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インタビュー

「得意料理はコロッケです!」全盲の人ってどうやって料理をしているの?視覚障がい者の「料理の楽しみ方」は驚きの連続だった

人が得る情報の約8割は視覚からといわれています。料理においても視覚からの情報はとても重要ですが、目の見えない人はどんなふうに料理をしているのでしょうか。今回は神奈川県視覚障害者福祉協会理事長・鈴木孝幸さんと、毎日料理をしている全盲の倉垣内(くらがき)聡美さん、井上美智子さん、中村正子さんの3名に、視覚障がい者の料理事情についてお話を伺いました。

どんな料理を作っているの?

そもそも「視覚障がい者は料理を作ることはできない」と思っている人もいるのではないでしょうか。それは大きな誤解です。“得意・不得意”“難しいこと”はあるかもしれませんが、全くできないということはありません。娘さんと暮らす井上さんは、家族分の料理を毎日作っており、バランスを考えた献立づくりを心がけているといいます。

「娘からのリクエストに応えたりもしていますし、昨日がお肉料理だったから今日はお魚にするなど、同じ食材が続かないように考えたりもしています。献立を決めるのも、料理を作るのも、ふつうの人と同じですよ。買い物も娘の車で一緒に買いに行ったり、宅配も利用しています。あとは、同行援護のガイドさん(※)と出かけたときに足りないものを買い足しています」(井上さん)
※視覚に障害がある人たちが外出するときに支援をする制度

同居する息子さん家族に料理を作ることもあるという井上さん。
「私が作るコロッケは評判がよく、孫も喜んで食べてくれます。揚げ物をするというと皆さんびっくりしますが、昔から作っていたので、菜箸の先の感覚で揚げ具合もわかります」(井上さん)

25d6dd8860821484ccb9d011a4d79c4f 手際よくじゃがいもの皮を剥く井上さん。盛り付けもバッチリ!「盛り付けは昔の記憶を頼りに。娘から彩りがきれいと言われたときはうれしくなります」(井上さん)

共感しちゃう!一人暮らしのごはんあるある

一人暮らしの倉垣内さん、中村さんは「ストック食材」「市販の惣菜」を活用したり、いつものメニューをアレンジしながら、毎日のごはんを楽しんでいるといいます。

「私は冷蔵庫にあるものからメニューを決めていきます。今の時期は“きのこ”がおいしいので、たくさん買って冷凍庫に保存しておいて、きのこご飯やきのこパスタを作ります。買い物は最寄りのスーパーで従業員の方に一緒に回っていただくスタイルをとっています。盲導犬もいるので、一緒にお惣菜屋さんに行くこともあります。作りたくない日は、そこで肉じゃがやきんぴらなどを買って手を抜いています」(倉垣内さん)

C67be0749cf21e4ecedd7d1f0527f6a6 「新米の季節に、市販のちらし寿司の具を使ったものを、3食に分けて食べました」(倉垣内さん)

「私もその日に冷蔵庫にあるもので献立を考えます。でも、一人暮らしなので、作りすぎて3日くらい同じメニューが続いたりはしますね。スープを作ったときは、1日目は塩味、2日目はクリーム系、3日目はカレーにして食べました。鍋やスープはアレンジが効くので作ることが多いです」(中村さん)

ひっくり返す料理はハードルが1番高い料理です

日々の生活の中で工夫をしながら料理を楽しんでいる皆さん。不自由なく料理を楽しんでいる印象を受けますが、ふだん料理をするうえで「困ること」「こうなったらいいな」と思うことはあるのか聞いてみました。

「火の入り具合を目で確かめることができないので、スクランブルエッグをとろっと仕上げるのは難しいです。焼くなら焼く!という料理のほうが簡単。先ほど、コロッケは得意と言いましたが、それでも時々崩してしまうことがあるので、油の中に手を入れられる手袋があったらいいなと思います」(井上さん)

卵料理の話には中村さんも倉垣内さんも激しく共感。
「私も難しいのは卵焼きです。ひっくり返せません。卵料理はゆでたまごかオムレツ。最近は電子レンジでオムレツを作れる商品が販売されたので、それを活用しています」(中村さん)

「私も目が見えなくなってからはひっくり返す作業が難しくなりました。ハンバーグを作ると崩れることがあります。崩れてしまったときはキャベツを入れて違う料理にするなど臨機応変に対応しています」(倉垣内さん)

視覚障害の“はざまの人”は160万人

倉垣内さん、井上さん、中村さん3名とも生まれつき全盲ではなく後天性視覚障がい者網膜色素変性症(もうまくしきそへんせいしょう)という病気により徐々に視力を失っていきました。

「小さいころから、なぜか飛んでくるボールがうまく取れませんでした。運動神経が悪いのかな?と思っていたのですが、網膜色素変性症という病気が原因だったんです。でも、それがわかったのはずいぶん後のことでした。そのときはまだ自転車にも乗れていて、身体障害者手帳って必要かな?と思っていたくらい。等級も1番軽い6級でした。ですが、それからだんだんと日が沈むように悪くなっていきました」(倉垣内さん)

