パリの老舗料理学校『ル・コルドン・ブルー・パリ』で製菓を学んだ、お菓子のプロで料理研究家の井上真里恵さん。そんな井上さんが今回発売したのは、本格的なスイーツではなく、なんと「簡単おやつ」の本! 簡単だけど、お腹だけじゃなく、心もちゃんと満たされるおやつをコンセプトに作られたという本書への想いと、「思いつきおやつ」という計量なしで作れるおやつについてお伺いしました。
お菓子作りというと、たくさんの材料や道具、厳密な計量や特殊な技術が必要で、面倒なイメージですよね。この流れを想像するだけで、どうしても初心者はひるんでしまいがちです。ところが、本書で紹介されている「思いつきおやつ」は、この面倒なものがどれも不要で感動しました。
「『きょうのおやつ』のはじめの20品(思いつきおやつ)は、レシピがなくても材料と写真を見ただけで作れるものにしました。お菓子作りって、レシピを見るのが大変という方もいると思うんです。だから、難しいレシピは一切なし。市販のお菓子を使ったり、材料を少なくしたりして、とにかく簡単に楽しんでいただきたいという想いで作りました」(井上さん)
簡単だと見た目が良くなかったり、味もそれなりになってしまうことが多いのですが…。
「簡単なだけでなく、食べたときに、おいしくて幸せになるようなことも意識しました。家で仕事をしている時とかに、ちょっとだけ甘いものが食べたくなるときってありますよね? 「チョコでもアイスでも飴でもなくって、レーズンバターサンドみたいな満足感のあるものを食べたい」みたいなときに、パッと簡単に作れるレシピにしています」(井上さん)
それは嬉しいです! そういう時になんとなくコンビニに行ってスイーツを買わずに、コンビニに行く時間くらいでささっと満足度の高いおやつが作れたら最高ですよね。ちなみに「思いつきおやつ」の中での、先生のお気に入りはどのレシピですか?
「水切りヨーグルトにホイップクリームを混ぜるだけの「ヨーグルトのクレームダンジュ」や、市販のメレンゲ菓子を活用した「パブロバ」、練乳とバターを使ったお手軽な「レーズンバターサンド」はおすすめです。見た目も華やかなので、お客さんがいらした時にお出ししても良いと思いますよ」(井上さん)
レーズンバターサンドがこんなに手軽に作れるなんて!と驚きました。やっぱり濃厚な味わいは心も満たされますね。
早速、「思いつきおやつ」を実践しようと思うのですが、「甘い物が食べたいな」と思ったときにすぐ作れるように、常日頃ストックしておくと便利な材料があれば教えてください。
「卵、牛乳、砂糖、レモン汁など、家庭に常備されているものにプラスして、クリームチーズ、バター、チョコレートがあれば結構いろいろなものができると思います。また、ちょっとだけグレードを上げたいときには、生クリームがあると便利です」(井上さん)
なるほど。生クリームは、割高だったり、使い切れなかった場合のことを考えるとなかなかストックできないのですが、これからの季節はシチューやグラタンにも使えるのでストックしておいても良さそうですね。
「ホットケーキを焼いても、ホイップクリームを乗せるだけでぐっと華やかになってボリューム感も出ます。確かに手頃な値段ではないですが、使おうと思うといろいろ使えるので、冷蔵庫に1つストックがあるだけでお菓子作りが楽しくなりますよ」(井上さん)
その他に、あると便利なものを使ったおすすめの簡単レシピはありますか?
「クリームチーズは、砂糖とレモンを混ぜるとチーズケーキ味になるんです。あと、マシュマロをヨーグルトに1日漬けると、ほどよく溶けてそれだけでもおいしいんです。おかず用に買ってあるお豆腐も実はお菓子になるんですよ。豆腐に、黒蜜やきなこをかけてもいいし、白玉粉に水代わりにお豆腐を混ぜてもおいしいです。本では紹介していないんですが、ホットケーキミックスと豆腐を1:1で混ぜて作るドーナツもおすすめ! シナモンシュガーをかけて食べると、あっという間になくなっちゃいます」(井上さん)
いつも冷蔵庫に入っているものやストックしている粉物を使うだけでも、本当にいろいろなお菓子が作れるんですね。今回市販のお菓子も活用されていると思うのですが、買っておくと便利な市販品も教えてください。
「そうですね。パイ菓子、ビスケット、マシュマロがあると便利です。また、ナッツ類、メレンゲ菓子は、添えるだけで食感に変化が出せます。アイスクリームと組み合わせてパフェのようにしてもいいですよね。今回の本で使って、私も欠かせなくなったのは、フラワートルティーヤ。これはチョコピザや蛋餅(ダンピン。台湾のクレープのような料理)にもできますし、普通にブリトーとしても使えるのですごく便利です! お菓子だけでなくて、本にもあるようにマドレーヌをレモン汁にひたして、とろけるチーズをかけてトースターで焼く「とろけるチーズケーキ」のようなアレンジもおいしいです」(井上さん)
1.マドレーヌを裏返して耐熱皿にのせ、レモン汁をたっぷりしみ込ませる。
2.とろけるチーズをのせ、トースターでチーズが溶けるまで焼いたら完成!
「思いつきおやつ」というだけあって、自分でお気に入りの味やお菓子を組み合わせながら創作もできちゃいそうです。
いきなり難しいものにチャレンジして失敗し、「お菓子って難しい」という印象を抱いてしまっている方も多いと思います。そうならないためには、どういうステップでお菓子作りにチャレンジするといいですか?
「成形の必要がないお菓子からスタートしてみると良いと思います。今回の本で言うと、水切りヨーグルトにホイップクリームを混ぜるだけの「クレームダンジュ」。これは簡単だけどコクがあって、すくって盛り付けるだけなので、おすすめですよ」(井上さん)
ついつい見た目のかっこいい、難易度の高いものからチャレンジしてしまうのですが、言われてみれば形づくりのないものから作ってみるのは良さそうですね。
「クッキーだと途中で生地がだれてしまったり、型から外すときに崩れてしまったり、失敗しそうな工程が多いので、まずは簡単においしく作れるものからはじめて、自信をつけていくのが良いかもしれないですね。
お菓子作りは、道具は多いし、それぞれの道具が大きいから、本格的に始めるとなると気合も時間も必要になるんです。まずは、気軽にはじめられることからやるのが一番。
お菓子のなかには普通の料理と同じように、冷蔵庫にある材料のちょっとした組み合わせでできるものもあるので、好みの組み合わせをみつけて楽しんでみてくださいね」(井上さん)
確かに普通の料理と分けて考えてしまっていましたが、簡単な組み合わせで楽しめる「おやつ」なら気負わずにはじめられそうです。
(TEXT:上原かほり)
お菓子の写真集のように見ているだけでワクワク、うっとりする1冊。
記事でご紹介した「思いつきおやつ」の中には、レンジでできる手作りクリームもあり、市販品に塗るだけで立派なおやつになりそうです。今まで腰が重かった方も「私にもできるかも!」という気持ちにさせてくれますよ。
家で過ごす時間が増えている今、ぜひこの本の中から「作れそう」「食べたい」と思えるものを見つけて、おやつタイムを楽しんでみてください。
料理研究家、「井上食生活デザイン」主宰。
フランスのル・コルドン・ブルー・パリで製菓を学び、料理研究家のアシスタントを務めた後、独立。ヨーロッパでの生活経験を活かし、家庭で楽しめる料理やお菓子を伝えている。雑誌、広告、企業、店舗へのレシピ提案や商品開発など、食に関する多様な分野で活動中。
>> Instagram : marie.courantmarin