【注目のYouTube料理チャンネル Vol.2】YouTubeの人気ジャンルの一つでもある「料理」。数多あるチャンネルの中で、何を見たら良いかわからないという方も多いはず。本連載では編集部がいま注目しているチャンネルをご紹介します。
連載第2回目は登録者数8.50万人(2021年2月14日現在)の人気チャンネル「こじまぽん助【分子調理学研究家】」に注目しました。分子調理学とは、料理のプロセスを科学の視点で捉え、従来の調理に科学的な裏付けをしたり、新たな調理法を生み出す考え方です。この考え方をもとに「家庭料理をおいしくする」ことをテーマにレシピ動画を投稿しているこじまぽん助さん。今回はそんなぽん助さんのレシピ動画投稿の裏側や、現在に至るまでの経緯についての取材です。それでは、さっそくお話を伺ってみましょう!
−−まずはじめに、YouTubeを始めたきっかけを教えてください。
ぽん助さん「2013〜2014年にかけて何本か動画をアップしたのですが、当時は仕事柄、あまり時間をかけられなくて。途中で投稿をストップしてしまいました。実はクックパッドへのレシピ投稿も、同じ理由で一時ストップしていたんです (苦笑)。
月日は経ち、2019年の夏頃に改めて動画投稿をスタートしました。きっかけは、ある食品メーカーの方からの一声で。『こじまさんのレシピや料理の知識は、もっと多くの人に伝えた方がいいよ』と言ってもらえたんです。
普段僕は料理家として、メーカーさんの“裏方”の立ち位置で、レシピ開発や料理動画制作の仕事を請けていて。その中で、背中を押してもらえたのがきっかけで、YouTube、クックパッドへのレシピ投稿を再開したんです」
−−メーカーを支える裏方だったぽん助さんは、レシピや料理の知識を伝えるべく、表舞台へ登場することを決意されたのですね。では、チャンネルのコンセプトを教えてください。
ぽん助さん「大きなテーマは“日本の家庭料理をもっとおいしく”です。それをコンテンツに具体的に落とし込むために、“材料は同じ、テクニックも不要、だけど圧倒的においしく作れる”というサブテーマを設けました。
そもそもなぜ“日本の家庭料理をもっとおいしく”なんて大きなテーマを掲げているのかというと、これも食品メーカーや料理人の方々とお仕事をさせていただく中で生まれた想いなんです。
例えば、歴史ある調味料メーカーさんが現在作っている調味料って、創業当時の理念は継承しつつも、日々アップデートしているんですね。つまり、歴史とともにどんどんおいしくなっているんです。料理人の世界でも同様のことが言えて、調理法や知識の資産化によって、どんどんおいしくなっている。
最近“おいしくないお店”ってほとんどないですよね。その背景には、生産者やメーカーをはじめ、食に関わるすべての人々の努力があるんです。ところが、家庭料理はどうでしょう? 実は多くの家庭料理の基本とされるレシピは昭和の頃から変わっていないんです。
歴史とともに、スーパーに並ぶ調味料の味が良くなり、生産、輸送技術の進歩で、生鮮食品の品質も良くなった。しかし、それを食卓に出すために必要なレシピは変わっていない。
ということで、現代の食材、調味料を最大限に活かせるような、現代的な調理の考え方が根付けば、自ずと家庭料理の味が良くなる。つまり日本の家庭料理はもっとおいしくなるということです。少々大袈裟ですが、これこそが食文化の一端であり、次世代に残すべきコトであると考えています。
そのきっかけを提案すること。これがYouTubeに限らず、僕のレシピコンテンツのコンセプトです。ひと言で言えば、ライフワークですね」
−−では、料理動画をYouTubeで発信する上で特にこだわっているポイントを教えてください。
ぽん助さん「全部です(笑)。というとざっくりしすぎちゃうんで、それぞれお伝えします」
ぽん助さん「せっかく動画で表現するのでレシピの行間を多く伝えるようにしています。テキストと写真のレシピはわかりやすさを重視すればするほどシンプルに端的にする必要があります。ですが、動画には時間軸がありますから文脈を表現しやすいんです。
物事を記憶する時って、一問一答式で覚えるよりも、文脈があった方が、わかりやすい場合があると思うんですよね。
