私たちにとってお米はあって当たり前の存在ですが、実は意外と知らないことだらけ。そこで、巷でよく耳にするお米に関する「疑問」や気になる「噂」をお米ライター柏木智帆が検証します。おいしい白飯や米料理さえあれば食卓は豊かになる!をモットーにお米のおいしさを追究していきます。
「お米に◯◯を入れるとおいしくなる」という情報をあちこちで耳にします。
そこで、水だけの炊飯と炊き比べてみることにしました。いずれも、同じ米、浸水時間、水温、水量、蒸らし時間、同じ型の炊飯器の早炊きモードです。
まず試したのは「日本酒」。 最初は3合のお米に大さじ2の酒を入れて炊飯してみましたが、あまりにも酒の香りが強い…。そこで、改めて2合のお米に小さじ1の酒を入れて炊飯しました。浸水は水だけで行い、炊飯直前に酒を入れました。
最初に使ったのは、米と米麹だけで造られた紙パック入りの「清酒」で、アルコール度数は「14度以上15度未満」。
炊けたごはんは、やはり酒の香りが強い……。しゃもじを入れると若干のどっしり感があり、ツヤやふっくら感は変わりません。
炊きたては米肌がべたつきましたが、あら熱が取れるとおねば(米粒から溶け出したでんぷん)でもったりとした米肌に。米粒同士がくっつき、時間が経つほどにダマになりやすく感じました。
そして、若干、本当に若干ですが、普通炊飯よりも軟らかいような…。ただし、冷めても保温し続けても風味は酒。米本来の香りや旨みや甘さは感じづらいので、そのまま食べておいしいお米に酒を入れるものではないと確信しました。酒の香りと風味のせいか、食べ続けていると少々くどいように感じられました。
使った酒のせいかな?と思い、今度は製造元が炊飯にもすすめている「純米酒」を使ってみました。
米と米麹だけで造られ、アルコール度数は「17度」。それでも、結果はほぼ同様。違う点は、数回炊飯した中でツヤが変わらない時もあれば、若干ツヤがあるように見えた時もあったこと。酒を炊飯直前ではなく浸水時から入れてみたりもしましたが、保温し続けたときに甘さが増して、よりくどいように感じられました。
今度は、お米2合に15mlを加えて炊くとふっくらつやつやになると製造販売元がおすすめしている「にがり」を入れて炊飯してみました。
炊けたごはん粒の表面はつるりとしてなめらかですが、ツヤもふっくら感も変わりません。口に入れた瞬間、思わず「しょっぱい…」。食べ進めていくと、だんだん塩気に慣れてきました。
どうも、「ふっくらつやつや」にならない……というわけで、どんな作用で「ふっくらつやつや」になるのか、製造販売元に問い合わせてみました。すると、「にがりのマグネシウムが、お米に含まれるペクチンと結合してお米の表面を包み込み、水分と旨みを保つ。その結果としてふっくら感じるのです」と教えてくれました。
「ふっくらつやつやにならなかったのですが…」と言うと、「もともとふっくら炊ける米ににがりを入れても大差がありません。ふっくら炊けない米ににがりを入れると変わりますよ」とのことでした。
ふっくら炊けない米を入手しようと思いましたが、発見するのは意外と難しいものです…。ちなみに、ごはん粒の表面がつるりとしていたのは「べたつかずに炊けて、冷めたときもべたべたしにくい」というにがりの作用だそうです。
次に試したのは「みりん」。みりん風調味料ではなく、糯米(もちごめ)、米麹、本格焼酎だけを使った、アルコール分13.5%の「本みりん」を使いました。
2合に小さじ1のみりんを入れて炊飯してみると、ごはんがツヤツヤとしていました。そして、わずかに茶色味を帯び、ほんのりとウイスキーのような香り。酒よりも香りがきつくありません。米肌はなめらかでしっとり。粒立ちがよく、噛みこんでいくとほのかな甘さがあります。炊飯前は「なんだか甘ったるそう…」と食指が動かなかったのですが、意外においしい。冷めてもツヤとなめらかさが続きましたが、食べ続けていると甘さが少々くどいように感じられました。
個人的にはお米は水だけで炊くのが一番だと思いましたが、「お米に◯◯を入れるとおいしくなる」の◯◯の原材料や製法や使用量、使うお米の質や劣化具合、そして何よりも好みによって変わります。軟らかいのがおいしいのか、酒の香りがおいしいのか、「おいしさ」は人それぞれ。メディアの情報をうのみにせず、自分好みの味わいに出会えるかどうか、ぜひ試してみてください。
お米ライター。元神奈川新聞記者。お米とお米文化の普及拡大を目指して取材するなか、お米農家になるために8年勤めた新聞社を退職。2年にわたってお米を作りながらケータリングおむすび屋を運営した。2014年秋からは田んぼを離れてフリーランスライターに。お米の魅力や可能性を追究し続ける、人呼んで「米ヘンタイ」。
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