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コラム

アルデンテからもっちり食感に?時短で作る「パスタ」がもたらした意外な変化

阿古真理

作家・生活史研究家。食や食らし領域が専門。

【あの食トレンドを深掘り!Vol.17】90年代に流行した「ティラミス」、数年前に話題になった「おにぎらず」、直近では社会現象にもなった「タピオカ」など、日々生まれている食のトレンド。なぜブームになったのか、その理由を考えたことはありますか? 作家・生活史研究家の阿古真理さんに、その裏側を独自の視点で語っていただきました。

時短料理と言えばパスタ。でも大人数作るのは意外と大変?

時短レシピのブームは2010年代後半から続いているが、外食が困難になったコロナ禍で、切実に必要とする人が増えている。最近の時短レシピの中には、革命的なほど進化しているものがあるが、特に驚かされるのが、パスタのレシピである。

1年前の緊急事態宣言下では、スーパーの店頭からスパゲッティやインスタントラーメンが消え、冷凍パスタや冷凍ラーメンもよく売れた。

確かに、麺類は1品で食事が成立するので、手間をかけたくないときによく使われる。土曜日の昼ご飯がいつも麺類だった、という思い出を持つ人は多いのではないか。また、1人暮らしだとご飯が余ってしまい、なかなか炊き立てが食べられないことを思えば、パスタやラーメンで済ませたほうが楽な場合がある。

しかし、家族の人数が多いと一度に全員分作れないことがある麺類は、必ずしも時短になるとは言えない。スープ作家の有賀薫さんは『スープ・レッスン2――麺・パン・ごはん』(プレジデント社)のエッセイで「5人家族の麵メニューを家庭の台所で作るのは大仕事。せわしないだけでなく、母が全部をととのえて食べ始めるころには、もう家族は食べ終わっています」と書く。

段取りも大変である。麺をゆでる。具材を炒める、あるいは煮る。うどんなら出汁も別に準備するなど、いくつもの作業を並行して行う。具材、出汁、麺それぞれを調理する鍋、麺をあけるザルも必要、となればかさばる洗いものが大量に発生する。手軽に見えて実は手間がかかるのが、麺料理である。

水漬けパスタやレンチンパスタ。時短で「もっちり食感」が主流に

そんな現実を踏まえたうえで、パスタの時短レシピを点検すると、驚くことが起きている。『オレンジページ』や『クックパッドニュース』は、2015年10月に水漬けパスタを紹介。パスタを乾物として水で戻しておくので、ゆでる手間がいらない。ただし、少なくとも2~3時間前には漬けておく必要があるので、急に思い立って作る場合は間に合わないが。そうした特性を逆に利用する方法が、『クックパッドニュース』2015年10月28日配信の検証記事に挙げられている。「朝家を出る時に漬けて、夕方帰宅して茹で時間なしで調理する」。なるほど、それなら手間いらずになる。

オレンジページ社の『「いま」作りたいものが全部ある!フライパンひとつ おかず、パン、スイーツ97品。』の水漬けパスタのレシピで、作り方を確認しよう。具材を炒めたフライパンにスパゲティとその戻し汁を加え、加熱しながら炒める。ソースを絡めるうちにスパゲティに透明感が出て、生パスタのようなモチモチ食感に仕上がるという。

同書には別の時短パスタレシピもある。それは、フライパンで具材と一緒に煮込む方法だ。「湯きりいらずパスタ」で作る「ミートソース風スパゲティ」は、次のように作る。フライパンにオリーブオイルとニンニクを入れて熱し、水、塩を加えて煮立て、スパゲティを入れる。よく混ぜて煮立たせたらふたをし、しばらくゆでてからふたを取ってスパゲティをほぐし、具材を加えて全体を混ぜながら煮詰めていく。最後にトマトケチャップと粉チーズを加えてよく混ぜてできあがり。

こちらは食感の説明がなかったので、自分でつくってみた。私がつくったのは春野菜のペペロンチーノ。ニンニクとトウガラシをオリーブオイルで熱して春キャベツ、新タマネギ、アスパラを加えて軽く炒める。湯と塩を加え、煮立ったら先のレシピと同じように、スパゲティを煮る。シラスを振りかけ全体を混ぜてできあがり。

ふだんは、パスタと具材を別々に作る。最後にパスタをフライパンに戻して軽く炒めるので、ちょっとパリッとする。フライパン一つでつくったパスタは、何と言っても完成が速い。途中でふたをするせいか、ゆで上がるまでの時間も短い。そのせいもあって、サラダや紅茶用の湯を沸かすなどの並行調理でもたつき、ゆで時間が長くなってしまった。パスタの大変さは、すべての料理を同時に完成させる段取りが難しいところにもある。もちろん、サラダやパンを作らなければラクだっただろう。

ともかく、できあがったパスタはもっちりしていて、喫茶店のナポリタンを連想させた。子どもが喜びそう。「これは別物ですね!」と夫は面白がっていた。

電子レンジに具材と一緒に入れて完成させるレシピもある。電子レンジのパスタレシピを開発した山本ゆりさんの『syukonカフェごはん レンジでもっと!絶品レシピ』(宝島社)では、パスタを半分に折って耐熱容器に入れ、具材と一緒に電子レンジで加熱し完成させる。

どのレシピも、汁に漬かった状態でパスタをゆで上げて完成とするので、おそらくモチモチ食感になる。それは、日本人がパスタを採り入れた頃の原点に戻ったようでもある。

今も人気の昭和スタイルのナポリタンは、ゆでて一晩冷蔵庫で寝かせることが、ナポリタンらしい食感の要因である。そのレシピを開発したのは、横浜・桜木町「センターグリル」。それが喫茶店などに広まり定着した。また、昭和30年代には、パスタをうどんのようにゆでた後水で締めるレシピが紹介されていた。その結果、多くの日本人はうどんなどでなじみがある、柔らかくてもっちりした食感から、スパゲティの味を覚えたのである。

バブル期にイタリア料理が流行り、中に芯を残すアルデンテが広がってから、私たちはシャープな食感のパスタをずっと味わってきた。それがここへ来て、時短レシピとともにモチモチパスタが流行している。もしかすると、将来は「あなたはパスタ、モチモチ派? アルデンテ派?」と聞かれるようになるかもしれない。

画像提供:Adobe Stock

阿古真理(あこ・まり)

©植田真紗美
1968(昭和43)年、兵庫県生まれ。作家・生活史研究家。神戸女学院大学卒業。食や暮らし、女性の生き方などをテーマに執筆。著書に『昭和育ちのおいしい記憶』『昭和の洋食 平成のカフェ飯』『小林カツ代と栗原はるみ』『なぜ日本のフランスパンは世界一になったのか』『パクチーとアジア飯』、『母と娘はなぜ対立するのか』、『平成・令和食ブーム総ざらい』、『日本外食全史』など。

執筆者情報

阿古真理

作家・生活史研究家。1968年、兵庫県生まれ。食や暮らし、女性の生き方を中心に生活史と現在のトレンドを執筆する。主な著書に『大胆推理!ケンミン食のなぜ』・『家事は大変って気づきましたか?』(共に亜紀書房)、『ラクしておいしい令和のごはん革命』(主婦の友社)、『日本外食全史』(亜紀書房)、『料理に対する「ねばならない」を捨てたら、うつの自分を受け入れられた。』(幻冬舎)、『料理は女の義務ですか』・『小林カツ代と栗原はるみ』(共に新潮新書)など。

阿古真理さんの理想のキッチンに関するプロジェクトはご自身のnoteやYoutubeでもコンテンツを更新中です。

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