料理研究家 大黒谷寿恵さん この冬注目の映画「武士の献立」は、料理を介して家族の絆を深めていくヒューマンドラマ。画面からは和食のおいしさ、美しさが伝わってきます。まわりの人を笑顔にするコツは、いつもの料理にほんのひと手間かけること。ちょっと頑張るだけで、味は驚くほど変わります。そこで全3回に渡り、料理研究家、大黒谷寿恵さんが和食の魅力とひと手間ポイントを伝授。第3回は、「魚料理」です。
旬の冬、脂ののったぶりを見ると、ぶり大根を作りたい! と思いチャレンジするものの、どうにも臭みが残ってしまって……。魚の臭みは一体どこにあるのでしょうか。
「一般に鮮度のよいものは臭みが少ないのですが、時間の経過とともに魚の中に含まれる成分が分解され、臭いを発生します。その多くは皮の表面のぬめりにあるので、それを取ることでほぼ解消されます。ただし、皮のすぐ下にはうまみ成分があるので皮ごと取ってしまうのはもったいない。そこで昔ながらの知恵をいかした下ごしらえが必要になるのです」。
ぶりを参考に、下ごしらえの方法を教えてください。
「今日は新鮮なぶりのあらが手に入ったので、あらで紹介していきますね。
【1】大きめのぶつ切りにし、塩を全体にまぶす。
この塩は下味ではなく、あくまでも臭み取りの役割をします。また、塩にはたんぱく質凝固作用もあるので、このあと煮る際の煮くずれも防いでくれます。塩の量はたっぷりめ。全体にしっかりまぶして5分ほどおき、ぶりの表面に少し水が出てきたらOK。この間に小鍋に水を入れ、火にかけておきましょう。
【2】熱湯にくぐらせ、氷水にとる。
先にボウルに氷水を用意しておきます。火にかけた鍋がフツフツとしてきたら、ぶりを2〜3切れ入れます。重ならないようにそっと身を動かし、7〜8秒経って表面全体が白っぽくなったら氷水に移して急冷します。具をいっぺんに入れると湯温が下がってしまうので、フツフツ状態を保ち、数切れずつ入れるのがポイントです。
【3】ウロコと血合いを除き、水の中で洗う。
爪で皮をゴシゴシこするとウロコが取れていきます(ぶりのウロコは小さく、生では取れにくいですが、湯通しすることで取れやすくなります)。ウロコを取ることで臭みが取れ、口当たりもよくなります。血合いを見つけたら、これも臭みの原因なのでいっしょに取り除きましょう。すべて除去したら水の中でしっかり洗い、ペーパータオルで水気をふいておきます。
以上で下ごしらえ終了です。文章に書くと大変なように感じますが、これも出汁同様“慣れ”ですので、新鮮なあらが手に入ったらぜひやってみてください。仕上がりの差にきっと驚くはず! あらではなく身の場合は、【2】で熱湯にくぐらせるのではなく熱湯をさっとかけるだけで大丈夫です」。
では早速、ぶり大根の作り方を教えてください!
「大根はひと口大に切り、前回(テーマ/煮もの)紹介したように面取りをしてから、米のとぎ汁でかために下ゆでし、水洗いして再度水からゆでて沸騰したらざるにあげます。それを水と昆布を入れておいた鍋に入れ、酒をたっぷり加えて火にかけます。魚といっしょに煮るときは、ここで酒を加えるのがおいしく作るコツ! 臭みを消し、味に深みが出ます。フツフツしてきたら、下ごしらえしたぶりを加えましょう」。
この場合も味付けは最後でしょうか?
「はい。魚を入れたあとは、アクが出たら取り除きます(下ごしらえをきちんとしていると、ほぼ出ません)。そして大根がやわらかくなったらしょうゆやみりん、砂糖で味付け。そのあと落としぶたをして数分煮て、煮汁を対流させたら火を止めます。粗熱がとれていく間にグッと味がしみ込んでいきます。しょうがは煮るときに加えてもいいですし、最後に針しょうがを盛りつけても風味が立っておいしくなります。お好みで使い分けてください」。
3回の和食の基本連載を通じて、少し面倒だと思っていた“ひと手間”が、料理の味を大きく左右することを実感しました。味付けよりも作り方から、ですね。
「そう気づいていただけたらうれしいです。近頃は便利な調味料がたくさん出てきて、もちろんそれもおいしいのですが、最後にかけるものだけで味を決めるのではなく、下ごしらえでおいしくなるような料理をみんなでできたらいいなと思っています。そうすれば、味付けはシンプルでも十分おいしくいただけるし、それが食材をいかしている(大切に扱っている)ということになるのではないかと思うからです」。
映画「武士の献立」の時代には、下ごしらえやひと手間が味を決める大事な要素だったはず。愛情を持って家族にごはんを作る「ひと手間=気持ちの調味料」が、料理をおいしくする本来の秘訣なのかもしれません。ぜひ、和食の基本を覚えて、日々の料理にいかしましょう!
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料理上手のお春が嫁いだ先は、由緒ある“包丁侍”の家だった……。江戸時代、刀ではなく包丁で藩に仕え、料理で動乱を乗り越えた実在の家族のドラマ。劇中では当時の武家や庶民が食べていたものが忠実に再現され、素材をいかした調理法や華麗な包丁使いまで、観ていて喉がゴクリとなる伝統的な和食の魅力を堪能できる。
映画『武士の献立』公式サイトはこちら
映画「武士の献立」に学ぶ、ひと手間で驚くほど美味しくなる和食のコツ!
まわりの人を笑顔にする料理のコツは、いつもの料理にほんのひと手間かけること。ちょっと頑張るだけで、味は驚くほど変わります。そこで全3回に渡り、料理研究家、大黒谷寿恵さんが和食の魅力とひと手間ポイントを伝授します。
石川県金沢市出身。 大学卒業後、料理の世界へ。
2003年カフェレストランbijurei(東京)で料理長、2004年レストランa.k.a.にて料理長。2006年より音楽プロデューサーの小林武史さんがプロデュースするkurkku cafeにてオープニングよりディレクター兼料理長を務める。2007年6月よりフリーとなり、講師、ケータリング、出張シェフ、レシピ開発を精力的に行っている。2009年より鎌倉に住まいを構え、料理教室「寿家」をスタート。