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お米は日本の主食ですが、世界を見渡すとお米を食べている国は意外とたくさんあります。お米の食べ方や炊き方、保管方法、そしてお米の価値観など、世界のお米を知ると、その多様性や魅力を再発見することができます。そこでこの連載では、知っているようで知らない海外のお米料理をお米のコバナシとともにお米ライター柏木智帆がお届けします。
イタリアのリゾットに使われているお米の代表品種と言えば、「CARNAROLI(カルナローリ)」。日本のお米よりも乾燥していて、大粒で、米粒が白く濁っています。また、でんぷん粒が粗いためスープを吸いやすく、粘り気がないのでリゾットに適しています。
日本では新米が好まれていますが、イタリアでは新米よりも古米が好まれ、「ヴィンテージ米」として重宝されているそうです。以前にカルナローリの11年物と3年物を使ったリゾットで実験してみたところ、11年物のほうがぐにぐにとした弾力を楽しめ、冷めてもアルデンテ具合が変わらず、水分が均一な印象を受けました。
イタリアンレストランのシェフにお願いして日本米でも新米と古米でリゾットを作り比べてもらうと、古米のほうが吸った出汁の量が多く、ふっくらとして、食感が均一で弾力が良く、アルデンテがザクッとしすぎない食べやすい仕上りになっていました。さらに、新米のリゾットは冷めると硬くなってきましたが、古米のリゾットは冷めても食感が変わりませんでした。
なぜ古米のほうがおいしいリゾットに仕上がるのか、以前にお米の食味学の大家に尋ねたところ、こう教えてくれました。
長期間貯蔵することによって劣化したお米は、タンパク質を構成している分子構造が変化します。すると、普通に炊飯した場合は硬くなって粘りが弱くなり、おいしくなくなってしまうのです。しかし、そうしたお米をリゾットに使うと、煮崩れしづらい上に粒立ちが良く仕上がる…というわけです。
ただし、ここで言う古米とは買ったまま食べずに放置してしまったお米のことではなく、低温管理で貯蔵したお米のことです。
そろそろ新米が出回る季節ですが、昨年産のお米を購入したらリゾットを作ってみてはいかがでしょうか。
日本のお米は品種にもよりますが、カルナローリと同様に生米から一気に仕上げる方法でリゾットを作ると粘り気が出てしまいます。
日本米でもおいしいリゾットを作ることはできますが、プロの味を目指すのであれば、こんな裏ワザがおすすめです。
以前にイタリアンで食べた日本米リゾットはいずれも生米から一気に完成させるのではなく、事前にある下ごしらえをしていました。
それは、お米の「ベータ化」です。ベータ化とは、加熱しておいしく食べられる状態になってから冷却や乾燥によって硬い状態に戻ること。そのまま食べても消化が難しい状態です。反対に、加熱して米粒がふっくらとやわらかくなり消化しやすい状態になったことを「アルファ化」と言います。つまり、私たちが日常的に行っている炊飯はお米をアルファ化させる作業です。アルファ化させてからベータ化させたお米は、粘り気がなくパラパラとします。
リゾットの調理直前のお米を見せてもらうと、麹のようにパラパラでした。事前に一度火を通してアルファ化してから、冷却でベータ化していたのです。この状態のお米に提供直前に火入れすることで、絶妙な食感のリゾットが完成するというわけです。
具体的には、水分を少なくして「5割炊きにしたお米」を冷蔵庫へ入れてベータ化しているシェフもいれば、同じく少なめの水分で煮込んだお米をオーブンへ入れてまだ硬めの状態のまま扇風機でパラパラにしてから冷蔵庫へ入れるというシェフもいました。
こうして作られたリゾットは1粒1粒をしっかりと感じられる仕上りで、程よい弾力とアルデンテが楽しめました。いずれも出汁と塩だけというシンプルな味付けだったこともあり、お米の旨みも感じられました。
ひと手間はかかりますが、本格的なリゾットが食べたい!という時はぜひ試してみてはいかがでしょうか。
お米ライター。元神奈川新聞記者。お米とお米文化の普及拡大を目指して取材するなか、お米農家になるために8年勤めた新聞社を退職。2年にわたってお米を作りながらケータリングおむすび屋を運営した。2014年秋からは田んぼを離れてフリーランスライターに。お米の魅力や可能性を追究し続ける、人呼んで「米ヘンタイ」。
【ブログ】柏木智帆のお米ときどきなんちゃら
【クックパッド】柏木智帆のキッチン
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