日本No.1レシピサイト「クックパッド」編集部
ヘルシーな節約食材の代表格とも言える「豆腐」。外出自粛によって自炊の頻度が上がり、スーパーで手に取ることも増えているかもしれない。とはいえ、豆腐を使った料理というと味噌汁や麻婆豆腐くらいしか思い浮かばないという人も多いのでは? そこで、豆腐をこよなく愛し、毎日毎食食べても飽きないと豪語する豆腐マイスター・工藤詩織氏に、豆腐をもっと楽しく味わえる、「豆腐オタク」流のさまざまな食べ方を教えてもらった。
「彼は実に融通がきく、自然に凡(すべ)てに順応する。」 「此の自然にして自由なるものの姿、これが豆腐なのである。」
これらは、私を「豆腐の世界」へ誘ってくれた明治の俳人・荻原 井泉水(おぎわら せいせんすい)が著した随筆『豆腐』の中の言葉たちです。
私は幼少期から豆腐を主食のように食べてきた「豆腐オタク」の豆腐マイスターです。いわゆる“おかず食い”で、次第に白米を残すようになったころ、父が近所の豆腐店から豆腐やおからを買ってくるようになりました。
「真っ白なお米は苦手だけれど、真っ白な豆腐なら毎日食べられる!」
この発見こそ、「豆腐オタク」目覚めの瞬間です。偏食は胸を張って自慢することではありませんが、この偏愛を活かして、自身のライフラインでもあった「豆腐」の魅力を、食文化として広くお伝えする活動を始めました。今回は、豆腐が持つ3つの魅力と、私自身が自宅で実践している豆腐の楽しみ方についてお話ししたいと思います。
豆腐の魅力その1は、ずばり「手軽さ」。豆腐の扱い方は、世界一簡単です。なぜならば、開封すればそのまま食べられるからです。自炊が面倒な時も、カップラーメンより早くありつけるのが冷奴。私にとっては最高のインスタントフードです(笑)。
時間がない時や食欲があまりない時にもオススメなのは、豆腐丼。
やや大きめのお茶碗や小ぶりのどんぶりにご飯をよそって、柔らかめのきぬ豆腐や、寄せ(おぼろ)豆腐をスプーンで重ねるようにのせ、あとは卵や納豆、キムチ、明太子やしらす、塩昆布や鰹節、海苔など、お家にある食材をトッピングするだけです。
調味料は醤油や出汁醤油、仕上げにごま油を垂らせば風味の変化が楽しめます。ご飯を抜いて、お酒のアテにしてもおいしいですよ。
豆腐の魅力、2つ目はその「汎用性」です。どんな料理にも、また、どんな食材とも調和します。「豆腐ほど相手を嫌はぬ者はない。」と、俳人・荻原 井泉水も太鼓判を押します。
「煮てもよろしく、焼いてもよろしく、汁にしても、あんをかけても、又は沸きたぎる油で揚げても、寒天の空に凍らしても、それぞれの味を出すのだから面白い。」
また、そのまま食べるのはもちろんのこと、調理法も問いません。
「チリの鍋に入っては鯛と同座して恥ぢない。スキの鍋に入っては鶏と相交って相和する。ノッペイ汁としては大根や芋と好き友人であり、更におでんにおいては蒟蒻(こんにゃく)や竹輪と協調を保つ。」
肉や魚、葉物、根菜、キノコ類、練り物や乾物。どんなものを相手にしても、豆腐は順応して手をつなぎ、溶け込んでいくのです。和・洋・中・エスニック……料理のジャンルに置き換えても同じことが言えると思います。
しかしながら、豆腐料理のフルコースでは、なんだか物足りなさを感じることもありますね。そんな時は、「揚げ出し豆腐」「豆腐ステーキ」「白和え」「チャンプルー」「麻婆豆腐」など、豆腐そのものを味わう“THE・豆腐料理”と、「ハンバーグ」「鶏つくね」「お好み焼き」「オムレツ」「ホットケーキ」など、カサ増しやふんわり食感を引き出す副材料として豆腐を混ぜた“豆腐入り料理”でメリハリをつけます。
なかなか1丁使いきれない時は、お好みのサイズに切った豆腐を、オリーブオイルや塩麹、味噌に漬けて延命します。そのまま食べるのはもちろん、サラダのトッピングとしても活躍します。
さらに、「豆腐の顔はしばらく見たくない!」とまで思えてきた時は、ぜひ冷凍庫で眠らせましょう。自家製高野豆腐(凍み豆腐)に化けて、再会の日まで待機していてくれますよ(笑)。
ちなみに、私が豆腐料理のレパートリーを広げるために参考にしているのは、日本各地で伝承されてきた郷土料理や保存の知恵です。
例えば、鳥取県の郷土料理「どんどろけ飯」と呼ばれる、炒り豆腐の炊き込みご飯。「どんどろけ」とは雷を指し、油を敷いたフライパンで豆腐をバリバリと音をさせながら炒る様子から名付けられました。豆腐を炒ったら、あとは普通の炊き込みご飯の要領でお好みの具材と一緒に炊き込むだけです。ぷりっとした弾力のある炒り豆腐は、噛みごたえもあるので満腹感もばっちりです。
