世界中の台所を訪れて現地の人と料理をする台所探検家・岡根谷実里さんが、各地の家庭料理をお届けします。
厳密な定義はないのですが、アラビア半島を中心とする地域を指し、狭義には以下の地図に示した地域、広義には西は北アフリカまで含めることもあります。
「中東料理」とひとくちに言っても多様で、サウジアラビアなどの乾燥地域よりも、地中海沿いの温暖な地域の方が食材豊富で「豊かな食文化がある」と言われています。
特にヨルダンやパレスチナが位置する東部地中海沿岸地域はヨーロッパ・アジア・アフリカの文化の交差点でもあり、様々な食材とスパイスを使ったおいしい料理が盛りだくさんです!
知っているようで知らない中東料理の世界を、ヨルダン・パレスチナの台所からお届けします。
家族が集まる金曜日、パレスチナの家庭で一緒に作ったご飯料理です。
「マクルーバ」とはアラビア語でひっくり返すという意味。ひっくり返した時にきれいになるよう、ご飯と具材を大鍋に重ねて炊き込みます。
スパイスで煮たチキン、揚げた野菜、そしてご飯をあわせて炊き込むこと30分。どっしり重くなった鍋をえいっとひっくり返すのは、お父さんの仕事です。
大鍋をオープンすると歓声が。この瞬間がたまりません。
人気の具材はカリフラワー。揚げるひと手間で、とろーり溶けるような食感になっています。休日料理だから、手間も油も惜しみません。
「これは家族みんなが集まる金曜日の料理なの。私と旦那だけだったら食べきれないでしょ?」とお母さんは語ります。ひっくり返す時に上がる歓声も、マクルーバのおいしさの一部なんですね。
こちらはヨルダンのもてなし料理。スパイスで味付けしたライスにヨーグルトソースで煮込んだチキンをのせた大皿料理です。
特徴的なのが、その食べ方。
大皿を囲むも、取り皿はありません。山盛りご飯に直接ヨーグルトスープをかけ、みんなで一斉に手で食べるのです。 砂漠の民ベドウィンの料理とも言われるこの料理は、余計な皿や気遣いは一切なし。合理的でにぎやかな料理なのです。
「とは言えうちはスプーンを使うけどね」と息子さん。今はスプーンやフォークで食べる人も少なくないようですが、大皿を取り巻く特別なにぎやかさは変わりません。
マクルーバとマンサフは見た目も豪華で、パレスチナとヨルダンの国民食とも言える代表料理です。 しかしそんな華やかな料理の影に隠れて、隠れた人気者がモロヘイヤスープです。刻んだモロヘイヤとチキンを煮込み、たっぷりのにんにくでガツンと味付けした料理です。
見た目は決して美しくはないのですが、「好きな料理は?」と聞くと尋ねると必ず名前が上がるくらい、子どもも大人もみんな大好きな料理です。
「ふつうはモロヘイヤの鍋にチキンを入れて一緒に煮込むんだけどね、うちは旦那が別々に食べたがるからチキンは別で焼くのよ。」と2つの鍋で料理するお母さん。
娘さんの一番好きな料理も、このスープ。すぐ作れるように、お母さんは刻んだモロヘイヤを冷凍庫に常備しています。
余談ですが、日本語のモロヘイヤの語源はアラビア語。中東でもモロヘイヤはモロヘイヤと呼ばれます。 私はネバネバ野菜が大好きなのですが、言葉の通じぬヨルダンの女の子とも「モロヘイヤー!」と一緒に大喜びできることに、なんだかうれしくなるのでした。
中東料理はスパイスを多用するし、中東菓子は砂糖たっぷり…なかなかまねしづらいイメージを持っていませんか?でもパレスチナの家庭で出会ったこのおやつは、子どもが自分で作るくらい簡単で、日本家庭の食材でささっと作れてしまいます。
パレスチナの冬は寒いです。薪ストーブの前にうずくまりながら、7歳の娘さんが「ねえ、今日も作っていい?」とリクエストするのはサハレップというあたたかいミルクプリンのようなおやつ。
温めた牛乳に砂糖とコーンスターチを入れてもったりするまでかき混ぜるだけの、どこか懐かしい手作りおやつです。
最後にシナモンをトッピング。体がぽかぽか温まります。
「あんまり毎日作りたがるから、たまに香り付けで変化を楽しむの」とお母さん。この日の香りはローズウォーター。レモンの皮やバニラエッセンスもよいそうです。
ストーブの前で肩を並べてサハレップを飲みながら、なぜだか子どもの頃かまくらの中で飲んだおばあちゃんのミルクココアを思い出して懐かしくなりました。
マクルーバやマンサフのような見たこともない料理もあれば、モロヘイヤスープやサハレップのようにどこか親近感を感じる料理も。ごはんを囲んで喜んだりほっとするのは、国を超えても共通なんですね。
遠いようで近い中東の料理、よかったら作ってみてください!
台所探検家。世界各地の家庭の台所を訪れ、世界中の人と一緒に料理をしている。これまで訪れた国は60カ国以上。料理から見える社会や文化、歴史、風土を伝えている。
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