【まいにちごはんの撮り方レッスン vol.4】暗くなってしまったり、うまく質感が出せなかったり、料理の写真を撮るのは意外と難しいもの。この連載では、料理写真家・田部信子さんに「おいしい料理写真」の撮り方をレクチャーしていただきます。コツをマスターして、SNSやブログにアップする料理写真をぐっと魅力的にしてみませんか?
随分暑くなってきましたね。梅雨でムシムシする日が続きますが、今日は少しでも爽やかな気持ちになっていただきたくて、「ヨーグルトムースの紫陽花ゼリーのせ」で撮り方の説明をしていきます。
このゼリー、紫キャベツを煮出したものに重曹やレモン汁をちょっと足しただけなんですが、本物の紫陽花のように綺麗な色が出て驚きです。
連載第4回目となる今回は、料理写真に最適と言われている「半逆光」の光を使ってどう写真を撮るかを、具体的に説明していきたいと思います。
前回の記事では、下の「撮り方のステップ」の(2)の「どこで撮るかを決める」にあたって、まず光によって写真がどう変わるのかをお話ししました。
(1)イメージを決める
(2)どこで撮るかを決める(どんな光を使うか)
(3)どこから撮るかを決める(アングル、カメラの位置)
(4)どのくらいの範囲を写すのか決める(レンズを選ぶ)
(5)構図を決める
(6)スタイリングを決める
(7)明るさと色の調整
(8)主役にピントを合わせて撮影
さまざまな光の当て方を前回の記事でご紹介しましたが、中でも料理写真を撮る際、一番立体感を出しつつ、食品のエッジをキラっとおいしそうに見せてくれる光が「半逆光」だとお伝えしました。イラストのように、お料理の斜め奥から照らす光のことです。
今回、ヨーグルトムースの紫陽花ゼリーのせを、半逆光の光を使って撮ることにしたのは次の理由からです。
・ゼリーの透明感を出すために、後ろから光を当てて透き通った感じを出したかった
・せっかく青、紫、薄ピンク、ピンクの4色のゼリーを作ったので色も綺麗に出したい
・白いヨーグルトムースを立体感を出しつつ、綺麗に表現したい
せっかく4色も……というところがいささか押し付けがましいですが(笑)、そこは大目に見てください。
実際、透明感を出すのであれば、後ろから光を当てる逆光でも良いのです。でも、逆光の特徴として色が鮮やかに写りにくい、という点があります。今回は色も表現したかったので、光を真後ろからではなく、斜め後ろから当てる半逆光で撮ることにしました。
さて、「半逆光の光」で撮りましょう、と言われてもどうしたらいいかわからない。そういう方が多いと思います。
今回は自然光で撮影することを前提としてるので、ご自宅で窓のある部屋で撮ることを想定してご説明します。
まず、半逆光の光で撮る場合、料理と撮影する人(カメラ)の位置関係は以下の図のようになります。窓に対して斜めに立つ感じです。
ただ、実際には複数の場所に窓がある家もあるので、こんな単純な話ではないことが多いです。そんな時に気にしていただきたいのが「影」です。
写真のように、食べ物の影が斜め手前に伸びてきていれば、それは半逆光の位置にあると思って大丈夫です。
では、この位置でまず撮ってみましょう。
なにやら、暗くなりますね? これは実はカメラの特性です。
カメラは画面の中に明るいところがあると、バランスを取ってほかの部分を暗めに撮ろうとします。
この写真は、反射率の高い「白」の占める面積が大きいため、カメラが「明るすぎる写真だ!」と判断して全体的に暗めに撮られています。
何度も言いますが、これはカメラの特性なのです。暗くなってしまうのはあなたのせいではないので安心してください。だからといって、それで終わりにしてしまっては主役の料理が可哀想。
そこで、次の3つの方法で主役の料理を明るく撮ろうと思います。
1. 暗くなった手前の部分に光を当てて明るさを補う
2. 全体的に明るくする
3. 1と2を両方やる
この中のどれをやってみても良いです。では、それぞれどのようになるのかを具体的にご説明します。
影の部分を明るくするために、まずレフ板と言われるものを用意します。
え?レフ板ってプロが使うものでしょ?と思った方。そんなことはありません。白い板や紙などで大丈夫。
ただ、手を離しても立っていてくれた方が撮りやすいので、大きめの白い紙を2つ折りにするとか、白いノートなど立てて使うことをオススメします。
上の写真の左側はA4サイズのスチレンボード2枚をテープ止めしたもの。右側はA4のコピー用紙を半分に折ったもの。こうすると手で支えなくても一人で立ってくれるので楽に撮影できます。
中面が白いノートでも大丈夫です。大切なのは「真っ白」のものを使うということです。そこだけは気をつけてくださいね。
これで、料理の後ろから来た光を料理に打ち返してあげます。テニスのボールを打ち返すようなイメージです。