数年前に完全に視力を失った倉垣内さんもおっしゃる通り、進行具合にあわせて身体障害者手帳の等級も変わっていくそうです。料理をする際も目が見えていたころの記憶や残像を頼りに、当時のことを思い出しながら作ることが多いといいます。

D9f39b92491be1531ed81efca199499b 画像提供:AdobeStock

神奈川県視覚障害者福祉協会の理事長を務める鈴木さんによると、生まれつき目が見えない人よりも高齢になってから視覚障害になる人がほとんどだといいます。

「今、視覚障害の病気で多いといわれているのが緑内障、白内障、加齢黄斑変性。これらは年を追うごとに発症する確率が高くなります。生まれつきのものは網膜色素変性症が多いです。それでもいきなり見えなくなるわけではありません。

日本には37〜38万人くらい身体障害者手帳(視覚障害)を持っている人がいますが、眼科で治療中のためまだ手帳を取得していない“はざまの人”も160万人いるといわれています」(鈴木さん)

積極的にグッズを活用!楽しく料理をするコツは?

そういった視覚障がい者や“予備軍”といわれる方にも料理を楽しんでもらおうと、神奈川県視覚障害者福祉協会では「電子レンジで安全に作れるレシピ」「調理グッズ情報」を発信しており、お話を伺った3人もそれらを利用しているといいます。例えば、目が見えない人は計量をするのが難しいため、協会ではこんなグッズを紹介しています。

「さじかげん」を使えば、計量器なしでちょうどいい分量の調味料を計ることができ、こぼしてしまう心配もありません。そのほか、油の注ぎすぎを防ぐために油用の霧吹きを使用したり、ロービジョン(全盲ではないが視力が非常に低い状態)の方向けには食材の色によって使い分けができる白黒反転のまな板などもおすすめしています。

56d250bc54b2f549f6db92b6bd179cd5 左:白黒反転のまな板 右:油用の霧吹き

さらに倉垣内さんは、SNSで話題の味噌マドラーも活用! 大さじ1杯分の味噌をすくってそのまま鍋に投入するだけなので、計量の失敗がなくなったそう。

最新のキッチン設備も活躍

視覚障がい者が調理中にガスコンロの火が服の袖に燃え移るという事故も報告されており、ガスコンロ以外の調理器具を推奨する動きも盛んになっていきています。

「私は煮物を作ることが多いのですが、煮込み加減を失敗することがよくありました。それで去年、家のコンロをガスからIHに変えたらとっても便利になったんです。やかんをうまく五徳にのせられずひっくり返すこともなくなりましたし、タイマー機能が付いているので火の消し忘れもなく役立っています」(中村さん)

同じくIH利用者の倉垣内さんも、IHを使うことで“料理の楽しみ”を感じる瞬間があるのだとか。

「IHは放置できるので、その間にほかの作業をして効率よく料理ができたときはよっしゃ!という気持ちになって楽しいです。一人暮らしなのであまり品数は多く作らないけど、作りおきはするので、そういうときに役立ちます。これからは煮込み料理がおいしい季節なので、大量に作ってストックしておこうと思います」(倉垣内さん)

次に作ってみたい料理は「和菓子」に「ケーキ」

最後に、今後挑戦したいメニューについて伺うと、井上さんからは「練り切り」という答えが返ってきました。目が見えていたときの記憶を思い出しながら、ハードルが高そうなメニューにも挑戦しているといいます。

計量や見映えが重視されるお菓子作りは難易度が高いため、倉垣内さんはレンジで作れる簡単お菓子レシピをネット検索しているそうで、最近見つけた気になるレシピを教えてくれました。

「電子レンジで作れるチョコレートケーキレシピをクックパッドで見つけたのでいつか作ってみたいと思っています。計量も簡単そうですし、材料を混ぜるだけというのが魅力的。最近はスマートフォンが文字を音声化してくれるので、レシピを検索しては音声で聞いて作ったりもしています」(倉垣内さん)

視覚障害があることで大変そうなイメージばかりを持ってしまいがちですが、今回お話を伺った3人からは、「大変」「難しい」というよりも「おいしいものを作って食べるって楽しい!」そんな思いが1番に強く伝わってきました。どうやったらおいしい料理を作れるか、その思いは視覚の有無に関係なくみんな同じ。料理がもっと日々を豊かにする楽しみのひとつになるといいですね。(TEXT:河野友美子)

メイン画像提供:Adobe Stock

取材協力

特定非営利活動法人 神奈川県視覚障害者福祉協会
昭和23年(1948年)に設立され、70年以上にわたる長い歴史をもち、視覚障がい者の生活擁護と、同じハンデを持つ者同士が協力して問題解決にあたることを目的に結成された団体です。現在県内には約19,000人(横浜市、川崎市、相模原市含む)の視覚障がい者が県民の一人として生活しております。近年、視覚障害を負う者が年々増加の傾向にあり、団体としての果たすべき役割はますます増大し、より重要になりつつあります。本協会ではこれらの実情を踏まえ、また結成当初の目的を達成すべく、様々な事業を積極的に推進しております。
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