【まいにちごはんの撮り方レッスン vol.1】暗くなってしまったり、うまく質感が出せなかったり、料理の写真を撮るのは意外と難しいもの。この連載では、料理写真家・田部信子さんに「おいしい料理写真」の撮り方をレクチャーしていただきます。コツをマスターして、SNSやブログにアップする料理写真をぐっと魅力的にしてみませんか?
こんにちは。料理写真家の田部信子です。
さて、皆さんはこんなご経験はないでしょうか?
頑張って作ったおいしそうなお料理。ウキウキしながら写真をパチリ! なのにカメラの液晶に映るのは、ただの暗い、おいしそうに見えないお料理だった……。
「本当はもっとおいしそうなんだけどな……」と残念な気持ちになったり、思ったように撮れず、あっちからこっちから撮ってみているうちに冷めてしまったり、お腹が空いた家族を待たせてしまったり……。料理の写真にまつわる悩みって結構あるんじゃないかと思っています。
そこでこの連載では、ご自分が思うような「おいしい料理写真」が撮れるようになるポイントやコツなどを、私の経験を交えてお話していこうと思っています。
私は以前カメラ教室で、のべ3000人以上の方に写真の撮り方をお伝えしてきました。そこでよく生徒さんから聞いたのが「私にはセンスがないから無理かもしれないんですが……」という言葉。
でも、本当に写真って「センス」で撮るものなんでしょうか?
確かにセンスって大事だとは思います。でも、それだけではないんです。センスより前に、もっと大事なことがあります。それは「正しい手順で撮っているか」どうか。「何それ?」という声が聞こえてきそうですね(笑)。
プロの私たちが写真を撮る時には、いくつかのポイントを抑えつつ、一定の手順を踏んで撮影を組み立てていきます。
要は、「撮り方のステップ」というものがあるんです。それを知らないことを「自分にセンスがない」と誤解している人がとても多いような気がしています。
うまく撮れないのは「センスがない」のではなく、そういった「写真の撮り方」を知らないだけだということを、まずは知っていただきたいです。
ご自分の学生時代を思い出してみてください。多くの人は今までの人生で「写真の撮り方」を習ったことがないのではないでしょうか?
学校の美術の時間、絵を描くことはあっても、写真の撮り方を教えてくれる時間はないですよね。写真って、シャッターを押せば写ってしまうものなので、わざわざ学ぶなんて考えない方が多いように思います。
でも習っていないんだからうまく撮れなくて当然! 逆を言えば、習えば撮れるようになるものなんです。
まずは、写真を撮る時の手順を知ってください。そして、そこで必要になるポイントを1つずつ理解してください。そうすれば、自分の思ったような写真が撮れるようになります。
それでは、連載第1回目の今回は、まずは「撮り方のステップ」についてお話します。
よく写真を撮るのが苦手だとおっしゃる方が撮影している姿を見る機会があります。その時に起こりがちなのが、お皿を置いて、その周りを右に左に動きながら上から撮ったり下から撮ったり、レンズのズームを触ってみたり斜めにしたりしながら撮っていくスタイル。
もちろんそれでも撮れるのですが、実は大きな問題があります。
このやり方で撮ってしまうと、いろいろな条件をきちんと組み立てていないため、後戻りが発生したり、挙句の果てはどう撮ったらいいのか分からず迷子になってしまうことが往々にして起きてしまいます。
偶然に「奇跡の1枚」が撮れることはあっても、どうして撮れたのかが分からないので、次に同じように撮ることもできなくなってしまいます。
では、どう撮れば良いのでしょうか?