こうすると、奥の明るさはそのままで、手前の影の部分を明るい印象に仕上げることができます。
左がレフ板なし、右がありの写真です。白いヨーグルトムースの右側の部分を見てください。明るくなっているのがおわかりいただけるでしょうか。
次は全体の明るさをそのまま明るく調整するやり方です。
ここでまずお伝えしたいのは、「写真の明るさは変えられる!」ということです。よく、「私の家は日当たりが悪いので暗い写真になってしまうんです」というお話を聞きます。でも、それは実は大きな誤解です。
写真の明るさは、そこの場所の明るさと必ずしも一致はしません。例えば、同じ場所でもこれだけ明るさの違う写真を撮ることができます。
この明るさはカメラやカメラアプリの設定で変えることができます。
例えば、iPhoneの標準カメラアプリの場合、ピントを合わせたい位置を軽く触る(タップする)と、四角の外側に「太陽マーク」が出ます。その太陽マークを上下することで、写真の明るさを変えることができます。
Androidの場合は機種によって違いますが、ご自分の機種名と「明るさ調整」や「露出補正」というキーワードを入れてネット検索していただければ、やり方が出てきますので、それを参考にやってみてください。
デジタルカメラの場合は、モードを変えるところから始めます。以下のようなダイヤルがあったら、それをP、Av、Tv(メーカーによってはP、A、S)のどれかにしてください。
このP、Av、Tv(もしくはP、A、S)というアルファベットのモードは半自動モード。「こんな明るさにしたい!」「こんな色がいい!」など、自分の思いをいくつかカメラに伝えることができて、かつ、その他の細かな設定は全部カメラがいい感じにして撮ってくれるモードです。
一方、そのほかの絵のマークは完全自動モード。撮るものにカメラを向けるだけで、あとはカメラが良いように撮ってくれるモードです。
完全自動モードは便利ですが、「もっと明るく撮りたいのに!」といくら思っても「そうはいっても僕はそうは思わないー」とカメラに言われて泣き寝入り。そんなことにもなってしまうモードです。
「自分らしい写真」を撮りたいのであれば、少しずつ自分の意思を写真に込めたいもの。ここでは、モードを半自動のP、Av、Tv (P、A、S)モードに変えるところから始めてみましょう。
さて、モードを変えたら次の手順。カメラの液晶の周りや上面を探して、以下のような「+/ー」マークを探してください。見つかりましたか?
このボタンを押すと、以下のような目盛りが現れます。
これをプラスの方向にすると、明るい写真が撮れます。マイナスにすると、暗い写真が撮れます。
どのぐらい明るくしたり暗くしたりするかはあなたの好みです。まずはいろいろな明るさで撮ってみて、一番好きな明るさを選んでください。
ご自分のカメラの使い方がわからない場合は、ご自分のカメラ名と「明るさ調整」や「露出補正」というキーワードを入れてネットで検索してみてくださいね。
自分の思い通りの明るさで撮るだけで、まずは写真がぐーんと良くなります!
手前の影の部分も少し明るくしたいし、全体的にも明るめにしたいという場合は、前述の1と2の方法をミックスします。
ムースは白さが「おいしそうポイント」になるので、あまり影をつけてムースがグレーになるのは避けたいと思います。
そこで、レフ板をムースに近づけて、ヨーグルトムースの影が濃く出すぎないようにします。ムースの明るいところから暗いところまでのグラデーションが綺麗になったら、その後、全体の明るさを調節します。
同じ明るさでも、ヨーグルトムースの影の部分の明るさが違うことがおわかりいただけるでしょうか?
一番手前のヨーグルトムースの右下の部分を見てください。左の写真のムースの方が影がはっきりと黒くなっていることがわかると思います。
この場合、どちらの写真が良いか、正解はありません。ご自分がどう撮りたいのか、で判断してください。私の場合は、ヨーグルトムースは白く爽やかに写したいので、最終的には右側を採用しました。
この記事の一番上に使用した写真は、同じムースを別のセッティングで撮ったものです。爽やかさを全面に出したかったので、下に敷くお皿をガラスにしてみました。
撮り方は、右側が明るくなりすぎない程度にレフ板を少し遠目から当てて、最終的に全体を明るめに調整しています。
この明るさの調整は最初は難しいかもしれませんが、慣れてくれば素早くできるようになります。明るさ調整さえできれば、半逆光の光は立体感のあるおいしそうな写真が撮れる最高の味方になります。ぜひ試してみてくださいね。
横浜市出身。青山学院大学文学部英米文学科卒業。外資系IT企業のSE職を経て、カメラマンへ転身。広告、雑誌、ブライダルの撮影を行う。双子出産後、カメラ教室で約3000人の生徒さんに写真の撮り方を教える。2018年より、料理写真家として活動中。