いまやコーヒー界ではスタンダードになりつつある「サードウェーブ」。ブルーボトルコーヒーやゴリラコーヒーなど、海外発のコーヒーショップが続々と日本に上陸しました。
しかしそれらのコーヒーショップのオーナーは、日本の純喫茶のサービスに感銘を受けて、お店を始めたということをご存知ですか?マスターのコーヒーへのこだわり。お客さんとのコミュニケーションによる高いホスピタリティ。日本人が当たり前だと思っていた「純喫茶」という空間は、海外から見ると非常に稀有な場所だったのです。 今回はその魅力を探るべく、名店中の名店。世田谷【邪宗門】にお邪魔しました。
急に現れる【邪宗門】の看板。木彫りでなんだか味があります。ランプと魚の彫刻にはさまれた小さなドアは、どこか異国につながっているんじゃないかと思わせる雰囲気です。さて扉を押し開けてみましょう…
店内には様々なアンティークが。フィルムカメラ、壺、ランプ、火縄銃、ファイリングされたレトロなマッチ箱や切符のコレクション…。異世界感があるような、どこか懐かしいような、そんな不思議なムードです。
お店の一押しは、「ウインナーコーヒー」。ふわっふわの泡がこんもり乗った、可愛らしいコーヒーカップが運ばれてきます。「わあ…」思わす歓声を上げながら一口頂くと、案の定上唇にクリームが!クリーム自体が甘めでおいしいので、もったいなくて舌で舐めて拭います。マスターは、それがウインナーコーヒーの醍醐味だと笑っていました。 コーヒーは最初から砂糖が入っています。ですが苦めの豆を使っているので後味はとてもすっきり。クリームと混ざり合ってもその風味をしっかりと感じることがてきます。普段はあまりコーヒーを飲まない方でも、ここのコーヒーは大好きだ、と言われるそうです。
インターネットでの口コミで話題になっているのは「コーヒーあんみつ」。黒蜜の代わりに濃いコーヒーをかけていただくのですが、あんことコーヒーって合う!!驚きの発見です。かける用のコーヒーをそのままいただきましたが、これがまたおいしい。あんこの甘さに負けない苦みと香りがあります。
バニラクリーム、あんこ、寒天、コーヒーを一緒に食べると、甘みと苦みのバランスが最高。甘ったるさがないのでいくらでも食べられそうです。あれ、黒蜜よりもすっきりして、こちらの方が合うかも…?!寒天もお店で作っているそうです。ぷりぷりの歯ごたえが寒天の美味しさに気付かせてくれます。
マスターと奥様にお話を伺っていると、【邪宗門】だけでなく「純喫茶」の魅力とはなにかが分かった気がしました。「コーヒー」はもちろんのこと、漂う「ホーム感」が人々を惹きつけて止まないのではないでしょうか。
マスターが自分の好みやこだわりをとことん追求したコーヒーは、それだけのために通うという常連客を生みます。またマスターごとに、コーヒーにはそれぞれ個性があり、自分の好みに合った一杯を探すという楽しみもあります。メニュー数が少ない分、一つ一つに手間がかかっているなあと感じます。こちらのレトロなマシーンもまだまだ現役。昔から変わらないこだわりに安心感があります。
毎朝コーヒーを飲みに来る常連さんには「指定席」があったり、お客さんの一人が旅のお土産を他のお客さんにも配ったり、ということもしばしば。初来店の方でもマスターが気軽に話しかけ、談笑しながらコーヒーを楽しむことが、むしろ当たり前なのです。このように「純喫茶」には人のつながりによる「アットホーム感」があります。
世田谷の【邪宗門】には魅力がもうひとつ。それは膨大な数の「美空ひばり」コレクションです。マスターも奥様も相当なファンで、レコードはもちろん、映画、ポスターなどが棚に飾ってあります。それを目当てに来るお客さんもたくさんいます。リクエストすると立派な蓄音機で再生してくれるのですが、非常に趣深く、グッときます。
【邪宗門】はマジシャン仲間で始めた喫茶店で、もちろん世田谷店のマスターも例外ではありません。マジックを教わりに来る小さな子もいるそうです。またマスターは世田谷出身の文豪などにもお詳しかったり、とても博識で話していて勉強になりました。そんなこんなで、取材に行ったのに2時間半も話し込んでしまいました…。時を忘れてしまう、素敵な喫茶店です。
「純喫茶」の良さ、ここでは伝えきれません。みなさまもたまには渋めの「純喫茶」をチョイスして、その良さを五感で感じてみませんか?
東京都世田谷区代田1-31-1
TEL 03(3410)7858
営業時間 AM9:00~ 木曜定休
成城大学文芸学部3年
音楽、映画、美術館が好きな、アッパー系サブカル女子。食い意地は誰にも負けません。