お米は日本の主食ですが、世界を見渡すとお米を食べている国は意外とたくさんあります。お米の食べ方や炊き方、保管方法、そしてお米の価値観など、世界のお米を知ると、その多様性や魅力を再発見することができます。そこでこの連載では、知っているようで知らない海外のお米料理をお米のコバナシとともにお米ライター柏木智帆がお届けします。
お米を使った不思議な料理に出会ったのは中東のヨルダンでした。
首都アンマンのレストランでアラビア語と英語が併記されているメニューを眺めていると、「rice」という単語を発見。ブドウの葉でお米やナッツやミントなどを包んだ料理のようです。
出てきたのは、まるで葉巻のような、長細いロールキャベツのような風貌の料理でした。ナイフを入れると、中にはお米がぎっしり。食べてみると、ブドウの葉は意外にもヨモギのような風味です。中東でヨモギを彷彿とさせる味に出会うとは思いもしませんでした。
調べてみると、この料理は「ヤプラック・ドルマス」であることが分かりました。
「ドルマ」とはトルコ語で「詰める」という意味で、他に野菜や貝殻の中に米や肉などを詰めた料理も「ドルマ」です。ちなみにブドウの葉は「詰める」というよりも、「巻く(サルマ)」ため、「ヤプラック・サルマス」とも言うそうです。
その後、トルコのイスタンブールにあるレストランでムール貝の殻にお米を詰めた「ミディエ・ドルマス」に出会いました。
温かい料理だと思って注文すると、まさかの冷たい料理。
暑い日によく冷えた白ワインを飲みながら、あるいはビールを飲みながら食べるには良いのかもしれませんが、その日は真冬。料理を温めてほしいとお願いしてみると、「これはこういう料理だ」と断られました。しかし、どうしてもと食い下がると、しぶしぶ温めてくれました。温かい「ミディエ・ドルマス」はビールによく合いました。
その後、トルコのカッパドキアのレストランで注文したメゼ(前菜)の中に、ピーマンにお米や豆やシナモンなどを詰めた「ビベル・ドルマス」に出会いました。その姿形は日本でポピュラーな「ピーマンの肉詰め」を彷彿とさせます。
ピーマンはブドウの葉やムール貝よりも詰める許容量が大きいためか、比較的お米がたくさん入っていました。
日本ではブドウの葉は手に入りづらいですが、ピーマンやナスなど身近な”夏野菜”を使えばドルマ作りのハードルが下がります。
日本ではお米料理がお酒の締めになりがちですが、トルコの人たちはドルマを食べながらビールやワインを飲んでいました(ヨルダンでは宗教上アルコールを置いていないレストランがほとんどです)。
中粒種のお米をオリーブオイルで炒めてしっかりと味付けしたドルマはたしかにお酒の肴にぴったり。トルコでは「お米は野菜」と捉えられていると聞き、さらに納得しました。
一方で、日本ではお米は主食の位置付け。でも、日本にもお米を中に詰める“ドルマ”がありました。
油揚げのドルマである「いなりずし」と、いかのドルマである「いかめし」です。いずれも日本酒やビールやワインなどによく合います。
中東のドルマを楽しんだ後は、ぜひ日本の“ドルマ”も楽しんでみてはいかがでしょうか。
お米ライター。元神奈川新聞記者。お米とお米文化の普及拡大を目指して取材するなか、お米農家になるために8年勤めた新聞社を退職。2年にわたってお米を作りながらケータリングおむすび屋を運営した。2014年秋からは田んぼを離れてフリーランスライターに。お米の魅力や可能性を追究し続ける、人呼んで「米ヘンタイ」。
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