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コラム

カレー好き同士が語る。「スパイスカレー」の一番の魅力とは?【スパイス料理研究家・印度カリー子×小説家・幸村しゅう 前編】

1月22日のカレーの日に、「スパイス」にまつわるレシピ本を発売された印度カリー子さん、「カレー」をテーマにした小説を発売された幸村しゅうさん。そんなカレーに思い入れの深いお二人に、スパイスカレーにまつわる魅力をお伺いしました。前編となる今回は、お二人の「スパイスカレーの魅力」、後編では「初心者の方向けのスパイスカレー作りのコツ」についてお届けします。

スパイスカレーにはまったきっかけは……?

――同じ日に、カレーにまつわる書籍を発売されたお二人が、「スパイスカレー」にハマったきっかけを教えてください。

幸村しゅうさん(以下、幸村):私は食べ物の好き嫌いが多い上、ストレスが重なると箸を使って食べることが億劫になってしまうタイプなんです。その点、作るのも食べるのも楽なカレーは、私にとって救いの食べ物になりました。カリー子さんはどうですか?

印度カリー子さん(以下、カリー子):私は、インドカレーにハマった姉が週に何度もお店に食べに行くのを見て、「家で作れば節約になるのでは?」と思い、スパイスカレーを作ったのがきっかけです。図書館で10冊くらい本を読んで、最初にチキンカレーを作りました。

本によってスパイスの調合比や種類が違うのですが、どのレシピ本にも必ず共通するルールがあることに気がつきました。学生でお金もなかったので、そのルールを元にできるだけ少ない種類のスパイスで作る本格的なカレーを作ってみたら、すごくおいしく作れてどっぷりハマりました。

イラスト:Miltata

――カレーにまつわるお仕事を通じて、お二人は人生に大きな変化があったと思います。スパイスカレーとの出会いが人生に影響を与えたことについてどう感じていますか?

カリー子:実は私、スパイスが大嫌いだったんです。シナモンの香りは本当に嫌いで、ターメリックの土臭さも、クミンの強い香りも……、ほぼ全てのスパイスの香りが合わないな、と感じていたんです。ところが、ごく微量のスパイスを調合していくことで、とてもおいしいカレーができることがわかりました。

それはまるで、自分がフライパンの中で、魔法を起こしているような錯覚を起こしてしまうくらい衝撃的でした。そんな魅力を多くの方に知ってもらいたいという思いから、印度カリー子として活動を始め、こんな人生になるとは想像していませんでした(笑)。

幸村:「私のカレーを食べてください」は、実は10年前に書いた小説です。当時、週に3、4回カレーを食べていた私は「カレーを題材にした小説が書けるんじゃないかな」という理由でこの本を書きました。

10年前は何時間もかけて玉ねぎを炒め、じっくり煮込んだ欧風タイプのカレーが主流でしたが、10年の間にカレーは大きな進化を遂げていました。今はスパイスカレーが面白いと思い、「日本おいしい小説大賞」に応募する前に書き直したんです。

カリー子さんとは、本を出版する際、スパイスの使い方に間違いがないか教えてもらったことがきっかけで出会いました。専門的な知識を持つカリー子さんに、具体的なアドバイスしていただき大変助かりました。おかげさまで、第2回「日本おいしい小説大賞」受賞作品を、自信をもって世に送り出せたので、感謝の気持ちでいっぱいです。

思っていたよりも簡単に作れる!?

――スパイスカレー作りは難しいイメージが強いのですが、お二人はどう思われますか?

幸村:実は、今回の小説「私のカレーを食べてください」を執筆する前、スパイスを買い揃えて、初めてスパイスカレーに挑戦してみたんです。実際作ってみたら、スパイスを使ったカレーは簡単においしく作れて、全然難しくないということがわかりました

カリー子:そうですよね、私も13億人のインドの方が、日常的に作っているカレー作りに難しいことはないと考えています。日本の方は、餃子もグラタンも和食も作りますよね。世界的に見ても、これだけのレパートリーを作れるスキルを持っているのは日本の方くらいじゃないかなと思います。ところが、なぜかインドの国民的料理のスパイスカレーを作る人は少ないんです。

幸村:おっしゃる通りです。以前、YouTubeでインドの方がカレーを作っている動画を見たことがあるんですが、カレーの作り方がすごく大胆でびっくりしました(笑)。ばんばんスパイスをお鍋に入れ、まるでお相撲さんのようにダイナミックに塩を入れているのを見て、そんなに細かく作る必要はないんだということがわかったんです。それこそ、日本人が味噌汁を作るような感覚で、アバウトに作ってもおいしいところがスパイスカレーの魅力ですね。

