世界中の台所を訪れて現地の人と料理をする台所探検家・岡根谷実里さん。今回から全3回で、2020年12月18日に青幻舎から発売される岡根谷さんの初の著書『世界の台所探検 料理から暮らしと社会がみえる』から、おすすめのエピソードとレシピを厳選してお届けします。
クリスマスにお正月...家族や親しい人と、食事を共にすることが多い時期ですね。
そんなとき、日本の食卓で目にするご馳走といえば、ちらし寿司やローストビーフなどの、どーんと大皿にのった料理。そこで今回は、今の時期におすすめの中東ヨルダンの大皿料理を紹介します。
中東ヨルダンの地方都市に住む、5人家族のマリアムさん家で教わったのが、この『マンサフ』。
薄いクレープのようなパンの上に、鮮やかな黄色のターメリックライスを広げ、その上にスパイスとヨーグルトで煮込んだチキンをのせた、豪快な料理です。直径60cmほどの皿にどーんと盛られて、インパクトも絶大!
また、この料理に使うヨーグルトは、世界最古のヨーグルトと言われる『ジャミード』。ヤギや羊の乳を加工し乾燥させて作るベドウィンの伝統食で、石のようにカチコチです。
砂漠で移動式の生活を送る人々から生まれた知恵から生まれた、この『ジャミード』が料理のポイントになっています。
盛り付けが完了した料理が食卓の運ばれると、ひとりひとりにヨーグルトソースが配られました。すると、「こうやって食べるんだよ」と大皿のごはんに、直接ソースをかけ、汁気を含んだご飯をスプーンでまとめて口に運ぶのです! 「ヨーグルトをご飯にかけるの!?」「え、取り皿なしで大皿から直接食べるの?」と、一瞬ひるんでしまいました。
不安をよそに、ひと口食べると、ヨーグルトソースが鶏肉の脂と相まってまろやかなおいしさに変わっていました。スパイシーで、こってりしつつも酸味で引き締められている…なんとも複雑で、はじめて体験する味! 同じ皿の飯を共にする経験を通して、心が近づいたような気持ちになったのでした。
後で調べてみると、この料理はもともと、砂漠を遊牧する民ベドウィンのご馳走だったとのこと。この家庭ではスプーンを使っていましたが、元々はそれすらもなく手で食べるものだったそうです。洗い物いらずで水を使わず、大人数で分け合えるのは、砂漠の食卓だからこそ生まれたのかもしれません。
みなさんにもぜひこの味を体験してほしいと思い、マリアムさんの作り方を元に、日本でも作りやすいレシピを考えました! ぜひチャレンジしてみてくださいね。
米…2合
鶏もも肉…2枚(500g)
玉ねぎ(角切り)…1/2個
にんにく(薄切り)…1片
水…400ml
固形ブイヨン…1個
【A】
バター…5g
塩…少々
ターメリックパウダー…小さじ1/4
【B】
ターメリックパウダー…小さじ1
カルダモンパウダー…小さじ1
こしょう…少々
【C】
無糖ヨーグルト…400g
薄力粉…大さじ2
塩…適量
皮なしアーモンド、イタリアンパセリ…各適量
1. 米を研ぎ、いつもの水加減に【A】を加え炊飯器で炊く。
2. 鶏もも肉は1枚を6等分に切る。
3. 鍋に油(適量・分量外)をひき、鶏もも肉、玉ねぎ、にんにく、【B】を加えて炒める。
4. 玉ねぎが透き通ったら、水と固形ブイヨンを入れ、20分ほど煮る。
5. 別の鍋に、ヨーグルトと薄力粉を入れ、ダマがないように泡立て器でよく混ぜ弱火で温める。
6. 4をざるで濾し、煮汁だけを5の鍋に加え、混ぜる。その後、鶏肉も加える。
7. 弱火で10分ほど煮て、塩加減が薄ければ足す。ソースなので、塩気は強めがよい。
8. 油(少々・分量外)でアーモンドを揚げ炒りして軽く色付ける。イタリアンパセリはみじん切りにしておく。
9. 大皿に1を広げ、 鶏もも肉をのせ、8のアーモンドとパセリを飾り付けに散らす。 鍋に残ったヨーグルトソースは、別の器に入れて添える。
※食べる時はソースをかけて、個別の皿に取り分けてからお召し上がりください
今回ご紹介した大皿料理「マンサフ」からは、砂漠の気候や暮らしぶりを知ることができたりと、世界の家庭の食にはその土地土地の文化や歴史にまつわる情報がたくさんつまっています。
海外旅行が難しい今は、行かずとも世界を感じることができる「料理」にチャレンジして、お家にいながら世界旅行を楽しんでみてくださいね!
次回は、コロンビアの朝の定番ドリンク『チョコラテ』をご紹介します。
読んで、作って、食べて、世界の暮らしをめぐる旅に出かけてみませんか?
”食から世界を旅する”本が、12月18日に発売になります!
「世界の台所探検家」として世界各地の台所をめぐっている岡根谷実里さんが、現地の人と一緒に料理や食事をして体験した、リアルな暮らしと文化のストーリーをたくさんの写真と共に紹介。コラムでは、台所を飛び出して、市場や調理道具、その地域ならではの食習慣も味わえます。
観光ガイドブックとは違う、その国に住む“普通の人々の暮らし"を、現地家庭で教わった料理レシピ13品とともに、体験してみませんか?
台所探検家。世界各地の家庭の台所を訪れ、世界中の人と一緒に料理をしている。これまで訪れた国は60カ国以上。料理から見える社会や文化、歴史、風土を伝えている。
公式ブログはこちら>>