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コラム

平成に流行・定着した野菜、第2位の「アボカド」。実は中南米の水不足の原因にも?

【あの食トレンドを深掘り!Vol.39】90年代に流行した「ティラミス」、数年前に話題になった「おにぎらず」、直近では社会現象にもなった「タピオカ」など、日々生まれている食のトレンド。なぜブームになったのか、その理由を考えたことはありますか? 作家・生活史研究家の阿古真理さんに、その裏側を独自の視点で語っていただきました。

2000年代を代表する野菜「アボカド」

タキイ種苗が2019年に取ったアンケートによると、平成に最も流行し定着した野菜はパクチーで、2位がアボカド、3位がフルーツトマトだったそうだ。このように、アボカドは食事に使われることが多く野菜的な扱いが多いが、農水省の分類で2年以上栽培する必要がある樹木になる果実は果物とされるため、果物に分類されることもある。いずれにせよ、大流行していたアボカドが目立つようになったのは、『エル・グルメ』(ハースト婦人画報社)2017年9月号で、「スター食材」として取り上げられたあたりからだったと思う。レシピ本でも、アボカドを使った料理がよく紹介されるようになった。2007年に開業した「日本初」のアボカド料理店、東京・神保町の「アボカフェ」ほか、ポツポツと専門店もできているようだ。

中南米を中心に栽培されてきたアボカドは、日本で1970年代後半から輸入が増え始めた。2000年代半ばに伸びが大きくなり、2020年には1988年の約23.6倍に、2005年と比べても約2.8倍と、いかに急激に増えたかがわかる。横浜税関が2021年9月16日に出したレポート「アボカドの輸入」によれば、流行のきっかけは、2000年代にアボカドが悪玉コレステロール値を下げる不飽和脂肪酸を多く含み、食物繊維が豊富でヘルシーと認知されたことや、飲食店でサラダやハンバーガーなどで使われるようになったこと。ほかにもカリウム、ビタミンE、B6 、葉酸が豊富だ。

アボカドとの初めての出会い、そして定番化まで

私がスーパーで見かけるアボカドをどうやって料理するか知ったのも2000年代初め、妹の家に行った折だった。「お刺身みたいに食べられるんだよ」と妹が出してくれたのは、サイコロ状に切ったアボカド、マグロで、わさび醤油をかけたらおいしかった。以来、スーパーでたまに買って真似したのが、最初のアボカド料理だった。

正しい剥き方を知ったのは、10年ぐらい後。桃もそうだが、大きな種が真ん中にある果物を、私は長年、まず皮を剥き、種を避けながら周りを少しずつそいで切っていた。実は真ん中にぐるりと切り目を入れ、両手で回転させるのが簡単なやり方で、パカッと外れる。そこから種に包丁の角を挿して外し、皮を剥いて好きな形に切る。ときどき、種がどうにも外れにくい実があり、その場合は以前と同じように周りからそいでいく。

次なる課題は、ちょうどいい熟し加減のアボカドを選ぶこと。ここはいまだに課題で、食べ頃が短いアボカドが未熟過ぎず熟し過ぎないベストなタイミングを、皆どうやって見極めているのだろう。皮が黒過ぎず身が硬いモノを選んだつもりなのに、包丁を入れてから硬過ぎた、熟し過ぎて黒い筋が入っていた、とわかることがある。また、すぐ食べないと黒い筋ができていく。最近少しわかったのは、柑橘類の果汁など酸をかけておけば黒くなりにくくなること。しかし、夜に調理して翌日見ると若干黒いので、やはりつくりおきには向かなさそうだ。

私のアボカド料理のレパートリーも増え、2003、2004年頃に流行して定着したグルメバーガーのように、アボカドとエビを組み合わせる、シーフードサラダに刺身とともに混ぜる、ワカモレサラダにするなどは定番化した。最近、トマトや鶏肉などとスープに入れてみたりもしている。

