子育て世代にとっては、やはり気になる「食育」。でも、何から始めればよいかわからない、という方も多いのでは? この連載では、子ども料理研究家・武田昌美さんに、子どもと一緒に料理を楽しむ方法と、料理を通して子どもが得られる成長について、わかりやすく解説してもらいます。日々の料理を親子のコミュニケーションの場に変えてくれる魔法のアドバイスをどうぞ♪
6月に入りました。2019年も折り返しに差し掛かかり、あまりの時の流れの早さに驚きます。じめじめ梅雨の季節がもうそこまで来ていますが、梅雨に入る前の今のタイミングは公園遊びのベストシーズンではないでしょうか? 梅雨入りしたら雨で遊べないし、梅雨が明けたら遂にあの灼熱の太陽が顔を出し、公園の滑り台は熱々の鉄板と化します。想像しただけでも、夏の訪れが怖い……。
さて、最近多いママたちのお悩みで、よく聞くのが「子どもが手が汚れることを極端に嫌がる」ということ。きっと一昔前にはあまりなかったことですよね。
もちろんお砂場遊びも嫌。すぐ手を洗って、消毒もしたい。そんな子どもが確かに多いように感じます。実は、私も足の裏が潔癖症! 幼い頃から、濡れたプールサイドや更衣室が嫌。そうした場所は常につま先立ちで移動していたので、生理的に嫌な気持ち、よくわかります。
ただ、ママとしては「そんなに気にしないで触ってごらんよ」と思ってしまう場面もありますよね。
指先は「第二の脳」とも言われています。手先を使った動きが、脳を活性化させ、多くの領域を刺激するそうです。子どもにとって、手先で何かを感じ取ることは、手をいつも清潔に保っているより得られることが多い場合もあるでしょう。
「これ何だ?」と疑問を持って、咄嗟に手で触ってみて感触を確かめてみる。固かったり、柔らかかったり、温かかったり、冷たかったり。その瞬間に、子どもの脳はさまざまな刺激を受けています。
余談ですが、先日年長さんの娘が紫陽花の葉っぱを悠々と移動するてんとう虫の幼虫(ちょっとグロテスク)を、ふとつかんだ途端に「キャッ!」と手を引っ込めました。頭で考える前に衝動的に触ったものの、あまりの変な感触に、「うぅ…」と触ったことを大後悔している様子でした。
でも見ていただけでは知り得なかった情報を、実際に触ったことで発見できた。気持ち悪い思いをしてかわいそうにと同情した半面、一つ新しいことを覚えたね!と、私は当事者ではないので(笑)、そんな呑気なことを思っていました。
この、手が汚れたくないよー問題。どう解決していくのがいいのでしょうか? 私はお料理はまさに最初の一歩として適していると思っています。
料理教室に通う生徒さんの中に、当初はとにかく手が汚れるのがイヤ!少しでも汚れたらすぐに洗いたい!という綺麗好きの女の子がいました。でも、回を重ねるごとに少しずつ免疫ができて、少しくらい小麦粉が手に付いても大丈夫になっていきました。
数回目のレッスンでのこと。今日のレッスンは、なんと手ごねパン! イースト菌を使わず、ベーキングパウダーを使用したクイックブレッドという部類のパンなので、レッスンでも短時間で完成させることができます。
ただし、このパンは作る過程で生地が手にめちゃくちゃ付きます。ベトベトです。お母様は心配そうに「今日は無理かも……」と嘆かれています。
レッスンが始まり、いざ手でこねるパートへ。すると、その子は勇気を出して恐る恐る手をボウルに入れてこね始めたのです。お母様も私もびっくり! そのまま一生懸命頑張って、こね上げることができました。そして出来上がった途端に手を洗いにダッシュ。まだ抵抗はあるけど、少しずつ克服してきました。
それから1年以上経った今では、もうすっかりへっちゃら。ベタベタの生地だって上手にこねて、さらには、決して踏み入れたことのなかったお砂場へのデビューも果たし、彼女は完全に克服することができました。
この克服ストーリー。手が汚れたくないと思っている子どもに、無理やり触らせて免疫をつけるのではなく、あくまでも子どものペースで、しかもその子がが好きな“お料理”の場面で、自分自身で「触ってみよう」と一歩踏み出せたからこそできたのだと思います。
普段お料理をしないお子さんであれば、最初はレタスを手でちぎる、そんな一歩だって大きな進歩です。「レタス、綺麗に洗ったから、ちぎるの手伝ってくれるかな?」と、「これは綺麗だよ、触っても大丈夫だよ」ということを伝えると警戒を解いてくれやすいです。実際に洗っているところを見せて、安心させてあげてください。
そして、初めは嫌がられても諦めずに、あの手この手で子どもを誘ってみてくださいね。何事も初めが一番ハードルが高いので、どんなものなら子どもも楽しんで触れるか、ママも一緒に考えてあげてください。
さて、少しずつ手で触れる食材が増えてきたら、コネコネ楽しいパンにも挑戦してみましょう。
先程のレッスンで使用したクイックブレッドのレシピがこちら。発酵なしですぐにできるので、週末の朝にもぴったりです。これができたら、もう手が汚れたくないよー問題も克服したと思って大丈夫! お砂場へgo!です。
もし、最初からいきなり手で混ぜるのを嫌がるようでしたら、生地をスプーンで混ぜながらやってみてください。スプーンではだんだんまとまりが悪くなって、ついつい作り上げるために手でこね上げていきたくなってくるはずです。
前述した通り、生地が手に付くので、子どもの手がウーパールーパーのようになったらスプーンですくって取ってあげてくださいね。
自分のタイミングで、自分で苦手を克服する。人から強制されるのではなく、自分で納得してやることはとても大切です。命の危険がないことと、人を悲しませること以外は、失敗したっていいし、回り道だってたくさんしながら、自ら答えを導き出していってほしいと私は思います。
大人が教えるのは簡単、でもすぐ忘れてしまうもの。一方で、自分で唸りながら導き出したことは、子どももストンと腹落ちして、その行動に責任を持てるようになります。子ども自身の気持ちを一番に尊重しながら、大人は子どもが解を出しやすいようなアシストをしてあげることが大切なのではないでしょうか。
リトルシェフクッキング(株)代表取締役。フランスで料理の修行をしていた父の影響を受け、幼少の頃から料理に興味を持つ。航空会社にて客室乗務員をしながら、各地の料理や文化に触れ、知識を深める。2人の子どもの親となり、多くの子どもたちに料理の楽しさ、食の大切さを伝えていきたいと強く願い、2歳児から始められる料理教室を主催。保有資格は、フードコーディネーター、スパイスマイスター、食品衛生責任者。2019年3月、子どもが一人一人料理できる料理教室『リトルシェフクッキングEduCooking Lab』を東京都世田谷区にオープン。
【HP】https://little-chef-cooking.com/(ご予約はこちらから)
【Instagram】@masamis__kitchen
【ブログ】子ども料理研究家 武田昌美の食育ブログ
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