世界中の台所を訪れて現地の人と料理をする台所探検家・岡根谷実里さんが、各地の家庭料理をお届けします。
今回は、ヨーロッパのウィーンからお届けします。
街を歩くといたる所にコンディトライ(お菓子屋さん)やカフェハウス(コーヒー店)があります。ウィーンのカフェ文化はユネスコ無形文化遺産にも登録されていて、人々の暮らしの一部となっています。
創業以来150年変わらぬレシピで作り続けているという老舗のチョコたっぷりケーキは、どっしり濃厚なおいしさでした。
おいしさの秘密は「たっぷりのチョコレートとバター」だと支配人の方が教えてくれました。
かつてのヨーロッパでは、希少な砂糖やカカオをとにかく贅沢に使うことが豊かさの証。特にオーストリア帝国を治めたハプスブルク家の人々のカカオ好きは大変なもので、当時高価だったカカオの輸入は宮廷財政を圧迫していたといいます。それでもやめられなかったのだから、おいしいものに盲目になるのは時代を超えて身分を超えて同じなのですね。
そんな歴史を感じるケーキを味わったあと、でもやっぱり家のレシピを教わりたくて、74歳のエリザベートおばあちゃんの台所を訪れました。彼女のチョコケーキは一家みんなに愛されていて、おばあちゃんのおばあちゃんから引き継いだレシピでもう何十年も作り続けているといいます。
「孫たちの一番好きなケーキなんだよ。クリスマスにもイースターにも誕生日にも作っていて、一度に3つ焼くことだってある。みんなおかわりするから一つじゃ全然足りないんだよ。あの子なんて他のケーキ作ってもこれしか食べないんだから」と壁にかかったお孫さんの写真を指差して自慢げな様子。
おばあちゃんのレシピは難しくないけれど、分量にはなかなか手厳しい。材料を計るとき1gでも足りないと「もっと!」と横から手が飛んできます。
「おいしいケーキにはたっぷりのチョコレートとバターが大事なの!控えるくらいなら食べないほうがまし!」。
焼いたあとにはチョコとバターたっぷりのコーティングをまんべんなくかけます。
おばあちゃんのレーリュッケンは、細部はだいぶおおざっぱなのに、最後にアーモンドで繊細な飾りを施します。
家族の中で育まれたケーキは、やさしく、美しく、そして贅沢においしい。濃厚なのにふんわり軽く、本当にいくらでも食べられてしまいます。100年変わらぬおいしさは、ボロボロになった手書きのレシピも保証しています。
伝統のカフェとおばあちゃんのケーキは一見別物ですが、大事なことはどちらもおなじ。たっぷりのチョコレートとバター、これがウィーンのおいしいケーキに普遍の鉄則でした。
おばあちゃんのレーリュッケンはこちら。今日ばかりはダイエットなんか考えず、贅沢に作ってみてください!
(※編集部注)
この記事は岡根谷実里さんの公式ブログより、一部編集したうえで転載しております。
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台所探検家。世界各地の家庭の台所を訪れ、世界中の人と一緒に料理をしている。これまで訪れた国は60カ国以上。料理から見える社会や文化、歴史、風土を伝えている。
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