料理僧・青江覚峰(あおえ かくほう)さんが提案するのは、誰でも簡単に作れる「一汁一菜のお寺ごはん」。実際にお坊さんたちが食べている、肉や魚を使わない一工夫あるレシピを教えていただきました。からだと心がほっとゆるむ、優しい味わいのお料理ですよ。
今回のメインは「里芋のおろしあんかけ」。里芋を一度煮て、その後揚げてからあんかけにします。シンプルながら、意外と手のかかる料理ですが、煮て出汁に浸すことでたっぷりと旨味を吸い込んだ里芋をさらに揚げることで、出汁の味わいと油のコクと香ばしさが存分に楽しめます。こってりと食感も腹持ちよい一品です。
里芋はただ煮るだけでも十分においしくいただけますが、どうしてさらにそれを揚げる、しかもおろしを加えたあんをかける、ということをしたみたのでしょうか。
この料理を考えるとき、僕は先人の弛まぬ努力を垣間見ることができるように思うのです。
里芋の煮物自体は非常にシンプルで、スタンダードな料理です。ある意味、それで完成していると言ってよいでしょう。それなのに、その完成形である煮物に、あえて粉を打って揚げるという一手間をかける。さて、食べてみればたしかにおいしい。でも、さすがに油っこい。ならば大根おろしも加えてさっぱりさせてみようか。
なんてことを、どこの誰が考えたのかはわかりませんが、食べることに関する人間の飽くなき探求心が覗えます。
里芋…4個
大根…1/6本
片栗粉…適量
【A】
昆布だし…2カップ
醤油…大さじ2
みりん…大さじ2
【B】
昆布だし…1.5カップ
しょうゆ…大さじ2.5
みりん…大さじ3
片栗粉…小さじ2(水で溶いておく)
小松菜のおひたし(付け合わせ。お好みで)…適量
1.里芋はきれいに洗って皮をむき、水をひたひたになるまで入れた鍋に加えて中火で串がすっと通るまでゆでる。
2.一度ゆで汁を流し、【A】を加えて15分煮て、火を消して冷めるまでおいておく。
3.揚げ油(分量外)を170℃に熱し、2の里芋に軽く片栗粉をまぶしたものを素揚げにする。
4.大根は皮をむいてすりおろし、ザルにとって軽く水気を切る。
5.鍋に【B】を入れて中火にかける。沸騰したら水溶き片栗粉を入れ、とろみを付けた後3を入れてひと煮たちさせ、4の大根おろしを加え、盛り付けをする。好みでおひたしにした小松菜をのせる。
春キャベツ…1/8個
トマト(中)…1個
昆布だし…1.5カップ
塩…ひとつまみ
塩、こしょう…少々
1.キャベツの芯を切り、細かいみじん切りにしておく。葉の部分は5ミリ程度の荒いみじん切りにする。
2.トマトは5ミリ程度のさいの目切りにしておく。
3.鍋にだしとキャベツの芯を入れ、火にかける。沸騰したら弱火にし、残りの材料と塩を加える。
4.5分ほど煮て塩、こしょうで味をととのえたら盛り付ける。
とりわけ精進料理では、使える食材に限りがあるため、食感や味わいに幅をもたせるように工夫をこらします。また動物性のものを避けるため、栄養の観点からも味わいの観点からも、いかにして油分のコクを取り入れるかが課題の一つでもあります。
思えばどんなものでも、こうして先人が知恵を絞って作り上げてくれた豊かな食文化に、私達は生かされ、心と体を育まれているのです。この先さらに10年後、20年後、この料理がさらなる進化を遂げるかもしれないと思うと、未来の食卓に夢が膨らみますね。
1977年東京生まれ。浄土真宗東本願寺派 湯島山緑泉寺住職。米国カリフォルニア州立大学にてMBA取得。料理僧として料理、食育に取り組む。ブラインドレストラン「暗闇ごはん」代表。超宗派の僧侶によるウェブサイト「彼岸寺」創設メンバー。
ユニット「料理僧三人衆」の一人として講演会「ダライ・ラマ法王と若手宗教者100人の対話」などで料理をふるまう。著書に『お寺ごはん』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『ほとけごはん』(中公新書ラクレ)、『お寺のおいしい精進ごはん』(宝島社)など。
【公式HP】https://www.ryokusenji.net/kaku/