「おやさい料理研究所」所長のたかはしかよこさんは、指導専門の栄養士として16年活動した後に、IT企業にエンジニアとして転職したという異色の経歴を持っています。そんなたかはしさんが、再び食にまつわる仕事を選ぶきっかけになったのは、働いていた会社の社員食堂のコンセプトメイクや運営に携わったことなんだとか。働く人たちの食生活から、たかはしさんが見つけた「必要な栄養を摂る食事」と、「無駄の出ない料理術」についてお話を聞きました。
当時勤務していたIT企業が、社屋移転を機に無料の社員食堂を作るという話を聞いたときに、せっかく作るのなら栄養バランスが取れて、おいしい食事が食べられる食堂にしたいと思ったんです。そこで、社員食堂のコンセプトメイクと運営に携わらせてもらいました。これは、本来の業務ではないので完全にボランティアでしたが、レストランでも家庭でもない社員食堂というところでは、どういうことが大事なのかということを学ぶことができたので良い経験になりました。
社員食堂というのは、働く人が食事を食べる場所なのですが、そこで見えてきたのは、1日に必要な栄養素を十分に摂取できている人がほとんどいないということ。
栄養学には身体が生きるために必要な栄養素が「栄養所要量」として栄養素単位で提示されています。
これを具体的な「食品」に翻訳したものが「食品構成表」というもの。
これによると、野菜が350g、芋が100g、豆類が80g、果物が200g、卵50g、乳製品が250g、肉・魚(タンパク質)が100~160g、という量が、1日に摂取すると望ましいとされている分量です。
外食が多い人というのは、肉や魚、炭水化物と揚げ物の選択肢はたくさんあるんですが、バランスを取るために最も大事な野菜が全く摂れないんです。
お店で食事をしても、小さめのサラダがちょっとだけついてくる…ということはよくあると思います。野菜を350g摂取するために、例えばデパ地下でサラダを買おうとすると、だいたい100g380円くらいなので、1000円を超えてしまうんです。1000円出すならお肉を食べようとなる気持ちはわかります。でも、やはり1日の中で野菜を350g摂取することは頑張ってもらいたい。
その思いがあり、野菜を気軽にたくさん食べてもらえるレシピを考案しています。
「野菜を食べよう」と思って野菜料理のレシピを検索すると、たんぱく質と一緒に調理するようなレシピばかりが出てくるんです。野菜をしっかり摂らなきゃいけないのに、野菜単体で食べられるレシピが少ないんですよね。これは、私からするとすごく不合理。野菜を食べなくてはいけないのに、その他の食材を揃えなくちゃいけなくなる。
そこで私は、目の前の野菜を食べたいと思ったときにすぐ食べられる。さらに、おいしく食べられるレシピをおやさい料理研究所で紹介しています。基本は、野菜1つと調味料とスパイスだけで作れる「一菜一品」なレシピばかりです。
これらのレシピは他の野菜にも応用が効くんです。1つ目のレシピのように“スパイスを使う”か、2つ目のように“にんにくでソテーする“か、3つ目のように“ハーブを使う”か。野菜だけの料理が作りたくなったら、この考え方を参考にしてみてください。
また、野菜を350g摂取すると、胃袋が満たされて食べすぎ防止にもなりますよ。
誰もが、食べ物を捨てるのがもったいないという気持ちを持っていると思います。食べられる部分を捨てることを「食品ロス」と言いますが、あれこれ作ろうと食材を買って、ついつい無駄にしてしまうことってあると思うんです。
まずは、「一菜一品」で、買った野菜をしっかり食べきるということを意識するきっかけになればいいと思っています。
私は、どうして出てしまう野菜の皮や種の部分の処理にコンポストを利用しています。「循環生活研究所」が研究を重ねて作ったおしゃれで手軽なタイプです。
どうしたら自分が気持ちよく生活できるか、を考えたとき、始めてみようと思ったのがコンポストです。コンポストとは、家庭から出る生ごみや落ち葉などの有機物を微生物の力で分解発酵させて、堆肥にすることを言うのですが、これをすると気兼ねなく野菜の皮や種を入れられるのでおすすめです。循環させられるからボンボンいれられます。
自分が食べたもの、食べ残したものが土にかえっていく、そして畑からまた食卓に戻ってくるサイクルを見届けられるのもいいですよね。
食事の目的は2つ。心が喜ぶ食事と体が生きるための食事(体に必要な栄養素)です。どちらも大事なので、凝った料理を作るというのもいいですが、一方で体が喜ぶために何を食べたらいいかという2つの柱で考えてほしいと思います。
体が喜ぶということを考えると、安心して毎日の食生活が送れますよ。
(TEXT:上原かほり)
食の「もったいない」を美味しく楽しく解決! 舞台は“もったいない精神“の国、日本。
“もったいない精神”に魅せられ、オーストリアからやって来た食材救出人で映画監督のダーヴィドが日本を旅して発見する、サステナブルな未来のヒントとは?
映画『もったいないキッチン』は2020年8月のシネスイッチ銀座、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開に先駆け、5月25日(月)〜5月31日(日)の1週間限定で、オンライン先行上映会を開催中です!
作中には、たかはしかよこさんも登場し、一般のご家庭からいただいた「使わない食品」と畑の野菜を組み合わせて、即席で料理を作っています。
ぜひこの機会にご覧ください。
株式会社社員食堂の代表取締役、おやさい料理研究所所長、栄養士。日本橋のシェアキッチン「社員食堂ラボ」のディレクター。「おとな食堂」のファシリテーターをとおして「おとなの食育」のワークショップを主催。野菜一品で一つの料理をつくる「一菜一品」レシピを「おやさい350」のプロジェクト名で発信中。