今年3月にクックパッドニュースで配信したこちらの記事、皆さんは記憶にありますか?
アボカドの変色は、レモン汁をかけずに600Wのレンジで10秒加熱すれば防げるという内容です。実はこちらの記事が大反響で、3月に配信した記事の中で1番読まれた人気記事となりました。
レモン汁を使わずに変色が防げるなんて、便利なワザですよね。レモンが苦手な人や、レモン汁が家にない時など、意外と使う場面が多そうな知識です。
では、どうしてレンジで10秒加熱するだけで、アボカドが黒くなるのを防げるのでしょうか? 今回、野菜のスペシャリストである日本野菜ソムリエ協会の高崎さんと、東京農業大学で食品の褐変反応を研究されている村田容常教授にお話を伺いました。
ーー どうして食材によって、切ると変色してしまうものがあるのでしょうか?
多くの果物や野菜には、ポリフェノールという成分が含まれています。このポリフェノールにもいろいろな種類があり、ポリフェノールオキシダーゼという「酸化酵素」を含んでいるものもあります。この酵素は酸素が存在するとポリフェノールを酸化させて褐変反応を起こすため、ポリフェノールとポリフェノールオキシダーゼの両方を含む食材は、切ったり皮を剥くと変色してしまうのです。(高崎さん)
ーー 「りんご」も切ると変色する食材のイメージが強いですが、これも褐変反応なのでしょうか?
その通りです。りんごの場合は塩水に漬けることで酵素の働きを抑えているんですね。(高崎さん)
ーー 食材によって塩水につけたり、レモン汁をかけるなど対処方法が違うんですね
酵素は働きやすいpH(水素イオン濃度)があります。pHと聞くと、理科の授業でリトマス紙を使って実験をした記憶がある方もいらっしゃると思います。アボカドの場合は、レモン汁をかけることで、pHを酸性にして酵素の働きを抑えています。これは、アボカドのポリフェノールオキシダーゼが酸性だと活動しにくい物質だから。他にも、ビタミンCを加えることで酸化物の酸素を失わせる"還元作用"を起こし、変色を防げる食材もあります。このように、食材によって、酸化酵素を抑える方法が異なります。(高崎さん)
褐変反応のメカニズムについてよく分かりました。次に、東京農業大学の村田容常教授に、なぜレンチンで変色が防げるのか、教えていただきました。
ーー アボカドにレモン汁をかけると変色が防げる理由は分かったのですが、なぜレンジで10秒加熱するだけで変色が防げるのでしょうか?
おそらく、電子レンジでの加熱が酵素活性に影響したのだと思います。温度が上がれば酵素は失活するので、加熱失活したと考えるのが自然だと思います。(村田教授)
ーー 10秒と短い加熱時間でも有効なんですね!?
温度などを測定しないと詳しいことは分かりませんが、短い時間であってもレンジ内部がある程度加熱された結果、酵素の失活につながったと思います。最小限の熱量で失活したとすれば、品質への影響も少ないと思いますよ。(村田教授)
アボカドが黒くなる理由と、レンジでチンするだけで変色が防げるメカニズム、ご理解いただけたでしょうか? 今回取材をした高崎さん、村田教授ともに「レンジでアボカドの変色が防げるなんて面白い!」とおっしゃっていました。それくらい、新しい手法なのかもしれません。
「アボカドの変色を防ぐにはレモン汁」という知識は、料理をしているとなんとなく知ることが多いかと思います。今後は、レンチンで変色を防げるということも、ぜひ覚えておいてください。そして、これからアボカド料理を作るときは、今回の話を思い出していただくと、いつもの料理が少し実験のように感じてワクワクするかもしれませんね。
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2001年8月7日創立。野菜・果物の知識を身につけ、その魅力や価値を社会に広めることができるスペシャリストである野菜ソムリエの資格提供と育成の他、各種講座やコンテンツの企画開発・提供を行っている。
専門は食生活学、食品科学。主に食品化学 メイラード反応や酵素的褐変について研究。1979年に東京大学 農学部 農芸化学科を卒業。1988年にお茶の水女子大学講師、助教授、教授を経て、2021年より東京農業大学 応用生物科学部 農芸化学科の教授(現職に至る)。