長野県にあるイタリアンレストラン『リストランテフロリア』のオーナーシェフである小林諭史さん。お店を経営する傍ら、YouTubeチャンネル「Chef Ropia」を開設し、YouTuberとしても活動。6年間でチャンネル登録者数が約45万人(2020.11月現在)という大人気チャンネルになっています。YouTubeを通して、イタリアンを手軽に楽しむコツや、まかない飯などを紹介。そんな小林さんに、おうちでイタリアンを楽しむときのポイントを聞きました。
おうちでイタリアンを作ると聞くと、なんとなく難しそうというイメージを持たれる方も多いかもしれません。でも、難しく考える必要はないんです。まず、何が入っていたらイタリアンの要素が出るかな? と考えてみてもらうと簡単に思えてくるのではないでしょうか。
例えば、トマト、バジル、モッツァレラチーズなんてどうですか? その3つの食材があればおいしいパスタが作れます。仕上げにオリーブオイルをかければ、本格的なイタリアンの完成です。
イタリア料理は、凝って難しすぎるようなレシピはあまりありません。イタリアンテイストが出る食材や調味料を使えば、簡単におうちで手軽にイタリアンが楽しめるんです。
最近は、スーパーでも数種類のオリーブオイルが棚に並んでいますよね。オリーブオイルと一言で言っても、「ヴァージンオリーブオイル」、「エクストラ・ヴァージンオリーブオイル」、「ピュア・オリーブオイル」など、さまざまな種類のものがあります。よく「どのオリーブオイルを選んだらいいの?」という質問をいただくのですが、こればかりは完全に好みの問題になってしまうんです。
価格的な部分でいえば、「ピュア・オリーブオイル」が手軽に使えておすすめです。「エクストラ・ヴァージンオリーブオイル」は値も張るし、香りが邪魔になり苦手……という方もいらっしゃいます。
なので、オリーブオイルは、味、香り、価格を見てお好みのものを見つけていただくのがいいかなと思います。
その中で、炒め用、サラダやカルパッチョなど、仕上げ用など、使い分けができるようになれば上級者の仲間入りです。
今日はイタリアンな気分、というとき、ストックしておくとすぐに使えて便利な食材がいくつかあります。それが、アンチョビ、ケッパー、ドライトマトです。
使い方としては、うまみ出しやちょっとしたアクセントに使うだけでOK。これらの食材を使うことで、いつものメニューに一味加わり、全く違うテイストを楽しめるかと思います。保存が効くというのも嬉しいポイントです。
ドライトマトは、パスタのアクセントに入れたり、オイル漬けにしてサラダに使ったりできます。
もう一つ、忘れてはいけないのがトマト缶です。トマト缶さえあれば、パスタソースやカポナータがすぐに作れてとても便利なんです。トマト缶には、ホールのものとカットのものがあります。もちろんお好みでかまわないのですが、カットの場合はどの品種のトマトを使っているのかがわかりにくいので、ホールのほうが使いやすいかなと思います。
実は、あまり知られていませんが、トマト缶はメーカーによって味が違うので、お好みのものを見つけてみるのも楽しいかもしれません。僕は長年『ピノキオ』というメーカーの物を使っています。
そして、少し上級者向けに感じる方もいるかもしれませんが、ハーブやスパイスを使うと、より本格的な味に仕上げることができます。買うと高いイメージがありますが、僕がおすすめするローズマリーやタイムは、プランターで簡単に栽培できるので、ベランダやキッチンの窓際など、少しのスペースでぜひ挑戦してみてください。
やはり、フレッシュハーブを使ってお肉、お魚を焼いたり、サラダに混ぜたりするだけで仕上がりに差がつきますよ!