なので、“レシピそのもの”を紹介するだけではなく、レシピに出てくる“食材の知識”や“調理器具の使い方”など、通常のレシピには含めないような内容…、つまり“レシピの行間”をお伝えするようにしています。たまに、話が逸れすぎてしまうこともあるんですけどね(苦笑)」
ぽん助さん「普段から大手企業や省庁、地方自治体向けに、料理やそれ以外の動画を制作しているので、その機材、経験、技術を150%投入しています。
制作受託の仕事では、どうしても時間の制限がありますから、最大でこだわれて100%。ところが、自分のコンテンツであればその制約が取っ払えるので、150%こだわれるわけです。つまり、いわゆる仕事よりもこだわって作っています。
完成した料理のスタイリングも、経験を活かして、メーカーの広告で通用するレベルでこだわっています。また動画では、スタイリングだけではなく温度感も伝わりますから、湯気やテリ感もポイントですね。
ただ、食品ロスの観点は大事にしているので、見た目だけを重視して、後から食べられないぐらいに油を塗り足しておいしそうに見せるような過度の演出は避けています。
また実は、現在アップしている動画の撮影は、以前勤めていた会社の料理動画用のスタジオを借りていたのですが、直近、独立を機にプライベートスタジオを準備しています。なので、今後はもっと充実した環境で撮影できるのでワクワクしています」
ぽん助さん「基本的には半年〜2年程度かけて作っています。と言っても、毎日同じ料理を作り続けるわけではなくて。日々の生活の中で、月に1〜2回作り方に差をつけながら作る、ということを繰り返しています。というのも、僕のレシピは再現性に徹底的にこだわっていて。まずはいわゆる基本レシピをベースに、なるべく仕上がりがブレないようにレシピに落とし込みます。
そこから、調味料であれば色々なメーカーのもので試してみたり、生鮮食品も異なるスーパーで買ってきたりと、いろいろな組み合わせでテストをします。同じ豚バラ肉でも個体差がある上に、産地や流通によって調理結果がかなり違いますからね。ここで、前述の“現代の〜”を内包させるわけです。
それから、ガスやIHといった熱源、鍋の大きさ・厚さの違いでのテスト、季節による食材、調理環境(温度湿度等)の違いをテストしてレシピを固定していきます。これも時間の制限がある仕事では実現できないことなので、YouTubeチャンネルでは、逆に徹底的にこだわっています。
なぜここまでやるのかというと『レシピ通り作ったのにおいしくできなかった』をなるべく減らしたいからです。
レシピを見ていただいたとしても、最終的に作る方によって、
・鍋が違ったり
・熱源が違ったり
・工程を省いたり、アレンジしたり
・調味料のメーカーが違ったり
・違う材料を使ったり
と、無数の組み合わせが存在します。
その組み合わせを想像しつつ、多少違うことをしても必ず一定以上の味になるように、僕自身が組み合わせをテストしているんです」
ぽん助さん「動画制作全般に言えるのですが、撮影が終了する時点で、ほぼ出来上がっているので、編集にはあまり時間はかけていません。
具体的には、撮影時に編集のことを考えながら、
・やり直し/言い直し
・カットポイント
・どの動画素材のどこを使うか決める
等をしているということです。
ちなみに、テロップを入れていないのは、工数の関係です。仮にフルテロップを入れると、それだけで、現在の動画2本分の編集時間がかかってしまうんですよね。その代わりに、動画と同じ内容のレシピをクックパッドにも全工程写真付きでアップしています。なので、YouTubeとクックパッドを併用して使っていただくのが便利かと思います」
−−細部に渡ってこだわりのある動画制作ですが、1本の動画の制作時間や日数を教えてください
ぽん助さん「全体の配分はこんな感じです」
レシピ開発:半年〜2年
企画:隙間時間でストックしているので工数換算すると、大体1日〜1週間
撮影前の買い物〜下ごしらえ:1時間
撮影:2〜3時間/本
編集:2〜3時間/本
レシピ投稿:1時間/本
ぽん助さん「なので、正確にいうと1本作るのに半年〜2年かけています(笑)。ですが、一般的な感覚(撮影〜編集)で答えるなら、1日あたり1本ですかね。パブロ・ピカソの有名な話で『私が画を描くのには何十年もの時間がかかっている』みたいな話に近いです」
−−視聴者数が増加するに至ったきっかけ(バズった動画など)はありますか?