そこで出てくるのが「撮り方のステップ」です。下記のように、1つずつ、撮影に必要な要素を順番に決めていく。そうすることで後戻りを防ぐことができ、目標とする写真に最短距離で近づけるのです。
(1)イメージを決める
(2)どこで撮るかを決める(どんな光を使うか)
(3)どこから撮るかを決める(アングル、カメラの位置)
(4)どのくらいの範囲を写すのか決める(レンズを選ぶ)
(5)構図を決める
(6)スタイリングを決める
(7)明るさと色の調整
(8)主役にピントを合わせて撮影
それでは記事最上部の写真を例に、実際に私がどう撮影を組み立てていったのか、「撮り方のステップ」を具体的にご説明していきます。
まず、この写真を撮る時に考えたのは、このコラムで何を伝えたいのかということです。この連載では、「料理写真をスマホやカメラで撮る方法」を伝えていきたいと思っています。そこで、それを1枚で表すためにどうしたら良いだろう?と考えました。
料理写真という意味では料理は必須です。また、カメラやスマホが写っていれば、単なる料理のコラムではなく、写真に関することだな、と1枚で理解してもらいやすくなります。そこで、画面に写すものを、料理・カメラ・スマホの3つにしよう、ということを決めました。
次にどこで撮るか、です。基本的にはおうちで料理を撮ることを想定したレッスンなので、おうちの自然光が入る場所で撮ることにします。今回は、画面の斜め左上から光が差し込むような場所で撮ることに決めました。
写すものと場所が決まったので、次はどのように写すかを決めます。イメージのところで決めた写し込みたい3つの要素(料理・カメラ・スマホ)は、今回の写真ではどれも同じくらい大切なものです。
どれか1つにピントが合って、ほかがボケてしまうと、この3つの要素に優先順位がついてしまうので避けたいと思いました(もちろん写真によっては思い切り優先順位をつけることもいっぱいあります)。そこで、できるだけすべてにピントが合うように、真上から撮る(これを真俯瞰と言います)ことにします。
次はどのくらいの範囲を写すかを考えます。今回は、料理・カメラ・スマホなど、いくつものアイテムを画面に入れられて、かつ、あまり画面に歪みが出ないようなレンズを使うことにします。
さて、ここから実際にカメラを覗きながら、どんな絵にしていくかを考えていきます。今回は3つ以上のものを写真に収めるので、下手をすると雑多なイメージになってしまいます。そこで、「構図法」というものを使います。
いいな〜と思う写真というのには、ある法則のようなものがあります。そういった法則のエッセンスが構図法というものです。そこに当てはめると何となく落ち着いて見える……という魔法のエッセンス。今回は対角線構図というものをベースに、カメラや料理などを配置していきます。
今回はお皿とボード、カメラなどを対角線上に置くことでベースを決め、それ以外のものを空いた場所に散らしていっています。
ここまで来て、初めてスタイリングを考えます。必要な料理・カメラ・スマホを並べたら、それ以外のスタイリング材を入れてスタイリングしていきます。ここで大事なのは、カメラのファインダーを見ながらスタイリングをすることです。
最初に決めたイメージに合わせて、明るさと色を決めていきます。今回は爽やかに仕上げたいので、少し明るい感じにしました。また、日中の撮影のイメージだったので、ニュートラルな見たままの色に仕上げています。
一番見せたいものは何か、そこにピントを合わせて撮影します。今回は料理にピントを合わせています。
◇ ◇ ◇
このようにしてできたのが記事最上部の写真です。文章にするとちょっと長くなりますが、慣れてくると大体のステップは頭の中で決められるので、かなり短い時間でできるようになってきます。
今回はざっと全体の流れをご説明しましたが、各ステップを実際にどうやって考えていくのかは、今後、連載を通してもっと詳しくお話ししていこうと思っています。楽しみにしていてください。
良かったら皆さんも「撮り方のステップ」を参考に、この流れで写真を撮ってみてくださいね! では。
横浜市出身。青山学院大学文学部英米文学科卒業。外資系IT企業のSE職を経て、カメラマンへ転身。広告、雑誌、ブライダルの撮影を行う。双子出産後、カメラ教室で約3000人の生徒さんに写真の撮り方を教える。2018年より、料理写真家として活動中。