イラスト:Miltata

カリー子:スパイスカレーは「めんどくさそう」「何を買えば良いのかわからない」「買ったスパイスを余らせてしまいそう」といった理由があって、敬遠されているのではないかと考えています。ですが、実際はとってもシンプルに3種類のスパイスがあれば大丈夫です!それはスパイスの頭文字をとって「タクコ」と呼んでいるターメリック、クミン、コリアンダーがあれば簡単にスパイスカレーが作れてしまうんですよ。

スパイスカレー作りの一番の魅力は?

――お二人のカレー愛がたっぷり伝わってきました。スパイスカレー作りでの一番の魅力をあげるとしたら、どんなことですか?

幸村:スパイスカレーを作る工程で、一番楽しいのはカレーを作っているときの匂いです。ホールスパイスを油で炒めたときにふわっと匂いが立ち上がってきた瞬間はとてもワクワクします。スパイスを買うところから完成までの過程は、まるで遊園地のアトラクションを体験するような楽しみが満載だと思います。

カリー子:私は、玉ねぎを強く炒めるところが好きです。スパイスカレーは、小麦粉を使ってとろみをつけないので、玉ねぎの食物繊維だけでとろみを出します。また、焦げ茶色になるまで炒めることで、カラカラに水分が抜けてコクが出るんです。その後にトマトを加えると、カラカラの玉ねぎがいっきに膨らんでカレーのようになります。私は、この瞬間が大好きです! その後、お肉と水を入れて完成なんですけど、肉から出た旨みをさらに吸いながら、どんどん玉ねぎが膨らんで一体化してカレーが出来上がった瞬間は、まさにスタンディングオベーションです。

ーー想像しただけでお腹が空いてきます(笑)。スパイスカレー作りに挑戦してみたい気持ちがとっても強くなりました!

お二人のお話を聞いて、作ってみたい!と思われた方も多いのではないでしょうか? そんな方のために、後編では初心者でもおいしく作れるスパイスカレー作りのコツについてお伺いします。

(TEXT:上原かほり)

幸村しゅう(ゆきむらしゅう)さんの最新著書

私のカレーを食べてください』(小学館)

 古びた喫茶店の装いながら、本格的なスパイスカレーを出す「麝香猫」。そこで働く山崎成美は調理師学校に通う19歳。成美は幼い頃に両親が離婚、育ててくれた祖母も失踪してしまい、天涯孤独の身であった。  そんな彼女の運命を変えたのは、小学校の先生が作ってくれた一杯のカレーライス。成美はその味を自分でも作りたい一心で調理を始め、カレーの奥深さに戸惑いながらも、ようやくきっかけを掴みはじめていた。しかし突然、ある事情から「麝香猫」が店を閉めることになってしまい……。  理想のカレーを追い求める少女と人々の人情が織りなす、「おいしい×青春×お仕事」小説!

幸村しゅう(ゆきむらしゅう)さん

映画助監督、介護予防デイサービス兼鍼灸治療院の経営などを経て、小説を書き始める。 2020年、『私のカレーを食べてください』で第2回「日本おいしい小説大賞」を受賞する。

スパイス料理研究家 印度カリー子さんの最新著書

一肉一菜スパイス弁当 毎日食べたいおかずと、冷めてもおいしいカレー』(世界文化社)

大人気スパイス料理研究家・印度カリー子さんによる初のお弁当本です。一見「難しい」と思われるかもしれないスパイス弁当ですが、実はとっても簡単! 保存もきくので作りおきし、朝は「詰めるだけ」でオッケーです。本書では、「肉のおかず、魚のおかず、野菜・豆・卵のおかず」のレシピを豊富に掲載しているほか、マフィンやおにぎりなどのクイックランチも提案。多様なライフスタイルに対応するよう、料理のバリエーションも多彩に紹介しています。毎日が楽しくなるようなスパイス弁当ライフをぜひ始めてみてくださいね。

スパイス料理研究家 印度カリー子さん

スパイス初心者のための専門店 香林館(株)代表取締役。スパイスセットの商品開発・販売をする他、大手企業とレシピ開発・マーケティング、コンサルティングなど幅広く活動。2021年1月現在東京大学大学院で食品科学の観点から香辛料の研究中。1996年11月生まれ、仙台出身。

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