。このような伝統は形を変えながら現在も息づいており、我が国で食用に供されている水産物の種類やその加工・調理方法は極めて多様なになっています。そして、栄養や機能性に優れた水産物を多く摂取する食生活は、日本人の健康と長寿を支える要素の一つです。
この魚食文化の維持・継続のためにも、是非、様々な魚やレシピにチャレンジをして食卓に魚料理を出してほしいですね」
私たち日本人は、豊かな自然に囲まれ、多様な食文化を育んできました。このような「自然を尊ぶ」という日本人の気質に基づいた「和食」がユニセフの無形文化遺産に登録されたのは記憶に新しいですね。季節ごとの旬の食材をおいしく食べながらも、毎日の料理に使われる食材が、限りある地球の資源であることを忘れてはいけません。今年は食材が資源であるという観点で、日本の食文化を見直してみてはいかがですか。