みなさんは、お家で生魚を調理するとき、冷蔵庫での保存方法、調理の仕方、調理器具の使い方をどのくらい気をつけていますか?
私たちの生活に身近な生魚や、魚介類には「腸炎ビブリオ」という菌が付着している可能性があります。「菌」と聞くと恐ろしいイメージがあるかもしれませんが、正しく魚介類を扱えば安全においしく食べることができます。
そこで今回は、「腸炎ビブリオ」がどんな菌なのか、また、どんな魚介類に潜んでいるのかについてお話したいと思います。家庭で生魚を調理する際に気をつけたいこともご紹介するので、生魚や魚介類の取り扱い時に意識してみてくださいね。
腸炎ビブリオは、通常は海底の泥の中に生息している菌です。夏場、海水が20℃を超えると泳ぎだすという性質を持っていて、海水や海産の「魚介」などにも生息します。特に、海水中の栄養を吸い込んで吐き出す二枚貝や、エラで呼吸をしている魚類は、腸炎ビブリオがついているという前提で取り扱いをすることが必要になります。
また、他の食中毒菌に比べ、増殖速度が速いため、夏の気温ではあっという間に食中毒菌を起こす菌数に達してしまいます。
生魚を食べる機会が多い日本では、「腸炎ビブリオ食中毒」が細菌性食中毒の半数を占めていたこともありますが、2001年に厚生労働省が設定した「水産食品に係る規格及び基準指導」によって、「腸炎ビブリオ」による食中毒は激減しています。
食中毒予防の基本は食中毒菌を「つけない」「増やさない」「やっつける」です。「腸炎ビブリオ食中毒」を防ぐためには、水道水など真水での十分な洗浄(食中毒菌をつけない)と、低温管理(食中毒菌を増やさない)を徹底すること。あるいは、よく加熱する(やっつける)ことが必要です。
いま、コロナ対策のために手洗いを徹底している方が増えていると思います。基本の手洗い手順を参考に、調理前、下処理後、盛り付け前と作業が切り替わるタイミングでも手洗いを行いましょう。
昔は、魚の味が落ちないようにと海水で魚を洗っていたこともありますが、塩水を好む腸炎ビブリオがひそんでいる海水で洗っていては、食中毒を防ぐことはできません。魚の体表面・エラや内臓を除去した後の腹腔などは、流水でしっかり洗うことで付着している菌を洗い流すことができます。
冷凍エビや冷凍イカなど、船上冷凍しているものは、海水をかけた状態で冷凍されていることがあるので、こちらも使用する前にはしっかり流水で洗い流しましょう。
刺し身や寿司を買った来た場合は、購入後から低温管理を徹底しましょう。刺し身などは食べる直前まで冷蔵庫に入れておくことをおすすめします。冷蔵庫の中の温度は、10℃以下、できれば5℃くらいが理想的です。開け閉めすることで冷蔵庫内の温度は上がりやすくなるので、気を付けてください。また、物を詰め込み過ぎている場合も温度が上がりやすいので、冷蔵庫の中は整理整頓しておくことをおすすめします。
魚を家で調理する際は、使用したまな板・包丁、ふきん、シンクの洗浄をしっかり行いましょう。下処理したシンクや調理器具には、菌が付着しているという想定で洗浄をすることを心がけ、下処理後は手洗いをしてから他の調理をしましょう。
通常、加熱調理を行えば食中毒菌をやっつけることができますが、「腸炎ビブリオ菌」の心配がなくなるというわけではありません。1999年、北海道紋別市でボイルしたタラバガニを食べた人たち509人が腸炎ビブリオ食中毒になりました。これは、ボイル後のカニを入れていた籠をボイル前と同じ床面に置いていたことで汚染が起きたとされています。
また、1955年には、魚の下処理を行ったまな板を十分に洗浄しないままきゅうりを切ったことで、腸炎ビブリオがきゅうりに付着し、きゅうりの浅漬けを食べた人達が食中毒になったという事例もあります。
このように国内で報告されている事例を見ると、生魚の洗浄や、調理に使用したものの洗浄が、いかに大切かがわかりますね。
また、個人的に釣ってきた魚を自宅で調理して食中毒が起きたという過去の事例もあるので、獲ってきたものを家庭で調理する際には、新鮮なものであっても菌の除去に気をつけましょう。
「腸炎ビブリオ食中毒」の特徴的な症状としては、上部胃痛という激しい腹痛が起こることです。十二指腸に強く影響し、胃の痛み、下痢の症状が出る場合もあります。潜伏時間は、菌の量にもよりますが数時間から24時間以内です。
腸炎ビブリオ食中毒の場合、特に抗菌薬治療を行わなくても数日で体調が回復すると言われています。
なお、食中毒では通常下痢止めは使用しません。症状が長引くなど心配な場合はかかりつけ医に相談してください。
お刺身やお寿司などの生魚が食卓に並ぶことが多い私たちの生活の中では、「腸炎ビブリオ食中毒」を予防するための知識を持っていることがとても大切です。
魚介類を家で扱うときには、低温保存と調理器具の洗浄徹底を意識して、安全安心に食事を楽しめるようにしましょう!
(TEXT:上原かほり)
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