単体としても優しく胃袋を満たし、副材料としても力を発揮する豆腐は、手間をかけたい時も、手間を省きたい時も、あなたの味方です。決して、嗜好品のように贅沢やステータスを感じるものではないですが、私たちの日々の食卓を、静かに、そしてしなやかに、支え続けてくれている存在だと思います。
豆腐の魅力、最後の3つ目は豆腐そのものの「多様性」です。
私も、幼少期から当たり前のように豆腐を食べてきましたが、決して豆腐の全てを“知っていた”わけではありません。日本には大豆の種類が300種以上もあったこと、作り手による製法の違い、食べる温度によって甘みや香りの感じ方が変わること……知っているようで知らないまま見過ごしていたことがたくさんありました。
しかし、買ってきた豆腐を開封した際に、ほんの一口、じっくりと味わうことを習慣にしてみると、メーカーや店ごとの味や食感、香りの違いを少しずつ感じるようになりました。
「白くて四角くて全部同じに見えていた豆腐に、これだけの多様性があったのか!」と気が付いてからは、豆腐選びだけでなく豆腐を使って料理をすることが数倍も楽しくなりました。
「この豆腐は甘みが強いので辛めの麻婆豆腐にしてコントラストを楽しもう」「この豆腐はずっしりしているからチャンプルー」「希少大豆の香りを楽しみたいから塩を添えた冷奴」「口の中でふわっとほどけるような食感のもめんは湯豆腐に」というように、自分なりの使い分けをしています。もちろん、これらの使い分けには“正解”はなく、気分や体調に合わせて楽しんでいます。
また、「冷奴は冷蔵庫から出したら常温に20分ほど慣らして食べる」「湯豆腐はグツグツ煮てしまうと“す”がたつ(表面や内部に細かい泡のような穴が開くこと)ので、温まったら引き上げる」といった、より豆腐を味わって食べられる工夫をしています。これらはテクニックを要するものではありません。
さらに、私の豆腐の世界をさらに広げてくれたのは、各地域に点在する郷土豆腐たちです。川端康成が「箸にもかからぬ」と表現するほど、水のようにしなやかでさっぱりした京都の「嵯峨豆腐」。富山県の五箇山や豪雪地帯で受け継がれてきた、縄で縛っても崩れないほどの噛みごたえを誇る「固豆腐」。塩分がしっかり入った沖縄の「島豆腐」。練り物消費量日本一の鳥取県が生み出した「とうふちくわ」。
もちろん旅をしながら味わえれば一番ですが、今はぐっと我慢。お取り寄せができるものもありますので、興味が湧いてきた方はぜひ豆腐の多様性を感じてみてください。
自宅で過ごす時間が増えている中、「豆腐」のように身近すぎてとりわけ掘り下げる機会がなかった食材にも改めて焦点を当てて向き合ってみると、新しい料理の楽しみや食べる喜びに出会えたりするのではないでしょうか。
年に500軒減少しているといわれるお豆腐屋さんの情熱の灯火を守るためにも、ぜひこの機会に多くの方に豆腐に関心を向けてもらえたらと思います。ひたむきに豆腐を作り続け、私たちの食卓に届けてくださる、すべての豆腐製造者の皆様へ感謝を込めて。
※参考文献:一般財団法人 全国豆腐連合会 冊子『豆腐』
本記事は、Yahoo!ニュースとの共同連載企画です。新型コロナウイルスの影響で、自宅で過ごす時間が増えています。クックパッドニュースとYahoo!ニュースでは、さまざまなジャンルの「食オタク」たちから、今こそ使える“自炊の知恵”を学ぶ連載を不定期で配信。おうち時間を楽しく、有意義に過ごすためのヒントを探ります。
幼少から豆中心の食生活を送り、豆腐がいつも暮らしの中心にある無類の豆腐好き。日本語教師を目指して勉強する過程で、食文化も一緒に伝えたいと「豆腐マイスター」を取得。国内にとどまらず海外でも、手作り豆腐ワークショップや食育イベントを実施して経験を積む。2018年より「往来(おうらい)」をテーマに本格的に活動を開始。豆腐関連のイベント企画・メディア出演などを通して、各地で豆腐文化の啓蒙活動を行っている。「マツコの知らない世界」(TBS系)、「ヒルナンデス」(日本テレビ系)、「ごごナマ」(NHK)等へ出演。クックパッドニュースのオフィシャルコラムニストとして、『工藤詩織の「お豆腐」進化論』を連載中。
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