週末のオープン日には長蛇の列。今まで誰も見たことがない、おいしくてかわいくて新しい憧れのチーズケーキは、SNSでも大人気となりました。店主・船瀬洋一郎さんに、創作のヒントや初のレシピ本「A WORKS 新しいチーズケーキの教科書」にまつわるお話を伺いました。記事の最後では、お店のレシピもご紹介します!
実は、そもそも僕がやりたかったのは、アパレルだったんです。セレクトショップの開業資金を貯めるために、建設現場でストイックに働いていました。いよいよ独立しようというときに、組んだ知り合いがカフェもやっていて、まず沖縄、そしてその後、湘南でもカフェを運営することになったんです。
チーズケーキを作り始めたのはそのころですね。今みたいなチーズケーキの片鱗はすでにあって、いちごを挟んだり、それまでになかったものを作り始めていました。味の参考にしていたのは、ケーキ屋さんじゃなくてサーティーワンアイスクリーム(笑)。ベースは同じ乳製品ですし、派手で面白いし、ヒントがたくさんありました。沖縄と湘南の店舗でお互いに特産食材を交換したりして、楽しかったです。
その後、東日本大震災の影響でカフェを閉めることになり、学芸大学でアジア料理とチーズケーキのお店を開店。最初から何種類ものチーズケーキを出してはいましたが、レインボーチーズケーキのアイディアが生まれて発売したところ、爆発的な人気に。
ところが、順調だったこの学芸大学のお店が立ち退きを求められてしまったため、この機会にと、海外に行こうと思ったんです。そこで、とりあえず同じ学芸大学に、およそカフェらしくない倉庫だった物件を借りて移転。ここはラボとして機能させて、チーズケーキの卸売りや通信販売をしながら世界を旅しよう。当初はそういう計画でしたが、ちょっとイートインを始めたらおかげ様で人気が出て……今に至ります。
A WORKSのチーズケーキはとても自由なんです。やっちゃいけないことなんてなにもない。基本のレシピはありますが、それすら、幅広くアレンジできます。例えば、基本のチーズケーキでは、クリームチーズは450gとしましたが、200gのクリームチーズしか売っていなかったら、2つで400gでも大丈夫。焼き時間などを調整すれば、500g使って大きくしても大丈夫です。バニラビーンズやキルシュだって、なければ別の風味をつければいいんですよ。
これは、僕自身が、パティシエの修業をしてきたわけではないので、お菓子作りに対して縛られることがないからできること。閃いたら、即やってみる。だから、新作も次々誕生するし、幻のメニューになったものもあります。
A WORKSのチーズケーキは、なんでもアレンジしてOK! なんですが、やはり、必ずやってほしい工程はいくつかあります。逆にそこさえ押さえてくれれば、おいしく仕上がりますよ。
クリームチーズは室温に戻して、やわらかくしてから使います。戻り切っていないと、卵などそのほかの材料がよく混ざらなかったりするんです。冷蔵庫から出しておき、軽く電子レンジにかけてもいいし、僕たちは計量してラップで包んでおいたものを手で揉んでやわらかくします。手で揉んで抵抗ないやわらかさになればOKです。
作った生地は、面倒くさがらずに必ずこしてください。焼き上がったときの舌触りが全然違ってきます。ざるでもいいんですが、目が粗い場合は2~3回こした方がなめらかになると思います。卵の殻などが入っていないかのチェックにもなりますよ。
A WORKSのチーズケーキは、すべて前日焼いたもの。焼きたてはふるふる揺れるくらいやわらかく、切ることができません。食べておいしいのは翌日か翌々日、キメが細かくなり、しっとりしてからですから、慌てずに。レシピ本にもあるように“食べたくなる前に焼く”も重要なポイント!
チーズケーキの味はクリームチーズの味に左右される部分が大きいです。ですから、好みの味のクリームチーズがあるといいですね。
A WORKSではデンマーク〈BUKO〉のものを使っています。ただし、1パッケージで1.8kgあるので、ご家庭用としては大きいかもしれません。とはいえ、数回作ったら使いきれますし、冷凍もできますよ。
一般的によく売られている〈フィラデルフィア〉や〈雪印メグミルク〉のものは日本人の好みに合った、バランスのとれた味。〈KIRI〉は、酸味がおとなしいので、チーズ好きならブルーチーズや粉チーズを足してもいいかもしれません。
A WORKSでは、粉は小麦粉ではなくて米粉を使っています。アレルギーのお客さまや、グルテンフリーを好む方のために使い始めました。でも、量的にはかなり少ないので、薄力粉でもまったく問題なく作れます。
米粉のいいところは、焼く前に味見ができること。チーズももちろん生で食べられますから、生地の段階で味見ができるんです。焼いてもそんなに大きく変わりませんから、好きな味に調整できるので、その分、チャレンジもできるし、失敗も少ないと思います。
以前、インスタグラムでレシピを公開した時は、焼き時間の質問が多かったですね。140℃はかなり低いので、設定できないというオーブンレンジの方も。そういう場合も、最低温度の160℃で焼き時間を5分くらい短くしたり、天井が低くて焦げそうならアルミホイルをかぶせたり、臨機応変な対応で大丈夫。
「こんなケーキ、どうやって思いつくんですか?」とよく聞かれます。思い返してみると、ほかのカフェやケーキ屋さんからヒントをもらうことはほとんどなくて、例えば、僕は平日でも映画を朝1本夜1本観るんですけれど、そこに出てくる色合いや風景、ときにはエピソードからチーズケーキを思いつくこともあります。ディズニーランドに行くのも、バレエを鑑賞するのも、なんでもインスピレーションにつながるんです。
ファッションもそうですね。レインボーチーズケーキは原宿の当時の女性のファッションから閃いて作ったもの。最近人気のロータスチーズケーキは、ベージュコーデからイメージしました。
お店に来てくれる方たちのファッションの傾向と合わせると、店内で撮る写真の完成度がさらに上がるじゃないですか。「最近、全身ベージュコーデの子が多いな」と思って、そういうチーズケーキを作っちゃう。もちろん、おいしいものを。そうするとSNSでますます素敵に取り上げてもらえるから、ありがたいですね。
新メニューはそんなふうに「どう撮られるか」だけでなく、タグ検索した場合に写真がどう並ぶかまで考えていますね。
今後はインスタライブでレシピ動画を積極的に挙げたり、質問に答えていこうと思っています。作ったチーズケーキはぜひ、ハッシュタグをつけてアップしてくれると嬉しいです。
いろいろなアレンジもできる基本のベイクドチーズケーキのレシピを紹介するので、ぜひみなさんも作ってみてください!