ここまでで、天然氷と冷凍庫の氷は“かき氷として提供するときの温度が違う”ことが分かりました。 でも、氷は同じ氷です。冷たい事に変わりはなく、冷たければ頭はキーンとしそうです。 どうして、天然氷は、頭がキーンとしにくいのでしょうか。
まず、頭がキーンとするしくみについてミクロなレベルで説明します。 冷たいものを食べて頭がキーンとする現象、通称「アイスクリーム頭痛」は、「冷たい」の刺激を、脳が「痛い」と感じることが原因の一つだとされています。
そのメカニズムを簡単に説明しますと、
1.冷たい刺激がやってくる
2.「温度が17度以下の刺激」をキャッチするセンサー(タンパク質)が働く
3.そのセンサーが「痛み」のシグナルを脳に送る
このようになります。
「冷たい刺激」は、このセンサーを介して「痛みの刺激」に変換されるのですね。
このため、「頭がキーンとしにくい」という現象は、「このメカニズムが作動しにくい」という現象に置き換えられます。
不純物の少ない天然氷は、水分子同士がかっちり結合しているため、固い氷になります。 固い氷であれば、とても細かく削る事が出来ます。 そして、削って盛りつける際に空気が含まれるため、いわゆる“ふわふわ”なかき氷が出来上がります。 これが天然氷からふわふわ食感を作れる理由です。 さらに、削りが細かいということは表面積も多いので、 「温かい舌」に触れる面積が増え、口の中で溶けるスピードも早くなります。
天然氷かき氷は温度が高めであることに加え、溶けるスピードも早いため、「冷たい刺激」を受け取ってる時間が短くなるのです。 このため、削りがあまり細かくなく、温度も約マイナス10℃前後である冷凍庫の氷のかき氷は、冷たい刺激をキャッチするセンサーを作動させやすいのに対し、天然氷のかき氷は、そのセンサーが作動しにくくなると考えられます。つまり、頭がキーンとしにくいのです!
以上が、天然氷が頭がキーンとしにくく、ふわふわな食感であると言われている科学的な考察です。 このため、原理的には、不純物を完全除去した氷を冷凍庫で冷やし、少し温めたのちに細かく削れば、頭がキーンとしないふわふわなかき氷を再現できることになります。しかし、それは中々容易なことではありません。 天然氷のスゴさは、科学的にも理にかなっている美味しさを生み出す氷を、自然の力で作れるところにあったのですね♪
味覚研究家。AISSY株式会社代表取締役社長 兼 慶応義塾大学共同研究員。味覚を数値化できる味覚センサーを慶大と共同開発。味覚や食べ物の相性の研究を実施。メディアにも多数出演。ブログ『味博士の研究所』で味覚に関するおもしろネタを発信中。