有名な小説にも登場

アボカドのスープが出てくる小説がある。2009年に映画化された小説『最終目的地』(ピーター・キャメロン、岩本正憲訳、新潮クレストブックス)で、旅先のウルグアイで倒れたアメリカ人の主人公に、現地でのちに結ばれる女性が、アボカドとクレソンの冷製スープを用意する場面がある。しかし、アメリカから駆け付けた恋人は、病人には温かいモノを、と温めてしまった。主人公は「新鮮さも風味も飛んでしまう」と怒りを覚える…というエピソードだ。

近年は国産でアボカド栽培の動きも

アボカドは最近、温暖化の影響で日本でも栽培されるようになり、話題を集めている。今年1月7日に首都圏ローカルの食のドキュメンタリー番組『食彩の王国』(テレビ朝日系)でも、国産アボカドの特集をしていた。愛媛県松山市の生産者、森茂喜さんは1991年の大型台風でミカンが全滅し、アボカド栽培を始めた。試行錯誤の末に成功したら、市が名産地化に乗り出し、現在では180軒が栽培しているという。『マイナビニュース』2022年5月15日配信の「1000円でも売れる国産アボカド。栽培成功まではイバラの道?」によれば、松山市は2009年に苗の配布を始めたようだ。

農林水産省の統計で2020年は和歌山県がシェアの半分以上を占め、続いて愛媛県が4分の1、他に鹿児島県、熊本県、宮崎県が栽培している。新潟県でも、ハウス栽培に取り組む生産者がいる。基本的にアボカドは、温暖で南向きの斜面が向いていて、松山市の森さんのように、ミカンからアボカドへ切り替える生産者が多いようだ。肥料は柑橘類より少なくて済むが、種から実をつけるまで5~7年かかる、とアボカド栽培をすすめる農業者向けウェブマガジン『ミノラス』が紹介している。

日本ではメキシコなどからくる「ハス」という品種が出回る大半を占めるが、国産では異なる品種も栽培している。アボカドの品種は数百とも1000とも言われるほど、実はバラエティがある。国産品は今のところ、マンゴーと同様高級品ばかりだが、国産化が進んで普及すれば、新しい味わいが人気になるかもしれない。

中南米では水不足を招く原因に

アボカドは今、栄養価の高さとヘルシーなイメージ、「森のバター」と呼ばれる濃厚な味で世界的にブームになっているらしい。しかしそのことで、環境を損ねている側面もある。ベストセラーになった『人新世の「資本論」』(斎藤幸平、集英社新書)でも、ブームを当て込んで栽培が増えたチリで、生活用水の不足を招いていると書いている。NHKの『WEB特集』2022年6月14日配信記事によると、アボカドは、松の5倍以上も水を吸い上げるのだそうだ。世界は水不足に直面しており、ブームを手放しで喜べる状況ではない。

アボカドは、クセはあまりないがねっとりと濃厚で、緑と黄の色が美しい。レシピも次々と発信されているし、新しい料理を開発する面白さも加わり、新しいモノ好きの日本で人気が高まるのは当然と言える。国内の栽培がもっと盛んになり、中南米諸国への負荷を若干でも減らせれば、事情は変わるのだろうか?引き続き見守っていきたい。

画像提供:Adobe Stock

阿古真理(あこ・まり)

©植田真紗美
1968(昭和43)年、兵庫県生まれ。作家・生活史研究家。神戸女学院大学卒業。食や暮らし、女性の生き方などをテーマに執筆。著書に『昭和育ちのおいしい記憶』『昭和の洋食 平成のカフェ飯』『小林カツ代と栗原はるみ』『なぜ日本のフランスパンは世界一になったのか』『パクチーとアジア飯』、『母と娘はなぜ対立するのか』、『平成・令和食ブーム総ざらい』、『日本外食全史』、『料理に対する「ねばならない」を捨てたら、うつの自分を受け入れられた。』、『ラクしておいしい令和のごはん革命』、『家事は大変って気づきましたか?』など。

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