クックパッド初代編集長であり、自他共に認める料理好き・小竹貴子のエッセイ連載。誰にでもある小さな料理の思い出たちを紹介していきます。日常の何でもないひとコマが、いつか忘れられない記憶となる。毎日の料理が楽しくなる、ほっこりエピソードをどうぞ♪
新生活応援という言葉を耳にする季節になると、いつもあの漫画を思い出します。 ときは、バブル崩壊後の30年前。私は、郷里金沢にある公立高校を卒業して、兵庫県西宮市にある大学に入学し、はじめての一人暮らしをスタートしました。
お恥ずかしいことに、子どもの頃から、炊事や洗濯あらゆる何もかもを母や祖母に任せっきりで生活してきただけに、一人暮らしをしてからようやく、何もかも一人でやるということがこんなに大変なことかと気づきました。一緒に住んでいる時は何も思わなかったのが、本当に不思議なくらいです。
何より苦労したのは食事。 これまでは朝起きれば、炊きたてのごはん、味噌汁、魚に小鉢が当たり前のように並んでいましたが、今ではそんな日々は夢のような世界だと気づきました。 私の大学時代の食生活をご紹介しますと…朝は学校の近くに住んでいたこともあり、授業スタートギリギリに起きて、インスタントコーヒーと食パンにバターを塗ってバタバタ食べて大学へ。昼はいつも学食でごはんを食べ、午後の授業を終えて、アルバイトへ。当時は複数のアルバイトを掛け持っていたのですが、週に2日は家庭教師をしていました。その時は教え子のお母さんの手作りの晩御飯が出たのでよかったのですが、それ以外の日は、買ってきたお弁当を食べる生活。そんな毎日でした。
最初のころは、スーパーやお惣菜屋さんでごはんを買ってきたものを食べるという生活も、なんだかちょっと新鮮で、今日はあのお店のお弁当にしようかなと考えたりもして楽しんではいたのですが、1年くらいすると飽きてしまいました。今ほどコンビニもメニューのバリエーションがない時代ですし、気がつくと揚げ物中心になっちゃうので、なんとなく辛かったですね。
そんなある日、コンビニで手にとった1冊のお料理漫画「セイシュンの食卓」。この本が、私の料理熱にスイッチを入れてくれました。 その本には、冷凍食品やレトルト食品といったコンビニで買える商品をベースとして作る、驚きの超簡単料理が紹介されていました。
わたしがよく作ったレシピをちょっと紹介すると、コンビニのおでんを汁多めで購入し、そこに冷凍うどんを加えてつくる”おどん”や、レトルトの冷蔵ハンバーグと豆腐をつかって作る、洋風の麻婆豆腐のようなおかず”洋風まあぼう”など。ネーミングも楽しいですし、超簡単で、レシピも超適当なのが、はまった理由です。
同年代の方は、私も読んでた! という方も多いのではないでしょうか。結構売れた気がします。 先ほどもお話したように、私は実家にいたときに料理をまともにしたことがなかったので、普通のレシピ本を見ても何を書いているのかさっぱりわからないくらい、料理力が低かったのです。料理というと適当に野菜を切るくらいしかできなかった私でも、「できる料理があった」ととても感動しました。著者のたけだみりこさんには、いつか本当にお礼が言いたいです。
おうちにある材料を、ざくざくと切って、味見しながら自分の舌を信じてお料理する。 アルバイトを終えてから、夜遅くにコンビニに入りアイデアを膨らませて夜な夜な実験のような料理をするのがとても楽しくなりました。振り返ると当時はまったのは、ゆでた冷凍うどんの水気を切り、水煮のツナ缶と大根おろしをのせて、オリーブオイルをかけて食べる、ツナおろしうどんですね。 適当に調理するので味つけの失敗もしょっちゅうあったのですが、なんだかそれも楽しくて、夜中にそれを食べながらひとり爆笑してたことよく覚えています。
もうすぐ春。 料理をはじめるひとも多いと思います。まずは適当料理からでもいいんじゃないかな。 私も最近はちゃんとした料理が多くなってたので、久しぶりに適当料理やっちゃおうかな。
クックパッド株式会社ブランディング・編集部担当本部長。1972年、石川県金沢市生まれ。関西学院大学社会学部卒業。株式会社博報堂アイ・スタジオを経て、2004年に有限会社コイン(後のクックパッド株式会社)入社。編集部門長を経て執行役に就任し、2009年に『日経ウーマン・オブ・ザ・イヤー2010』を受賞。2012年、同社退社。2016年4月から再びクックパッド株式会社に復帰。現在、日経ビジネスオンラインにて『おいしい未来はここにある~突撃!食卓イノベーション』、ヘルスケアメディア『Rhythm (リズム)』にて『マラソンチャレンジ連載企画』を連載中。また、フードエディターとして個人でも活動を行っている。