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コラム

夢にみたあの味。「人生で最高のジェノベーゼ」ができるまで

【おいしい思い出 Vol.23】クックパッド初代編集長であり、自他共に認める料理好き・小竹貴子のエッセイ連載。誰にでもある小さな料理の思い出たちを紹介していきます。日常の何でもないひとコマが、いつか忘れられない記憶となる。毎日の料理が楽しくなる、ほっこりエピソードをどうぞ。

もうやめようと心に決めていたけれど…

節目のたびに「今こそやろう!」と、強い誓いを自らに課したものは、だいたい続かないんです、わたし。

例えば、年末に浮かれてお金を使いすぎて、元日に「今年はお金を貯めよう!」と決めて購入する家計簿。書き込み式のものでも、最近ではアプリでも、結局1週間と続きません。あとは、深酒をしてしまった翌朝、布団からでると激しい頭痛と胃もたれに襲われ「もうお酒はしばらくやめよう」という禁酒宣言。これはたちが悪く、頭痛がなくなると宣言をしたことすら忘れてしまったりします。と、わたしのダメトークを言いだしたらきりがないのですが、今日は、春になるといつもはじめる家庭菜園の恥ずかしい、いや、おいしい思い出です

今年もコロナ禍で迎えたゴールデンウイークは、自由に外出もままならない状況。もともとあまり趣味のないわたしは、やることもないなと、ふとテレビをつけたら、たまたま園芸番組が流れてきました。

そこで見たのは、心地よいジャズミュージックとともに、おしゃれだけど都会的すぎて、いかにも園芸は初心者にみえる俳優さん(言い過ぎ?)が、ささっと畑仕事をこなし、おいしい野菜をたくさん収穫していく様子。そしてエンディングには、収穫したお野菜と一緒においしいごはん。「あー、素敵、なんだかわたしにもできちゃうかも」という魔法をかけられてしまいました。

でも一瞬頭をよぎったのは、これまでの失敗の数々。

3年前は仕事を理由に丁寧にお世話せず、水不足により干からびてしまいましたし、その前の年は害虫の被害にあって葉っぱがなくなってしまい、光合成ができない植物たちは気がつくといなくなってしまっていました。

そして確か去年も、うまくいかない庭を眺めながら「わたしには畑をする運がないんだろう」と、家庭菜園はもうやめようと心に決めていたはず、なんですけど。

チラリそんな思いがよぎりながらも、もしかしたらハーブならいけるかも?と、自宅から車で5分ほどのところにあるホームセンターに行き、たくさんのハーブの苗を購入して庭に植えました。

そして畑をはじめて1ヶ月、やはり……懸念していた害虫被害で半分はやられてしまったのですが、ただ今回はなんと、元気いっぱいに育っているハーブがいくつかあったのです。そのひとつが「バジル」

毎朝ウキウキで庭に行くわたしの姿に、畑仕事に全く興味をもたなかった娘たちにも伝播し、だんだんとバジルに愛情がこもりはじめてきた様子。朝起きると、娘たちと一緒に、まるでペットのようにバジルに話しかける毎日。生きている!ってそんな感じでしょうか。

夢にみたあの味、人生で最高のジェノベーゼ

先週は大きく育ち、葉がたっぷりと密になってきたこともあり収穫をしました。なによりもまずはバジルソースを作ることにしました。

フードプロセッサーにたっぷりのバジル、松の実、にんにく、塩、オリーブオイルをいれて、まわします。熱がかかるときれいな色がでないので、素材は冷やしておくのがポイント。そしてチーズ投入。どこかのお店で食べたバジルソースは、パルメザンチーズではなくペコリーノチーズをいれていたので、真似をしてみました。

そして、茹でたてのパスタにソースを絡めてお昼ごはん。もう人生で最高のジェノベーゼです。食べた瞬間、そして食べたあとに広がるバジルの香り。夢にみた、あの味です。あーおいしかった。

あとは、枝豆くんとオレガノが元気なので、何を作ろうかいろいろと想像をめぐらしています。しかし、ハーブが元気に育つ秘訣って、日頃の声がけがよかったんですかね、うーん。

おいしい思い出と15のレシピ』(電子書籍)

クックパッド初代編集長・小竹貴子によるお料理エッセイ。子どもの頃に好きだったもの、懐かしい故郷の味、恋人に初めて作った料理、自分の子どもが好きなもの。さまざまなテーマで料理とそれにまつわるエピソードを綴っています。思わず作ってみたくなるオリジナルレシピも紹介。読むとクスッと笑えたり、自分の思い出を振り返ったり、誰かに会いたくなったり。心がちょっとあたたかくなる1冊です。

小竹貴子

クックパッド株式会社コーポレートブランディング本部長。1972年、石川県金沢市生まれ。関西学院大学社会学部卒業。株式会社博報堂アイ・スタジオを経て、2004年に有限会社コイン(後のクックパッド株式会社)入社。編集部門長を経て執行役に就任し、2009年に『日経ウーマン・オブ・ザ・イヤー2010』を受賞。2012年、同社退社。2016年4月から再びクックパッド株式会社に復帰、現職。現在、クックパッドニュースにて『おいしい思い出』、ForbesJAPANにて『それ、「食」で解決できます!』を連載中。また、フードエディターとして個人でも活動を行っている。

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