食事をする時の心持ちに、五思という教えがあります。
第一:この料理をくださった方への感謝
第二:生産者の方への感謝
第三:今日も平和でおいしく食事ができる社会への感謝
第四:今日も飢えることなくおいしい料理を食べることができることへの感謝
第五:料理という知恵から授かる「おいしさの恵み」への感謝
というように、五思とは、五つの感謝なのです。この中のひとつかふたつでもよいので、料理や食事の際に、ちょっと思い巡らせてみてはいかがでしょうか。
感謝するべき点は他にもあります。料理に使う台所道具です。道具とは自分の手を立派に助けてくれるものです。料理を作るのを助けてくれる道具であれば、生身の人と同じように、大切に扱うべきではないでしょうか。汚れていればきれいにするべきですし、きれいであっても、磨いて、もっときれいにするというように、愛すること。そうすれば台所道具は、自分の料理をさらに助けてくれて、さらにおいしい料理が出来上がるでしょう。
日々の暮らしにおいて、台所道具の汚れを落とし、ピカピカに磨くには、何を使って、どうしたらよいのでしょうか。
様々な汚れ落としに便利な重曹は、ぜひ備えておくとよいでしょう。
重曹とは、炭酸水素ナトリウムの粉末で、パンやお菓子作りの膨張剤の一種で「ふくらし粉」のことです。間違えやすいのですが、ベーキングパウダーとは、多少成分が異なります。口に入っても安全なこと、粒子が硬すぎないために研磨剤として適していること、酸を中和するため、脱臭効果に役立つことから、日々の掃除の際に、汚れ落としの洗剤代わりにとても便利です。
重曹は、油の汚れ落としに効果を発揮します。油と混ざることで油を浮かせる石鹸のような性質があるのです。基本的に油の汚れは酸化しているため、重曹によって中和させ、その汚れを取り除くことができるのです。
換気扇などのしつこい油汚れは、重曹と水(2:1)のペーストを作り、汚れ部分に塗り、ラップでしばらく湿布すると、驚くくらいに簡単に汚れが浮き上がり、きれいに掃除することができます。
鉄製の鍋は、強火で使い過ぎてしまうと、内側が焦げてしまい汚れがこびりついてしまいます。この汚れは普通の洗剤では、簡単に取り除くことができません。ゴシゴシとこすってしまうと、傷がついてしまいますので注意しましょう。こんなときこそ、重曹が活躍します。水を張った鍋に重曹を大サジ2杯ほど入れ、中火で沸騰させます。沸いたら、フタをして弱火で15分くらい煮ます。その後、火を止め、自然に冷ませば、こびりついた汚れが浮き上がり、スポンジで簡単に落とすことができるでしょう。
オーブンや電子レンジの内側といった洗剤で落としづらいちょっとしたこびりつきや汚れも、重曹をそのままスポンジにつけて、軽くこすればちょうど良い研磨剤となって、ぴかぴかになるでしょう。冷蔵庫の内側など、洗剤を使いたくない場所の汚れ落としも、重曹をおすすめします。
水100mlに対し、重曹小サジ1杯を混ぜた、重曹水を作ると、家中の掃除に役立ちます。脱臭効果がありますので、カーテンや匂いのついた洋服にスプレーすれば、酸性の匂いを中和させて取り除いてくれます。下駄箱や生ごみにもその効果は発揮します。もしくは、洗剤に重曹を混ぜても汚れ落としに効果的です。
とはいうものの、弱アルカリ性の重曹は、タンパク質を分解しますので、濃い重曹水は手肌の荒れの可能性がありますので注意しましょう。
洗剤のように泡が出ませんが、重曹くらい優れた汚れ落としはありません。
日々の台所道具のお手入れにお役立てください。今日はおそうじ当番。
文・写真:松浦弥太郎
重曹は、台所道具以外にも、普段、使ったあとの食器汚れを洗うときにも役立ちます。生産者さんや、料理をしてくれた人へ「ありがとう」という感謝の気持ちをこめて、食器洗いをしてみましょう。
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