【アメリカの最新ごはん事情vol.13】1989年に渡米し、「セレブ御用達プライベートシェフ」としてアメリカで料理を作り続けてきた明比玲子さんに、日本ではなかなか知ることができないアメリカの食事情を教えてもらいます。第13回目のテーマは「ドーナツ」。ミスタードーナツをはじめ、クリスピークリームドーナツなど日本で有名なドーナツは大体アメリカ発! 本場のドーナツ事情について、レシピとともに教えてもらいました。
アメリカにはおいしいドーナツが山のようにあり、それぞれに食感やフレーバーなど個性があります。どれが一番おいしいか選ぶことができないほど!
例えば、カリフォルニアのナパにある「フレンチランドリー」というミシュラン三つ星の高級レストランでは、デザートにコーヒーセミフレッドとドーナツを提供し非常に話題になりました。1994年に始まり、今も提供されています。この後アメリカでは、その他の高級店のデザートに、ドーナツがサービスされるのは珍しいことではなくなりました。
歴史を辿ると、オランダからの入植者がアメリカのマンハッタンにドーナツを初めて紹介したと言われています。そして、第一次世界大戦で一気に全米に広まり、大恐慌時代には庶民の食生活を支えるほどの食べ物になります。同じ頃、移民が到着するエリース島では、到着後にまず毛布とドーナツが手渡され、まさしくアメリカ最初の味となったのです。安価でお腹を満たしてくれるドーナツはこのように、アメリカ人の生活に密着し重宝されてきました。
時を経て、2000年にオープンした「ドーナツプラント」は、ニューヨークのドーナツの歴史を変えます。可能な限り良質の材料を使ったもちもち食感のドーナツに、ニューヨーカーはトリコになったのです。あれから20年余り、ニューヨークでは世界中を騒がせたクロナッツを始め、数々の有名なドーナツが誕生しました。近年は、アジア系のフレーバーや食感が目立ちます。
実はニューヨークではここ数年、もちアイスクリーム(雪見だいふく) が大流行しています。その影響もあり、もちもち食感に仕上がるもち粉で作られたドーナツが人気で、専門店もあります。そして今年は、フレーバーでは「ウベ」が大流行。ウベは紅山芋のことで、粘りがあり鮮やかな紫色とまろやかな味わいが特徴です。最近はドーナツだけでなく、さまざまなスイーツでウベフレーバーを見かけます。また、日本で流行っている、生ドーナツに近い食感のドーナツが人気のお店もありますよ。
アメリカ人は家で揚げ物をほとんどしませんが、皆さまは揚げ物に慣れていると思うので、アメリカの味をご自宅で作ってみるのはいかがでしょうか? 思っているより簡単にできますよ。フィリングは、ご自分の好きなものをどうぞ。
・牛乳……1/2カップ
・ドライイースト…… 小さじ 2・1/4
・砂糖 ……20g
・バター(室温)……大さじ4
・卵黄……3個分
・ヨーグルト……大さじ1
・中力粉……250g
・塩……小さじ1
・シナモン……小さじ3/4
・ナツメグ……小さじ1/2
・キャノーラ油 (その他、揚油)……適量
・砂糖 ……適量
<フィリング>
・ラズベリージャム(種無し) ……適量
※種無しがない場合は、濾して使用します
1.牛乳を40℃に温める。
2.フードプロセッサーに牛乳、ドライイースト、砂糖を入れ、表面がクリーミーな感じになるまで2分ほど放置
3.(2)にバター、卵黄、ヨーグルトをくわえてフードプロセッサーを回す。中力粉、塩、シナモン、ナツメグを合わせてふるい入れ再び回す。この時、生地はとてもねちょねちょしている
4.ボウルの内側に油(分量外) を薄く塗り、そこに生地をうつしてラップをかけ、倍に膨らむまでなるべく暖かい所でねかせておく
5.倍に膨らんだら、打ち粉(分量外) をしながら、1.5cm厚さにのばす。これを直径5cm(または好みの大きさ) の丸いクッキーカッターで抜き、再び倍に膨らむまでラップをかけて室温でおく
6.キャノーラ油を中温に温め、(5)の生地を揚げる。網に上げてさっと油を切ったら、すぐに砂糖をまぶす
7.ドーナツの側面に絞り出しの口金で少し穴を開ける。絞り出し袋に3〜5mmの口金をつけてラズベリージャムを入れ、開けた穴からドーナツにジャムを絞り入れる
フードプロセッサーがない場合は、ボウルに同じ順序で材料を入れていき、手でこねます。かなりねちょねちょしている生地なので、ある程度ゴムベラなどで混ぜ合わせても良いです。また、このレシピはかなり甘めのドーナツなので、小さめなサイズに仕上げています。甘すぎるのが苦手な方は、フィリングをカスタードクリームにしたり、外側にまぶす砂糖を粉砂糖に変えると甘みが抑えられますよ。
最後に、日本とアメリカのドーナツで違うところは、一時的に大流行したドーナツ屋でも廃れないことです。ロックダウンによって、やむ終えず店舗数を減らした店、ネットでしか販売していない人気店などがありますが、どの店も根強いファンがいて、日本のように完全消滅してしまうドーナツ屋はありません。その証拠に1964年にオープンしたオールドファッションの「ドーナツパブ」は、いまだに人気のお店。なんでも、アメリカ人はお酒を飲むとドーナツを食べたくなる人が多いようで、なんと24時間営業です。アメリカ人にとってドーナツは、何歳になっても大事な存在のようです。
兵庫県芦屋市生まれ。1989年に渡米し、ニューヨークのシェフ養成学校で学んだ後、本格的に料理に取り組む。著名レストランでパティシェとして経験を積み、アメリカ人と日本人に料理とお菓子の指導も行う。日本の料理雑誌への寄稿やフードスタイリングも行いつつ、2008年からは、コンサルティングの仕事なども兼ねながら、ニューヨークセレブのプライベートシェフとして、活躍中。
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