ぽん助さん「いくつかありまして、以下の3本です」
【61万再生】3つのコツでプロの味「激ウマカレーライス」
【69万再生】簡単失敗なし「とろとろナスの煮浸し」
【23万再生】市販の素不要「激ウマ麻婆豆腐」
ぽん助さん「僕の理念が一番詰まっているがカレーの動画です。材料は至って普通で、隠し味も使いません。本当に作り方だけでいつものカレーがおいしくなる。まさにこれが僕の理想のレシピです。
ただ、バズるかどうか、再生数が伸びるかどうかは、あくまでもYouTubeのアルゴリズムに依存する部分が多いので、多少は考えますが、重要視はしていません。
というのも、僕の理念は“日本の家庭料理をもっとおいしく”ですから、YouTubeで再生数を稼ぐのは必要十分条件にはならないということです。
例えば、ある動画の再生数が1,000回だった場合に、
1.1,000人の人が1回ずつ見た、1,000再生
2.100人の人が10回ずつ見た、1,000再生
だと意味がまったく違いますよね。
やや広告的な考え方になるのですが、僕はリーチ数(認知)よりも、アクション数(認知〜理解 つまり実際に料理を作ってもらう)を増やしたいので、後者(2)のパターンのほうが嬉しいわけです。
なので今年は、もっと有意義なコンテンツや仕掛けを作って、より“日本の家庭料理をもっとおいしく”していきたいと考えています」
−−動画の更新日時やおすすめの視聴方法はありますか?
ぽん助さん「今のところ、週に1本のペースで、毎週金曜 14時公開としています。土日で家族が揃う時に活用してほしい欲しいという意図です。アルゴリズムは…、知りません(笑)。
実は、音声だけでもある程度理解できるように作っていますので、基本のレシピがある程度頭に入っている方は、買い物帰りに聴いたり、聴きながら料理してもらうのもおすすめです。
その他、クックパッドと併用するのもいいと思います。また、今年は出版の予定もあり、ある程度過去のレシピと連動していますので、マルチデバイス的に、使っていただけると便利だと思いますよ」
−−動画以外の活動の予定はありますか?
ぽん助さん「今年はレシピ本の出版、レシピ開発の裏側をお見せするコンテンツ制作、LIVE配信を活用した料理教室あたりを準備中です」
多岐に渡って活躍中のぽん助さんに共通する想いは、家庭料理を誰もがおいしく作れるようになること。いつも食べていた定番料理のカレーやハンバーグ、餃子などが手軽に格上げするなんて嬉しいですよね。ぜひ、ぽん助さんの想いと知識が込められた動画を覗いてみてください!
(TEXT:八幡啓司)
YouTubeチャンネル「こじまぽん助【分子調理学研究家】」を運営。分子調理学研究家/ビデオグラファー。「材料は同じ、テクニックも不要、だけど圧倒的においしく作れる」定番料理のレシピを得意とする。食品系企業やメディアのレシピ開発、フードコーディネート、動画/画像制作、大手企業を中心にWebCM制作するなど、多岐に渡って活躍中。