私たちにとってお米はあって当たり前の存在ですが、実は意外と知らないことだらけ。そこで、巷でよく耳にするお米に関する「疑問」や気になる「噂」をお米ライター柏木智帆が検証します。おいしい白飯や米料理さえあれば食卓は豊かになる!をモットーにお米のおいしさを追究していきます。
新米の季節になると各種メディアは新米ネタだらけ。その中で「新米は水分が多いので水を少なめに」と見聞きすることがとても多いのですが、実は「新米は水分が多い」というのは間違いです。
お米は収穫後に乾燥してから籾摺り(もみすり……もみがらを外す工程)しますが、一般的に乾燥は機械で行い、水分値を測って15%前後までに落としていきます。しっかり乾燥させないと籾殻(もみがら)がうまく外れません。
たしかに1年経った古米は、新米に比べれば保管状況次第で水分値が減る場合もありますが、一般的にお米はしっかりと温度と湿度が管理された環境で玄米のまま保存されているため、大幅に水分が飛んでしまうことはありません。
では、なぜ新米は「みずみずしくやわらかめ」に炊きあがるのでしょうか?
1つ目の理由は、収穫したてのお米はタンパク質の組織構造がやわらかいということ。 2つ目は、米粒の水分値が落ち着いていないということです。
たとえば、お米は1袋30kgの玄米で流通させることが一般的ですが、新米の頃はこの1袋の中でも米粒によって水分値がばらばらです。
実際に水分値を測ってみたところ、ある新米は同じ袋の中でも15.4%だったり15.6%だったりと多少のばらつきがあり、急乾燥させた別のある新米は同じ袋の中でも16.8%だったり14.3%だったりとかなりのばらつきがありました。同じ機械乾燥であっても機械の性能や乾燥方法によってもばらつきの大小はあります。
さらに、同じ袋の中から米粒サンプルを選ばずに計測した場合は15.9%、15.6%、15.7%と多少のばらつきだった新米でも、「活き青(いきあお)」と呼ばれる未成熟米だけを抽出して計測すると、18.3%、17.3%と大きなばらつきが出ました。1回の計測でサンプルのお米は10粒ほどを抽出してその平均値を出しますが、1粒単位で見ていくと水分のばらつきはもっと顕著である可能性があります。
一方で、冷蔵保存で1年寝かせた古米は1袋の中の水分値が安定していて、どこをとってもぴったり同じ数値でした。 ちなみに、乾燥の際には「テンパリング」といって籾同士の水分を移動させて均一にする作業工程がありますが、じっくりと“1年かけたテンパリング”にはかなわないようです。
こういうわけで、新米は水っぽく炊きあがりやすいため「水を少なめにして炊く」という方法自体は間違いとも言えません。
とは言え、ひとくちに「新米」と言ってもお米の質はそれぞれ違います。たしかに水を若干少なめに炊くのはベターではありますが、組織のやわらかさも水分のばらつきもお米によって違うため、実際にはみずみずしくやわらかめに炊ける新米もあれば、そこまでみずみずしくやわらかめに炊けない新米もあります。
一律に水分を少なめにして炊くよりも、まずは通常通りに炊いてみて、2回目の炊飯からお好みに合わせて炊飯水の量を変えることをおすすめします。まずはお米と向き合うことが大事です。
過去に私が稲作に従事していた時に自分が作った新米を食べたところ、みずみずしさはあっても旨みを感じられず、「ああ、昨年のお米のほうがおいしかった」とショックを受けたことがありました。しかし、3カ月ほどすると旨みが出てきました。
その時は私の思い過ごしかと思っていましたが、その後「お米は収穫後2〜3カ月すると味がのってくる」「年明け頃から水分が落ち着いてきて味わいが増す」という言葉を料理人や米屋から聞き、やはり時間とともに味がのってくるのだと確信しました。
ちなみに収穫したお米を「新米」と呼ぶのは、現在の米業界では収穫年の12月31日まで。年が明けると、「新米」ではなくなります。
新米を大切に思う日本人の感性はとても素敵ですが、実際は新米でなくなってからのほうが味わいは増してくる場合が多いように感じます。
とは言え、これもそれぞれのお米の質によって変わります。やはり新米の頃がおいしさのピークというお米もあれば、年が明けて味がのってきても春先に味が落ちてしまうお米もあり、春先からさらに旨みを増すお米もあります。玄米の状態で冷蔵保管される日本のお米は、収穫してからも生き続けているのです。
同じお米を年明けに再度購入して味の違いを試してみるのはいかがでしょうか。
お米ライター。元神奈川新聞記者。お米とお米文化の普及拡大を目指して取材するなか、お米農家になるために8年勤めた新聞社を退職。2年にわたってお米を作りながらケータリングおむすび屋を運営した。2014年秋からは田んぼを離れてフリーランスライターに。お米の魅力や可能性を追究し続ける、人呼んで「米ヘンタイ」。
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