おうちで手軽に作れるパスタといえば、オリーブオイル、にんにく、鷹の爪を使ったペペロンチーノですよね。材料も作り方もとってもシンプルなのに、実は作り方は奥が深いメニューの一つなんです。
ペペロンチーノを作るときの重要なポイントは、しっかり乳化させてあげること。オイルにゆで汁を食わせて乳化させることで、仕上がりが驚くほど変わります。目安として、シャバシャバしていると感じたらオイルが足りない状態、ギトギトしているときは水分が足りていない状態です。目で見て調整していきましょう。
また、これもよく質問をいただくのですが、パスタを茹でるときの塩分量。実は。この濃度に答えはないんです。1%以下で作っているシェフもいるし、2%超える人もいるのですが、作りやすいのは、1~1.5%かなと思います。目安として100gの乾麺は1Lのお湯で茹でましょう。
また、茹でるときの火加減は沸騰する状態ではなく、パスタがポコポコするくらいで茹でるのが理想的です。
僕がボロネーゼを作るときに心がけている3つのポイントがあります。その1つが、「味出しの塩」。皆さんは、料理をするときに下味の塩を使いますよね。「味出しの塩」は下味とは違います。例えば、玉ねぎをソテーするときに塩をふると、塩の浸透圧で玉ねぎの水分が早くひっぱりだされて、旨みが凝縮されるんです。
「下味のお塩」というのは、その名の通り食材に塩味を入れてしっかりと味を前もってつけておくという塩。「味出しの塩」は、水分を早めにだしてうまみを凝縮させるお塩と覚えてください。すぐに使える簡単テクニックです。
そして2つ目が、挽き肉にしっかり焼き目をつけること。例えば、ボロネーゼソースを作るとき、挽き肉は強火でしっかり茶色い焼き色がつくことをメイラード反応といい、うまみを引き出すんです。お肉のうまみを最大限に出せる調理法です。
3つ目のポイントは、赤ワインで鍋底のうまみを溶かすこと。煮込んでいく中で、鍋のまわりにうまみが詰まったソースの水分が飛んで乾燥してしまう部分がでますよね。そこもうまみの塊になるので、それをソースの中に戻してあげましょう。
どんな料理も、しっかり工程を踏むことでうまみがしっかり出て、余計な味つけをしなくても味が決まりますよ!
僕は『カルボナーラ』が好きでよく作ります。本で紹介しているレシピでは、卵液に冷ましたゆで汁を混ぜ合わせておきます。カルボナーラは、火が入りすぎて卵がボロボロになって失敗する方が多いので、失敗回避のために先に卵を伸ばしておくと、失敗知らずで本格カルボナーラが作れますよ。また、パンチェッタやベーコンは、カリカリになるまで火を入れるのがポイントです。
ソースとパスタの相性ですが、基本的には、細い麺が軽いソース、太い麺が重いソースとされています。
例えば、ペンネは食感がしっかりしているので、弾力を一緒に楽しめるパンチェッタと合わせてアラビアータとして楽しむといいですね。また、ニョッキは、クリーム系をイメージされる方が多いと思うんですが、実はボンゴレのようなさらっとしたものとも相性が良いんです。
一般的な組み合わせはいろいろありますが、イメージになくても食べてみると合う組み合わせはたくさんあるので、お好みを発見してみてください
本の中で紹介しているレシピは、まかない以外はお店で提供しているメニューばかり。その中の『ナスのカポナータ』は、本のレシピだと玉ねぎ、なす、ズッキーニを使っていますが、これからの季節は、味の核になる玉ねぎ以外の野菜を変えて作ってみるのもおすすめです。冬野菜のかぶとじゃがいもの組み合わせは、おすすめです。あと、お店では味わえないまかないレシピでは、ぜひ『イタリアンチャーハン』を作ってみてほしいです。店のみんなで、イタリアンに寄せられるように考えて作ったものなんです。
僕のはじめてのレシピ本です。いろんな思いと自信作をたっぷり詰め込みました。レシピページには、作る工程の時間軸を表記しています。料理は、着地点を想像しながら作るってすごく大事です。時間軸を見ることで視覚的にイメージしやすく作ってあるので、ぜひ参考にしてみてください。料理は、基本があるけど答えがないというおもしろいものなので、難しく考えずにとにかく楽しんで、自分なりの答えを見つけてもらえたらと思います。
(TEXT:上原かほり)
イタリア料理店『リストランテ・フローリア』オーナーシェフ。同店の経営と並行して、イタリアンのコツをわかりやすく伝えるレシピや、プロの技を惜しみなく公開するYouTubeチャンネル『Chef Ropia』を運営すると人気爆発。「オムライス仕込みから提供まで」は316万回視聴。チャンネル登録者数は現役シェフトップクラスの45万人オーバー(2020年11月現在)。